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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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昼間の交渉

 日頃の感謝を伝えようとしたものの、なんだかうまくいかなかったなと思いながらの食事。

 焼きたての魚は脂がのっていて、ほろりとほどけてとてもおいしかった。

 ノクトはお腹いっぱいになったようだったが、もう少し食べたいと思ったハルカは、帰りにカウンターに並べてあった、焼き魚のほぐしが挟んであるパンを買って店を出る。

 もさもさとかじりながら屋敷へ戻り、少しだけ昼寝でもしようかなと考えて廊下の角を曲がると、部屋の前で行成が神妙な顔をして待っていた。


「少しだけ、お話を」

「構いませんが……」

「頑張ってくださいねぇ」

「ノクト殿もお願いします」

「僕もですか?」

「ぜひ」


 ノクトとしてはそれなりに意地悪を言ってきたつもりがあったので、この若い当主が自分まで指名してくるのが意外だった。

 少し前までの行成であれば声をかけられなかったかもしれないけれど、この短い旅の間に打ちのめされたり考えさせられたりと、精神的に成長する機会がたくさんあったのだ。

 若者の成長速度というのは、時に長く生きたノクトですらも見誤るものである。


 部屋へ入り、それぞれが椅子やら障壁やらに腰を下ろす。


「それで、お話というのは?」


 ハルカが水を向ければ、行成は膝の上に手を置いて、身を乗り出しながら語り出した。

 

「はい、昨晩のことからです。北城家には大門含む幾人かの重臣がいました。その中でも先々代からの重臣が裏切りを働いたことはお話しした通りです。あまりに衝撃的で、怒りが先に立ち、なぜ裏切ったのかを考える余裕すらありませんでした。そこで改めて大門と二人、それにエニシ様にも相談して考えてみたのです」


 そういえば昨日飲んだ後、腕輪の話をしていなかったことにハルカはひやりとする。真っ先に伝えておいても良かったところを、早朝だからちょっと後にしようと散歩に出てしまったのだった。


「いくら考えても理由が思いつかず……。これは何か決定的な視点が足りていないのではと相談に上がったわけです」

「それなんですが……」


 ハルカは申し訳なさげに肩をすぼめながら、腕輪の件について行成に説明をする。

 必ずしも腕輪のせいであるとは限らないが、可能性は十分にあるだろうと思ってのことだ。

 行成は難しい顔のまま話に耳を澄ませ、やがて最後に少しばかりほっとした顔をしてみせた。


「……そうですか。今となっては、そうであればいいと思うばかりです。部下たちはともかくとして、茂木モギの爺に関してはどうしたって理解できなかったのです。理解できなかっただけに、私たちの中でも許せぬという意見も多く……怒りばかりが募ってしまっていました」


 おそらく茂木という男はよほど家中でも信頼が厚かったのだろう。

 だからこそ、ノクトはほっとしている行成にくぎを刺す。


「厳しいことを言うようですが、あくまで可能性の話ですからねぇ」

「はい、そうですね。……もし茂木の爺がここにいたとしても、同じことを言っていたことでしょう」

「だからですねぇ……」


 さらに諫めようとして、ノクトは言っても仕方ないなと言葉を止めた。


「もしかして茂木さんって僕に似ていますかぁ?」

「いえ、全然。長いひげの老爺で、背は非常に高いですし……喋り方も厳めしいばかりで、会うたびに注意ばかりされていました。あ、いえ。厳しいことを言ってくれるところだけはよく似ているかもしれません」

「僕、そんな厳しいこと言わないですよぉ? ねぇ、ハルカさん」

「はい、普段はあまり」

「はい、だから注意をしてくださっている時だけです。気分を害されたら申し訳ありません」

「素直な子を相手にするとやりづらいんですよねぇ……」


 分が悪そうだと諦めて、ノクトは小さくため息をついた。


「それからもう一つだけ」


 これで話は終わりかなと思っていたハルカに行成は言う。

 続けて吐き出された言葉に、ハルカは目を丸くしてしばし固まることになるのだった。


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― 新着の感想 ―
焼いた魚のほぐしをパンに挟む。鮭ほぐしをバターロールに挟んだ感じでしょうか?
>続けて吐き出された言葉に、ハルカは目を丸くしてしばし固まることになるのだった。 ハルカがびっくりするような事?なんでしょう? 「実はわたしには前世の記憶があります」「ハルカさんが好きです」あたり? …
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