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海の男たち

 できるだけ海沿いを通って空を飛んでいく。

 これは連れてきたテセウスをはじめとした漁師たちのためだ。

 海の様子がわかればこれから先の漁に役立つ。


「なかなか面白い形をしているな。陸に食い込むように海が入り込んでいる。色からして深さもそれなりにありそうだ。でけぇ貝なんかもいそうだな。漁には苦労しねぇ」

「お眼鏡にかないそうでよかったです。家を再建している最中ですので、しばらくは拠点の方で過ごしていただくことになりそうですが……」

「いらねぇ」

「え?」

「家と小舟くらい自分たちで用意すらぁな。そんなことより海から離れた生活のが我慢ならねぇよ」


 頑固な性格はよく知っているから、強がりで言ってるんじゃないかとハルカはテセウスの表情を窺った。しかしその顔は随分とすっきりしており、そんなつもりはなさそうに見える。

 困って子供たちを見ると、そのうちのひとりが笑った。


「親父がこういったら聞かねぇんすよ」

「そうそう。私たちなら大丈夫だから、海の近くに下ろしてよ。一応安全なんでしょ?」

「壁で囲んでありますし……、一応万が一の場合の護衛もいますが……」

「何から何まで世話になってちゃ名が廃る。移住したってな、俺は恩を忘れたわけじゃねぇんだ。役に立つってところを見せてやらなきゃならねぇ」


 これ以上何か言ってもまたテセウスの眉間の皺が深くなるだけだ。

 ハルカは頬をかいて話を切り上げることにした。

 本人たちが大丈夫だと言っているのだから、それを信じてみることも必要だろう。

 判断は少したってからでも遅くはない。


 数日の空の旅を経て、ハルカたちはアバデアたちが働く港まで戻ってきた。

 ナギの姿が見えるとそれぞれ皆手を止めて空に向けて手を振る。

 壁の中に降り立てばわらわらと四方から人が集まってきた。


 一応村で暮らす仲間がいることはすでに説明が済んでいる。

 それでも北方大陸では割と珍しいドワーフと小人の姿を、テセウスたちは珍しそうに観察していた。


「なんじゃ、随分と日に焼けたいい男を連れてきたもんじゃな」


 アバデアが短い腕を大きく広げてテセウスを歓迎する。

 海で生きる者同士、何か通じるものがあるのだろう。

 テセウスも数回瞬きをしたのち、にかっと笑って白い歯を見せた。


「なんだ、てめぇも立派な腕をしやがって。網を引くのに大層役立ちそうじゃねぇか」

「はは、儂がひくのは帆だ。大型船の船乗りじゃからな」

「その割にどこにも大型船がねぇようだが」

「今作っとる! ついでにお前さん用の小舟を作ってやっても良いぞ」

「それくらい自分で作るわ」

「ほう、儂ら船大工だが、本当に頼まなくていいのか?」


 アバデアとテセウスは正面から睨みあう。

 相手の実力を探るように。これからうまくやっていけるのか探るように。

 ハルカはハラハラとそれを見守っていたが、長いこと一緒にやってきた小人のコリアは馬鹿らしいとでも言うように肩を竦めただけだった。


「やりてぇってんなら頼むぜ。代わりに毎日新鮮な魚を食わせてやる」

「おう、でけぇ口きくじゃねぇか。言い訳できないくらい良い船用意してやるよ」


 どちらが先かわからないが、差し出された武骨な手を握り合う二人。

 何か根本的な部分で通じ合うものがあったようだ。

 

「ようし、そんじゃあ港予定地を見せてやる。簡単な桟橋はできたから、そっから小舟くらいは出すことができるじゃろう。明日一日寄こせば、ちょっと漁に行くくらいのもんは用意してやるからな」

「おう、案内しろ。俺はテセウス、お前の名前は?」

「アバデアだ。よっしゃ、ついてこい」


 アバデアと数人のドワーフ。

 それにテセウスと漁師の子供たちが後に続いていなくなる。

 まったくもって自由人たちだ。


「悪いね。こっちの作業は順調だから安心しなよ」


 代わって話し始めたのはコリアだ。


「いえ、こちらこそ。急に人を連れてきてしまってすみません。彼らは【王国】のバルバロ領から移住してくることになった、ここの村人になります。近いうちに追加で食料を運んできますので、それを保管できる場所を用意してもらえますか?」

「ああ、やっとくよ。それにしてもさ、ハルカってどこかに出かける度、新しい住人連れてきてない?」


 いつも仲間たちに言われていることを、ついに比較的新しめの住人であるコリアにまで言われてしまった。

 ハルカは目を逸らしながら「不可抗力で」とごにょごにょ言い訳をする。


「ま、あんたおせっかい焼きだからね。みんな助かってるしいいんじゃないの? そのお陰で俺たちもまた、船乗りとしてやっていけるわけだしさ」

「そう言っていただけると」

「もっと堂々としなよ、悪いことしてるわけじゃないんだから」


 コリアがあきれ顔で人差し指をハルカの顔に向けた。

 背が低いから、少し上を向いてしまっていて態度の割に高飛車という感じはしない。


「気をつけます」

「だからさぁ……。ま、いっか、これもあんたらしいし。ええっと、護衛は連れて帰るの?」

「あー、そうですね……、どうしましょうか」


 ハルカが考えているとまた無精ひげを生やしてしまっているリョーガが軽く手を挙げて質問してくる。


「今回の旅の成果も聞きたいでござる。決めるのはその後でも良いのでは?」

「そうですね、ではちょっとお時間を。あ、皆さんは村を見て回ってもらって大丈夫ですので」


 ハルカはテセウスの子供たちを解散させると、適当な場所に円座を組んで、リョーガとレジーナに今の状況を伝えることにするのだった。

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― 新着の感想 ―
カラっとして気持ちがいいな海の男! キツイ酒でも差し入れしてあげたい
レジーナは朧行きたがりそうだなぁ 暴れたりねぇとか思ってそう
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