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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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小手調べ

「ま、手紙だけじゃよくわからねぇ。あんたらの言葉で直接状況を聞かせてもらいたいもんだな」


 エリザヴェータからの手紙は、概要をきれいにまとめてある。

 はっきり言って改めて状況を聞かずとも何があったのかは理解できるのだが、バルバロが知りたいのはそれではなかった。


「そうだな……、あのおっさんがそっちの国に姿を現した頃からのことを詳しく聞かせてくれ」

「承知しました。では、少し長くなりますが……」

「いいね。是非とも感情込めてやってくれ」


 話は一年ほど前にさかのぼる。

 マグナスがぼろぼろの船で現れ、助けられたことを恩義として見返りを求めずに働きだした。身の危険を顧みずに戦に出て勝利を収め、それでも何も褒賞は望まずに、〈北禅国〉で静かに暮らすことを選んだ。

 そんなマグナスと仲を深めた実直な家臣が、他所には秘密と言われて話された身の上話は、エリザヴェータとのすれ違いが悲しげに語られたお涙頂戴の物語だったそうだ。


「ま、あのおっさんがうまいことやるのは知ってる。不思議じゃねぇよ。でもなぁ、あまりに安易に信じすぎたんじゃねぇのかって思っちまうな。無法できる程度の兵士まで与えてたんだろ?」

「いえ、あの男は兵を持つことを望みませんでした。求めたのはともに逃げてきたものが生活できるだけの家と土地のみ。だからこそ無欲な男として評価をされておりました」

「じゃ、裏切った時の兵士はなんだ? 舌先三寸で裏切らされたってのか? それはあまりに当主に信頼がなかったんじゃねぇかって思っちまうけどな」


 行成は悔しそうな顔をしたけれど反論しなかった。

 バルバロは手紙に書いてあった行成の年齢を思い出しながら苦笑した。

 悔しそうな顔なんてしている時点で良くないのだが、純粋に目的を達したいという強い思いは感じられる。

 だからこそ、なぜエリザヴェータや他の面々が突っ込まなかったのだろうと思う様な部分を指摘する。


「ああ、別にいじめようってつもりはないんだぜ。おかしいって言ってるんだ、分かるか? おかしいってことは何かあるってことじゃねぇか? なんで裏切られたかちょっと考えてみろよ。少なくともお前たちの印象では、そう悪い統治じゃなかったんだろ? それがわからねぇと、いざ乗り込んでも足をすくわれるかもしれねぇぜ」


 真剣な顔をして考え始めた行成と大門だったが、すぐには答えが出そうにない。

 そもそも逃げ出すのに精いっぱいで、二人は当日の状況を完全に把握しているわけではないのだ。

 マグナス憎しでやってきたが、冷静に思い返してみれば、どうしてあそこまで敵が増えてしまったのかがわかっていない。

 

「お、ちょうどよく飯ができたみたいだな。とりあえずうまい飯食ってゆっくり休んで考えろよ。何なら明日はうちの船を見学させてやってもいいぜ」

「ありがとうございます」


 行成と大門が頭を下げると、バルバロは鷹揚に手を振って「良いってことよ」と答えた。そうしてバルバロが街の名物の話をしたり、互いの近況を語ったりと、当たり障りのない楽しい話で食事の時間が終わる。


「お客様を案内して差し上げろ」


 パチッとバルバロが指を鳴らすと、使用人たちが行成と大門、それにエニシをそれぞれの部屋へと案内する。言葉少なくその場にいたエニシは、ちらりとハルカの方を見たが、何も言わずにそのままダイニングから出ていった。


「つーわけで、腹を割って話すか。イーストンは随分ハルカたちと一緒に行動してるみたいだが、好きなやつでもできたか?」

「腹を割った一発目がそれなの?」

「どうなんだよ」

「できてないよ。ただ面白いと思ったから一緒にいるだけ。目的の一致って言うのかな」


 色々と事情はあるけれど、喋れないことも山ほどある。

 どこから説明するべきなのか、イーストンには判断が難しい。


「ま、とりあえずハルカさんの宿クランにいれてもらった、かな」

「冒険者になったのか!」

「登録しただけだけどね」

「いいな、俺も登録するか」

「やめなよ」


 流石にあまりにもフットワークが軽すぎるとイーストンがシンプルに注意する。

 バルバロならばすぐに冒険者の空気に馴染みそうだが、その身に何かあっては大変である。


「しかし、目的の一致か。……場所変えようぜ。あ、それぞれグラス持ってきてくれよ」


 バルバロはダイニングに飾られた酒瓶二本を手に取って指に挟む。そうして空いた手で自分が使っていたグラスを持って、ダイニングの扉を蹴り開けようと足を上げたところで、扉が勝手に開いた。

 外に立っていたのは背筋のシャンと伸びた老執事。

 扉を押さえたまま、細い眼がじっとバルバロの足を見つめている。


 バルバロはそっと足を下ろすと、何事もなかったかのように扉をくぐり「小部屋を使うぜ」と一言残して歩き出した。バルバロが通り過ぎると、老執事はにこりと笑ってハルカたちに「どうぞ」と声をかけて後に続くよう促す。


 廊下を少しばかり進んだところで、イーストンがふっと笑ってから小声でハルカとノクトへ伝える。


「バルバロは昔からあの人に頭が上がらないんだ」

「優しそうな人でしたけどね……」


 ハルカが振り返って呟くと、なぜかノクトがしみじみと頷きながら答える。


「だからなんですよねぇ」


 どうやら何か身に覚えがあるようであった。

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― 新着の感想 ―
得意技だろ(人質、隷属首輪etc)
みんないたずらッ子w
もしかして隷属の首輪みたいなのの量産に成功していたんですかねマグナス。 つくづく救いようのない悪党…。
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