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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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推論

「話によれば、人族が大きく数を減らしたのは、神人戦争によるものが初めてではないそうです。あの戦いによって多くの文明と歴史が失われ、人族は西の果てに避難することになりました。ですから、保管されている歴史文献を辿ったところで、辿り着けるのは神人戦争のあたりまでです」


 ハルカはゆるりと語り始める。

 頭の中にあったこの世界の変遷をどう辿っていけばバルバロにうまく伝わるかを考えながら。


「一方で各地には遺跡があります。私は専門家ではないので詳しくありませんが、遺跡には数千年前に作られたようなものもあるようです。例えば大量の魔素を込めたり、魔素を利用して戦うように作られた、剣や槍などの武器が見つかる遺跡は、神人時代よりも前の遺跡であるようです。この辺りは遺跡発掘をしている冒険者の方が詳しいかもしれません。いずれは詳しく話を聞いてみたいと思っていますが」

「そういやとんでもない力を秘めた武器があるって話は聞くな。王宮の宝物庫なんかにもいくつか保管されてるはずだぜ」


 特定の目的のためにしか使わないようなものや、使い方がわからないものも含めて、実はこの遺物はあちこちに残されている。

 魔素が込められた物品というのは、人と同じく劣化しにくいのだろう。


「岳竜、グルドブルディン様によれば、人は幾度も滅びかけ、その度逞しく立ち上がるそうです。神人戦争も、グルドブルディン様からすれば、そんなこともあった気がする、程度の感想でした」

「とんでもない生き物だな。その、グルドブルディン様ってのはどんな見た目なんだよ。直接見に行くわけにいかないから詳しく教えてくれ」


 ハルカはあののんびりとした大きな竜を思い浮かべる。そしてふっと笑った。失礼な話であるが、何か竜に例えるよりもよっぽど適切な答えがあった。


「大きな亀、ですね。甲羅が山のようになり、瞬きをするだけで岩が転げ落ちてくるほどの巨大な亀です」

「……亀って竜なのか?」

「どうでしょう? しかし色々と話を聞いているうちに、真竜というのは、別に飛竜や地龍のような形をしている必要はないのではないかと考えています。真竜というのは、世界の魔素を落ち着けるために神様に選ばれた存在なのではないかと。長生きしているからかもしれませんが、少なくとも私が出会ったことのある真竜様たちは、誰もが神様と話したことがあると言っていました」


 そういう意味では、ノクトだって真竜と言っていい存在なのかもしれない。おあつらえ向きに竜の角と尻尾を持っているのだから。

 当の本人は、ハルカの視線を感じると片目だけ開けて首を傾げているけれど。百三十歳を超えている割には可愛らしい仕草だ。

 動作というのは見た目に引きずられるのだろうなと思うハルカである。


「そしてもう一つ。グルドブルディン様は破壊者ルインズたちについて、こうも言っていました。『奴らは人と相容れないことはあるが、同じ人間であろう』と。人魚と接したというバルバロさんならお分かりになるのでは?」

「…………まぁ、そうだな」


 バルバロとて夢を見ているだけの少年ではない。

 船乗りとして数々の海賊を平らげてきたし、領内の賊だって撲滅して回った。半魚人ダガンたちと戦うことになるのだって一度や二度ではないし、北の大地〈ディグランド〉を覗きに行って、巨人たちの野蛮な殺し合いを見たことだってある。

 それでも、全ての破壊者が話が通じないわけではないとわかっているのは、幼い頃にイーストンに助けられたからだ。だからこそ人魚たちが襲われているのを見て、破壊者同士の争いだと見捨てず、助けに入ったのだから。

 もちろん、人魚たちの見た目が美しかったという理由もあるけれど。


「私にはブロンテスさんという、理性的な巨人の友人がいます。神人の時代に偉大な発明をして、それを利用されたことを今でも気に病む心優しい巨人です。彼らは当時、人の社会に認められたことを喜んでいました。彼の話によれば、当時の破壊者は、人よりも立場の弱い存在であったらしいことが想像できます。そして、当然ながら共に暮らすような存在がいたことも」


 思えばブロンテスだって真竜みたいなものだ。

 彼は罪に苛まれて生きたある日、神に『もう少し生きよ』と諭されてその身を永らえたと言っていた。


「それを信じるのなら〈オラクル教〉の訴える神人戦争の語りは、人を奮起させるための騙りか」

「それに是と答えることはしません。ただ、私はそんな側面も間違いなくあったと考えています。ここまでお話ししたところで、話を最初に戻します。今この世界には、過去の歴史を示す書物が残されていません。それは、神人戦争によって失われたからです。……では、神人戦争から逃げた先にあった【神聖国レジオン】にもそれが残されていないのはなぜでしょうか。それほど多くの被害を受けていなかったのであれば、何らかの歴史が残されていて然るべきではないでしょうか」

「……意図的に隠しているか」

「はい、私はそう思っています。もしかするとコーディさんは、何か見つけてしまったのではないかなぁと、私はたまに勝手に想像をしています。ちなみに南大陸の人族は今の【ロギュルカニス】あたりに避難をしたようです。あの辺りの国の方は、昔からあまり変わらぬ生活をしているようですね。それに、人族の国との交流もそれほど頻繁ではなかったようです。これも勝手な予測ですが、神人戦争の時代よりも前の時代の雰囲気が色濃く残っている国なのではないかと」

「見てきたように言うな」

「あっ、この間行ってきました。その話もしておいた方がいいですかね」


 人が立ち入らない国【ロギュルカニス】にちょっとそこまでみたいに行ってきたと言われ、バルバロは思わず笑った。


「ああ、頼む」


 まだまだ夜は終わらない。

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― 新着の感想 ―
まだまだハルカの爆弾投下は終わらない笑。すごく濃い内容ですからねー
なるほど、コーディさんも何か見つけているのかもしれませんね > 全ての破壊者が話が通じない奴らだとわかっているのは、幼い頃にイーストンに助けられたからだ。 読点の前後で齟齬があるかと思います。
「それでも、全ての破壊者が話が通じない奴らだとわかっているのは~」 これは前後の文面から察するに 「それでも、全ての破壊者が話が通じない奴らではないとわかっているのは~」 かな?
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