表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1292/1488

挑発行為

「なんだお前ら、そろいもそろって」


 ござの上で寝転がっている白髪交じりの男は、引き締まった体躯を起き上がらせもしなかった。太い眉の真ん中に深い皺。への字に結ばれた口で、やってきた全員を睨みつける。

 少しばかり息を荒くしているのを見ると、よほど体調が悪いのだろう。

 見た目では今にも襲い掛かってきそうなのに、億劫そうに首を横にむけるのが精いっぱいの様だった。


「親父、治癒魔法使いの人が来てくれたんだ」

「いらねぇ」

「親父!」


 プイッと断った壮年の男に対して子供たちが口々に非難の声をあげる。


「義理も借りも金もねぇ。そんな奴に世話になるわけに行くか。俺はどこかのお大臣か? 病気で死ぬときは死ぬんだよ。あんたらも帰りな、およびじゃねぇ」


 息も絶え絶えの癖によく回るくちである。

 

「すみません、冒険者さん。こんなでも俺たちの大事な親父なんです。説得するんでちょっとあちらで……」

「ええ、構いませんが……」


 何ならさっと近づいてさっと治してあげたほうがいい気がするけれど、外に見える怪我と違って病気は何を治したらいいかわからないのが難しい。

 ハルカはノクトと一緒に部屋の隅へ下がって、念のため相談を始める。


「あの病気を治すにはどうしたらいいでしょう」

「あんな断られ方しても治す気あるんですねぇ」

「……師匠だってそうするのでは?」

「どうしてそう思うんです」

「ああいう方、嫌いじゃないでしょう」


 ハルカがきょとんとしつつも当たり前のように答えると、ノクトはふへへと笑った。


「分かってますねぇ。はい、あの病気はちょっとなんだかわからないので、健康体に戻すような感じで治しましょう。いつから熱っぽかったのかなんてわかるといいですね。おそらくかなり時間が経過しているので、相当量の魔素を消費します。僕がやるよりハルカさんがやった方がいいでしょうねぇ」

「分かりました、やってみます。変だったら途中で止めてください」

「おやぁ、自信がないんですかぁ?」


 一応休暇の間に治癒魔法の訓練は、ノクトと共に積んできている。

 今更失敗するとは思わないけれど、それでもノクトに勝るほどの精密さを持っているとは思っていない。


「念のためです」

「うん、いいですねぇ。それくらいの自信がちょうどいいです」


 一人だったらやらないというわけではなく、あくまで保険をかける意味でハルカが言っているのを確認し、ノクトは納得して頷いた。


「……それはいいんですが、説得できるのでしょうか」


 子供たちが散々言い聞かせても、父親の方はすっかり目を閉じて知らないふりをしている。あれじゃあ治癒魔法を使っても、妙な精神力で抵抗してきそうな雰囲気すらある。


「仕方ないですねぇ……」


 ノクトはぽてぽてと歩いていくと、スリを働いた上の子の肩をつつく。


「……なんだよ」

「お父さん、助けたいですよねぇ?」

「当たり前だろ」

「どうしても助けたいですか? 色んなこと我慢できますぅ?」

「うるさいな! 当たり前だろ! なんだよ!」

「はい、わかりましたぁ」


 子供の怒鳴り声くらいそよかぜ程度にも感じないノクトは、ハルカを招いて寝転んでいる父親の横へ向かう。それから必死に説得している子供たちを振り返り、口の前に指を立てしーっとやって黙らせる。


「治してもらう義理も借りもないと言いましたねぇ」


 父親から返事はない。

 ただ、子供ではなくノクトが話しかけたからか、片目を開けて聞いてはいるようだ。


「先ほどあなたの所の子が、あなたの病気を治すための資金を得るために、私たちに対してスリを働いたんですよぉ。ああ、大変ですねぇ、借りができちゃいましたねぇ」


 まず父親に火をつけた感情は怒り。

 体調が悪いというのに顔を真っ赤にして子供たちのいる方を睨みつける。

 それから、ノクトを睨み、何をしに来たのかと鼻の頭にまで皺を寄せた。


「実は僕、特級冒険者のノクト=メイトランドっていうんですよぉ。スリなんかされて、そのまま見逃すわけにはいかないなぁって思っててですねぇ。それでその保護者の顔を見に来たんですよねぇ。元気になって責任取ってもらわないと困るんですよぉ。このまま病気で死んじゃうなら、あなたの子供たち全員に責任をとってもらうことになるんですけどぉ」

「俺がやる! 俺だ、俺が悪い! 治せ!」


 父親は体が辛いだろうに拳を握り締めて、床を殴りつけた。

 体を起こそうとしたが、それは難しかったようでふーふーと言いながらノクトを睨みつけている。


「えーぇ、でもですねぇ。あなた一人治したところで何かできるとも思えませんしぃ。子供たちの方が若いですしぃ」

「俺はこの街一番の漁師だ! この腕一つで五十人以上子供を育ててきた! 元気になりゃあ金ならいくらでも稼いでくる!!」

「ホントですかぁ?」

「俺を治せ!」


 やり取りの間、ハルカは子供たちからの視線で針の筵状態だ。

 ノクトは平然としているが、ハルカはそんなに神経が太くない。

 まさかそんなことを企んでいたとは、みたいな視線がとてもとても痛い。


「じゃ、仕方ないから治してあげるんでぇ、いくつか質問に答えてくださいねぇ」


 ノクトは父親から的確に必要な情報を聞き出し、へらへらとした顔で振り返ると、ハルカに「じゃあ、お願いします」と言ってバトンタッチをした。

 場所を代わると父親は悪魔を見るようなものすごい形相でハルカのことを睨みつけている。

 病気を治しに来たのにどうしてこんなことになっているのだろう。

 ハルカは一度天井を仰いでから、父親の病気を治すべくその体に手をかざすのであった。



今日は漫画の更新日かもしれないです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ふへふへ
ハルカの優しさだけでは親切の押し売りですがノクトのやり方は施しに対する対価を求めるやり方の方が好きです 一度受けた親切はそれが当たり前になってしまいますからね ハルカのやり方は自己満足に見えてしまいま…
うわ、桃色悪魔だわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ