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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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たまには真面目に

「…………〈混沌領〉内で、コボルトがたくさん住んでいる場所を知っています。いえ、仲良くしています」

「話の流れからしてそうだと思いましたわ。安全ですの?」


 嫌悪感は表情から読み取れない。

 交渉事だって苦手ではないだろうヴィーチェだから、表面に出るものが全てとは限らないだろうけれど。


「コボルトは、素直で勤勉で……、なんというか、本当に喋って働けるようになった飼い犬を想像してもられば、そのままです。共に暮らすことに危険はないと思います」

「ハルカさんがお勧めしてくれた時点で、コボルトが安全なことはもうわかっていますわ。そうではなく、地域的に安全なのかと。〈混沌領〉には他の破壊者ルインズもたくさん暮らしているのでは? 穏やかな種族が安全に生きて行けるとは思えませんわ。それとも、ハルカさんが守って下さっているのかしら?」


 最初の言葉からにじみ出る信頼が少しだけ嬉しく、続く言葉にさらに説明を付け加えなければならないことが悩ましい。ハルカは視線を天井に向けながら、次に何を説明するべきかを考える。

 ヴィーチェは急かすことなくハルカの言葉を待った。


「……つまり、混沌領に住む破壊者ルインズたちの多くと仲良くなりまして」

「どんな種族がいますの?」

「………………先ほどの話に出てきた種族ですと、巨人とか、ガルーダもですね」

「大丈夫ですのね」

「ええ、大丈夫です。そもそも街に主に住んでいるのはコボルトですし」

「街?」

「あ、えーと……。かなり悪い吸血鬼が支配していたかなり立派なコボルトの街がありまして、吸血鬼を討伐したことでそこを引き継いだというか……。あー……、流れで色々とありまして、リザードマンであったりケンタウロスであったり、ハーピーとか、ラミアとか人魚もですね、仲良くなりまして。皆さんその街のあたりで仲良く暮らしています。かなり豊かな土地ですし、人が一人くらい増えても歓迎してもらえるかと」


 話し始めれば連鎖的に伝えなければいけないことが増えて、でるわでるわ、言ってはいけないことが濁流のようにあふれ出てくる。


「よくわかりましたわ。温厚なハルカさんがどうして神殿騎士と揉めたのかも」


 ヴィーチェの反応はやはり先ほどと変わらなかった。

 聞いているうちに先の予測もついてきていたのだろう。

 あるいは、少しぐらい何かの噂で聞いていたのかもしれない。


「……お騒がせしています」

「随分と大事ですわね。言葉を交わしたら見捨てられなくなった、みたいな感じかしら?」


 想像するに容易かったのだろう、ヴィーチェはいつものような鼻の下を伸ばした笑いではなく、上品にころころと笑いながら尋ねる。


「遠からずと言ったところです……、いえ、はい、結局ほとんど話してしまったので全部話します。聞いても何かを協力してほしいというわけではなく、外に漏らさないで下さればそれで結構ですので。きっかけはリザードマンの里で力比べのような事をしたことだったのですが、紆余曲折ありまして、その辺りの破壊者ルインズたちをまとめる立場にいます」

「コボルトたちはハルカのこと王様ーって呼んでてかわいいんだよねー」


 言いにくい身分の話をコリンがぽろっと漏らしてくれたので、ハルカは黙って頷いた。


「王様というのはコボルト以外も?」

「そうですねー。北の方に住んでいるガルーダとか花人アルラウネ樹人ドライアード辺りは協力関係って感じ? だから今は西の方にある森林以外は大体平和。あ、あと海にたまに半魚人ダガンがいるのが厄介なくらい」


 それだって滅多なことではあの湾まで入ってこないだろうし、坂道を上って街へ向かう間に干からびてしまうことだろう。そもそも武器を持ったコボルトたちは意外と強い。


「……気になることがありますわ。ラジェンダはそこでやることがあるのかしら。あんな感じだからできないことも多いけど、それを補って余りあるほど優秀で真面目な子なの。恩を受けるだけではきっと気に病むと思いますの」

「あ、それに関しては手伝っていただきたいことがあります。コボルトたちは指示さえ出してあげればよく働くのですが、自分で判断をすることが得意でない傾向にあります。今はたった一人でそれをまとめている状態なので、その手伝いをしていただけたらなと」

「誰がまとめてますの?」

「あ、えーと……。一応、人、えーと、人です。ただ、あまり他人と関わりたがらないので、ラジェンダさんとは相性がいいかと思います。困ったことがあれば、私が頼りにしているニルさんというリザードマンもいますし」


 ヴィーチェはしばし口元に手を当てて考え、それからこくりと大きく頷いた。


「私からラジェンダに引っ越しを勧めてみますわ。ただ、ラジェンダをその街に連れていくときに、私も連れて行ってくださらないかしら? あの子がこれから生きていく場所を見ておきたいんですの」

「ナギの背に乗っても数日かかります。それでも良ければ」

「決まりましたわね」


 手を叩いて立ち上がったヴィーチェは、外で待っているラジェンダを呼び戻す。

 ラジェンダは先ほどと変わらず不安そうに、ハルカの顔色を窺うようにして部屋へ入ってきた。

 立ったまま、ハルカたちの前で二人は正対する。


「ラジェンダ。引っ越し、お勧めしますわ。細かい説明はできませんけど、私を信じられるのなら、最初は一緒についていってあげますわ。すぐには決められないでしょうから……」

「いえ、行きます」


 意外なことに、ラジェンダは首を横に振って即決した。

 ヴィーチェが驚いて目を見開くと、ラジェンダは苦笑して語る。


「私、部屋の外で考えていました。ハルカさんがどんな人か、色んな人から聞いてます。そんな人がわざわざやってきて、私のためにこんなに時間を使って考えてくださっているんです。なにより……、ヴィーチェさんがそう言うのなら、私は信じられます。これまでずっと、ヴィーチェさんが私を育ててくれたんですから」

「…………ラジェンダ」


 ラジェンダは一歩踏み出して、両手でヴィーチェの右手を取った。


「こんなに面倒な子だったのに、ずっと見守ってくれて、ありがとうございます……っ」


 ほんの数秒すると、額からジワリと冷や汗が浮き出してきて、ラジェンダは手を離した。少しばかり顔色も悪い。


「すみません、本当はもっと……」

「いいんですの。立派に育って私も嬉しいですわ」


 二人の間には確かに距離があった。

 でも、心の距離は見えているよりもずっと近くにあるようである。


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― 新着の感想 ―
ラジェンダさん、きっついなぁ。大変… でも人以外は大丈夫ならやっていけるさ!頑張れ!
恩人相手でも手での接触が数秒しか無理なあたり人の中じゃ結構生きにくい感じですね そういう意味ではノーマーシに住む方が向いてそうではある
ヴィーチェさんはこの世界の常識から考えるとかなり柔軟な人だねぇ。 そして思いのほか親だった。
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