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拠点へ戻ると、ばらばらと仲間たちが集まってきてハルカたちを出迎える。
「おかえりー。結構かかったね」
ぱたぱたと出てきたコリンがエプロンをつけていたことで、ちょうど夕食の準備をしていたことがわかる。結構かかったと言っても精々十日程度だ。ナギのお陰で遠出も随分と楽になったものである。
「ちょっとバルバロ領にも寄り道を、っと」
「おかえりなさい」
状況を説明しているとユーリが走ってきたので、体をかがめて抱き上げる。
年齢的にはそろそろ四歳になるけれど、身長はすでにハルカのお腹辺りくらいまである。見た目だけで判断するのならば十歳前後だろうか。
ぎゅっと抱き着かれて、ハルカは背中をポンポンと叩いてやる。
今回は留守番の仲間たちも多かったはずなのに、なぜだかいつもよりも甘えん坊になっている。かわいらしいけれど、寂しい思いをさせてしまったかと少しだけ心配だ。
「お、また知らねぇ奴いるな」
「へー、今回は一人しか連れ帰ってこなかったんだ」
トロウドの周りにアルベルトとモンタナ、少し遅れてコリンも集まっていく。
「や、どうもどうも。バルバロ様から派遣されてきた航海士のトロウドってもんです。ここに来ればあちこち見て回れるって聞きましてね」
「ここには、一人しか連れ帰ってないだけだよ」
イーストンがコリンに一言残してさらりと拠点の方へと歩いていく。
コリンの視線が自分に向いてハルカは苦笑する。
「港の方の村に、バルバロ領から漁師さんの一族二十四名が移住してきています。テセウスさんという、ちょっと頑固ですがしっかりした方がまとめてくださっているので、少しずつ人を受け入れていければなと」
「へぇ、漁師さんかー。ハルカって魚好きだもんね」
「あ、いや、別に私が魚を食べたいから来ていただいたわけではないんですが」
「ほんとかなー?」
「本当ですよ。経緯はまたお話しします」
すっかり食いしん坊キャラである。
どうやらちょっとその傾向があるらしいことは、ハルカ自身認めているから反論はしないけれど。
「あ、私夕食作ってる途中だからまたあとでね。ハルカたちも食べるでしょ?」
「あ、すみません。こんな時間に帰ってきて」
「いいのいいの」
エプロンを翻してコリンが拠点へ帰っていく。
シャディヤとナディムの姿が見えないから、火元を任せて出てきたのだろう。
大人数の食事を用意するのは中々に重労働なのだ。
ばらばらと拠点に戻り、ひとまずトロウドに拠点の部屋を一つあてがう。
荷物を置いてもらって、夕食までに拠点で暮らす人たちに紹介をして回る。
コミュニティとしてもだいぶ大きくなってきたので、ぐるりと回る頃には外がすっかり暗くなっていた。
ナギは拠点に残っていた中型飛竜たちとぎゃおぎゃおおしゃべりしているようだ。
ここ以外で見れば大騒ぎになりそうな光景だが、ハルカたちの中ではいつも通りの平和な光景である。飛竜便の竜たちにもちゃんと挨拶をしにいっており、竜たちの関係は極めて良好だ。
そのうち中型飛竜を一体、港のある村にも常駐させておくべきだろう。
彼らは賢いので、ナギが話せばわかってくれるはずだ。
それぞれ夕食をとって、夜には改めて冒険者である仲間たちと火を囲んで今回の旅の報告をする。テセウスたちの話もあったが、主な話題は今後の〈北禅国〉への対応だ。
ハルカの障壁に乗って海を渡り奇襲を仕掛けることは決定事項。
途中島で休憩を挟みながら、まずは近くの国に降り立ち、宵闇に紛れて〈北禅国〉へ乗り込むことになる。そのために海に詳しいトロウドを連れてきたところまでの話を済ませる。
「といったところで……、一緒に向かう面々を決めます。決まっているのは私と〈北禅国〉からやってきた皆さん。それにトロウドさん。争いごとになるのがわかり切ってますから、カーミラは留守番した方がいいでしょうね」
カーミラはハルカの方に寄りかかったままうんうんと大きく頷く。
【神龍国朧】は聞くだけでもめちゃくちゃ物騒な国だ。いくらハルカが行くと言っても、頼まれない限りはお留守番していたい。
「エニシさんも存在が明るみになるのを避けるために留守番。リョーガさんも他勢力の争いになるのでこちらに残るそうです。あ、あとレジーナは行くそうです」
話の中にはレオとテオも混ざっているが、黙ってその行く末を見守っている。
彼らがやってきたのは神殿騎士たちへの対応をするためなので、基本的には拠点から離れるようなことはない。
「俺は行く」
「なら私もかな」
「僕もです」
アルベルトたちが表明。
そこで参加の声は止まったがユーリが何かを言いたげに一瞬口を開く。
すぐに俯いて口を閉じてしまったが、ぐるりと仲間たちの顔を見ていたハルカはそのことに気づくことができた。もちろん気づいたのはハルカだけではない。
そこでぷかぷかと浮いていたノクトが腕を伸ばして大欠伸をする。
「さて、今日はもうこの辺にして休みましょうかねぇ。旅の疲れもありますし、細かいことは寝て起きて、頭をすっきりさせてからでもいいんじゃないですかぁ?」
「……そだねー、じゃ、また明日! 解散!」
ノクトの提案に続いてコリンが立ち上がれば、それぞれがばらばらに立ち上がって火の周りから立ち去ろうとする。
その時だった。
「ユーリ、何か言いたいことあんじゃねぇの」
同じくユーリが何か言いたそうにしていたのに気づいていたアルベルトが声を上げた。コリンは足を止めたけれど、アルベルトの言葉を止めることはしなかった。
ノクトやコリンは、人が減ればユーリもしゃべりやすいかと慮ったけれど、アルベルトはアルベルトで、ユーリのことを気にして話を切り出したとわかっているからだ。
軽くため息をついてコリンは改めてアルベルトの隣に腰を下ろす。
ノクトもその場にとどまって、空を見上げながらユーリの言葉を待つことにしたようであった。