表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1313/1485

出立予定

 すんっ、とハルカが鼻をすする。

 目じりに涙がたまってしまったので、少しだけ上を向いて袖で目を擦った。

 いつもあんな感じだけど、ヴィーチェは本当に仲間のことを大切にしているのだなと、感動しての涙である。

 コリンは笑い、ユーリは心配そうにハルカの顔をのぞいている。

 気づいたハルカはユーリの頭を軽く撫でて立ち上がる。


「あとはどう断わるかですね」

「あ、そうですね。とても良い方なので、なんというか、申し訳ないですが……」

「今ってどんな状況なの? 断ってもしつこく言ってきてるのなら結構面倒そうだけど」


 付きまとい、と最初に聞いてしまったせいであまり良い印象はない。

 聞くうちにそこまで無茶なことはしてこないタイプなのではと、印象は少し変わってきているけれど。


「……一度お付き合いをお断りしました。次は求婚をされましたが、そちらについても結婚は考えられないとお断りしています。それでも気持ちが変わるまで待つとおっしゃって、毎日のように店に通って下さっている状況です」

「他の子たちからすると羨ましい状況なんですわ。昔からラジェンダを知っている子ならばともかく、大人になってから私がお世話している子なんかは、事情もあまり知りませんの。接触を避けるように、と通達しているのが、却って気持ちの上でも距離も作ってしまっているようで……。私にも責任はありますわ」


 ヴィーチェなりにラジェンダのことを気にしてルールを作ってきたのだろうけれど、それが裏目に出ることになってしまったのだろう。ハルカから見ればなんだって器用にこなすように見えるヴィーチェにも、うまくいかないことはあるのだ。


「難しいねー……。確かにさ、家業もなくて夜のお店で働いてたら、ちゃんとした人からの求婚って嬉しいもんね。それもそんなに情熱的に来られたらさ」

「私が普通だったら良かったんですが……」

「あー、ごめん! そういうんじゃなくて、ほら、物語とか読んでると憧れとかあるじゃない! 気にしないでね!」


 コリンは失言に慌てて手足をばたつかせてフォローした。

 昔から物語が好きだったコリンには、そういった報われない人が結婚して幸せに、みたいな話にも憧れがあるのだろう。

 普段気軽にボディタッチをするようなコミュニケーションをするせいか、近づいていこうとしてから、はっと気づいて立ち止まり、ラジェンダのちょっと手前でわたわたとしている。

 滑稽な動きであったが、笑ってばかりはいられない。


「断りに関しては、今日の夜に付き添ってやっておきますわ。そうですわね……、病気を治すために、縁戚を頼って引っ越すことになった、みたいな筋書きにしておきますわ」

「そうですか。引っ越しはいつ頃に?」

「気持ちは決まっていますので、今晩以降でしたらいつでも構いません」


 きりっと引き締まった表情は、決意の表れのようにも見えるが、実のところは心が揺らぐのが心配なのだろう。揺れる瞳になんとなくそれを感じ取ったハルカは、提案を持ち掛ける。


「……早い方が良いのであれば、明日にでも出発できますが」

「あ、明日ですか」


 何度も瞬きをするラジェンダに、どうやら性急すぎたことを悟るハルカ。

 これまでは冒険者や危機的状況にある人とのやり取りが多く、普通に街で暮らしてきた人の感覚があまり理解できていないハルカである。

 ラジェンダは、街から離れて遠い地で暮らすのだから、二度とは戻ってこられないと覚悟をしている。いくら早くと言っても、今日明日と言われるとやっぱり驚いてしまうのは仕方がなかった。

 その感覚のずれがどうにも冒険者らしくて、ヴィーチェは苦笑する。

 初めて会った時のハルカであれば、ゆっくり半年以内に、なんて言いだしそうなものだったが、いつの間にかすっかりと冒険者に染まったものだ。


「次に目的地へ行くときに迎えに来てくださればいいですわ。いつでも行けるよう準備して、私も予定を空けておきますの。大体いつ頃になりそうですの?」

「あー……そうですね、早くて数日中。遅くとも半月以内には」

「ではそれでお願いしますわ」


 話は決まった。

 あとは拠点へ戻るだけと「では……」と切り出したところで、ヴィーチェはハルカの腕をするりと捕まえた。


「何か急ぎの用事でもあるんですの?」

「いえ、特にはありませんが……」

「それなら今晩はちょっと付き合っていってほしいですわ。コリンさんだってお相手の騎士の方、どんな方か気になるんじゃなくて?」

「あー……、確かに……」


 あまり首を突っ込むのもなーという気持ちはあるようだが、めちゃくちゃ気になるという好奇心も隠せていない。目が左右に泳いでいるのを見て、交渉以外の時は随分と正直だなぁとハルカは笑ってしまった。


「いいお酒もそろえてますのよ? たまには一緒に楽しみませんこと? もちろんお代は結構ですわ」

「……ええと、ユーリもいるのですが、その辺りは大丈夫でしょうか?」

「あら、いかがわしい店ではありませんわよ? 健全な、お客様に気分良くおしゃべりしていただくお店ですの」

「ぜひ、お越しください。歓迎させていただきます」


 ラジェンダにまで頭を下げられると、なおのこと断り辛い。

 もともと悪くない話でもあったので、ハルカは「それじゃあ」と、二人の誘いに乗ることにしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
気持ちが変わるまで待つとか言ってるくせに毎日押しかけるって早く答え出せって圧かけてるのと変わらないのでただのクソ野郎ですね( ᐛ )
最初に話が出た時からなーんとなく件のお相手はあの人かなって気はしてるんですよね… 凄くそれっぽい。
女性が好きなの とかじゃだめかな? 二度と会わないならいいのかも 上の方も…ねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ