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竜の獣人

「あぁ、いえいえ、僕が特別に小さいんですよぉ。むしろ獣人の皆さんは人の皆さんより体ががっしりとしている者の方が多いです。一応随分前に成人をしたので、これ以上大きくならないのでしょうねぇ」


 ポヤポヤとした様子でのんびりと話すノクトは、ギーツの言葉を気にしている様子はなさそうだった。

 ちらりと横目でモンタナを見ると、こちらもやはり気にしちゃいない。ハルカの反対側にまわっていて、アルベルトの顎をつついていた。


「へぇ、モンタナと同い年くらいかな?」


 コリンがベッドを挟んで並んでいる二人を見比べて呟く。動きを見ているとモンタナの方が子供っぽいが、見た目だけで言うならどっこいだ。高めに見積もっても十代半ばくらいにしか見えない。


「ああ、いえ、僕はもうずいぶんおじいちゃんなんです。そちらの若い子と比べたら申し訳ないですよ」

「おじいちゃん、ですか?」


 どう見てもまだまだ若い。肌にも張りがあるし、下手をしたら部屋にいる中では一番若く見えるくらいだ。


「はいはい、正確には覚えていませんが、もう百歳を超えていますからねぇ。おじいちゃんです。そんなに若く見られると恥ずかしいですね」


 えへへと照れ笑いする姿をみて、実年齢を当てられるものなどいるだろうか。

 ハルカはこの世界の人々の寿命についての知識を思い出す。獣人は多少のばらつきはあれど、基本的には人と同じくらいの寿命だったはずだ。

 ノクトの年齢と容姿は明らかにそれを逸脱している。


 クダンと言い、彼と言い、常識からは考えられない見た目をしているのは身体強化のせいなのだろうか。

 しかしノクトが身体強化で激しく動く姿は想像しにくい。

 それに彼は治癒魔法が得意なはずだ。魔法が得意なものは、基本的に身体強化が苦手だとレオが話していたような気がする。

 考えるほど訳が分からなくなって、ハルカは首を傾げたまま黙り込んでしまった。


 バタンとノックもなくドアが開き、赤い服を着た男が入ってきて、部屋の中をぐるりと睨みつけた。


「なんだ、お前らか」

「あれぇ、クダンさん、どうしたんですか?」

「どうしたんですかじゃねえんだよ、もうちょっと危機感持っとけ」

「いたた」


 ずかずかと部屋に入ってきて、クダンが間延びした返事をしたノクトの頭を軽く叩く。


「お前も、勝手にこいつのいる所に人通してんじゃねえよ。やばい奴だったらどうすんだ、あ?」


 クダンに睨みつけられたギーツが、息をのんでびしっと気を付けしたまま固まった。ギーツはクダンが自分の父と知人であることは知っていたが、同時にやばい奴であるという噂も山ほど聞いていた。厳しくて強い父より、めちゃくちゃ強いクダンに睨みつけられて、返事もできないくらいにカチコチに緊張していた。

 クダンも叱るくらいのつもりで威圧をしていたのだが、人に怒られ慣れていないギーツにそれは荷が重かった。

 クダンがつかつかと近づいてくるごとに、その威圧感を全身で感じて、そのまま意識がふっと遠くなる。


「おい、こらてめえ、返事くらいしろや。……こいつ立ったまま気絶してんぞ。器用な奴だな」


 ギーツの目の前にまで来たクダンが、あきれてその額をつついた。

 そのまま倒れるギーツをハルカが慌てて支え、空いていたベッドに抱き上げて寝かしてやる。


「すみません、どうしてもアルの様子が気になって、無理を言って入れてもらったんです。私たちが悪いです」


 ハルカはクダンに頭を下げる。モンタナとコリンもそれに続いた。

 クダンはめんどくさそうに頭をがりがりとかく。


「やめろやめろ、仲間想いなのは別に構わねえよ。ただこいつのいる所に部外者を通すなって言ってたから、様子見に来ただけだ。その辺の奴にどうにかされるような奴でもないし、念のためだけどな」

「ノクトさんって、誰かに狙われてるんですか?」


 クダンと話すのが大好きなコリンが質問をする。

 またはじまった、みたいな顔をしたクダンだったが、ため息をついて律儀に返事をする。


「お前は知ってるだろ。この間質問してた、噂の竜の獣人だよ」

「え! クダンさんと結婚した?!」

「いやぁ、そんな……」

「気持ち悪いこと言うんじゃねえよ! こいつは男だって言ってんだろうが。てめえも照れた顔してんじゃねえ!」


 はにかむノクトにクダンが怒鳴りつける。全然堪えた様子がないのはきっと彼らの付き合いが長いからだろう。

 ハルカは草食動物の獣人にしか見えないノクトが竜の獣人であると聞いて驚いていた。人は見た目によらないものだ。確かによく見てみれば角は竜っぽいかもしれないし、今まで本人の陰になってよく見えていなかった尻尾は、立派な爬虫類の物だった。


「その上こいつは死にかけの人間を治せるレベルの、貴重な治癒魔法の使い手だ。うまく攫えればそれだけで一生遊んで暮らせるだろうぜ。だから危機感を持てって言ってんのに、こいつ偶に普通に攫われるんだよ。抵抗できるはずなのに、簡単に連れ去られやがって」

「大体皆さん優しいですよ」

「それはてめぇに利用価値があるからだ。助けに行かされるこっちの身にもなってみろ。めんどくせぇんだよ」


 コントのような会話を繰り広げる二人を見ながらハルカは考える。

 治癒魔法の価値の一端が垣間見えたからだ。瀕死の重傷を負ったものを直せる自分の治癒魔法も、この調子だとかなり貴重になってくる。扱いはより慎重になる必要がありそうだ。


「おい、コリンだっけか。お前、こいつには色々質問しなくていいのかよ。こいつも一応特級冒険者だぞ」

「え、そうなんですか?!」


 コリンがずずいとノクトに近づいていくと、クダンは静かにドアの方へ移動していく。ハルカをちょいちょいと手招いて、小さな声で話しかける。


「おい、俺は上に戻るからな。変な奴が来たら問答無用でぶっ飛ばしとけ」

「え、いや、それはちょっと……」

「頼んだぞ」


 返事を聞かずに音もなく部屋から立ち去っていくクダン。コリンの注目をノクトに向けたのは自分が逃げ出すためだったらしい。


 モンタナは口をあけたまま、クダンがいなくなるのを見送っている。

 完全にいなくなってから、ほうと感嘆の息を漏らしていた。

 近くでクダンの姿を拝めて感動しているようだ。


「二つ名! 二つ名なんですか?」

「えぇ、自分から二つ名を言うのってなんか恥ずかしいですねぇ」


 ノクトは椅子に座りニコニコとしたままコリンの相手をしてくれている。ハルカもモンタナの横に移動して椅子に腰を下ろした。

 せっかく特級冒険者と会える機会なのに、アルベルトはまだ目を覚まさない。

 コリンと同じくらいに特級冒険者に対する憧れを持っているはずなのに、いつも間が悪い。


「早く起きないとまたタイミングを逃しますよ」


 静かに眠るアルベルトの頭を撫でて、ハルカは小さな声でつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの「獣人は永遠のショタ種族」だったか… こりゃケモショタ好きお姉さん達は大興奮なのでは? つーか「旦那にするならショタっぽい獣人以外あり得ない!」という勢力も普通に居そう
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