表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1266/1483

人選

「ではリョーガさんにレジーナ、皆さんの護衛をお願いします。早ければ半月もせずに戻ってくるはずですので。皆さんも、張り切って下さっていますが適度に休みながら無理せず作業を進めてください」


 ハルカが挨拶をするとドワーフたちから息の合った了承の返事があった。

 しつこいようだが、アバデアたちには森の中にある都合上、魔物が出る可能性が高いことはあらかじめ伝えてある。また、海側に半魚人ダガンたちが流れてくる可能性についてもだ。

 万一事故のないようご安全にである。

 リョーガは軽く手を上げ、レジーナもチラリと視線をよこしたので問題はないだろう。


「では、くれぐれもお願いします」


 ナギに乗って拠点へ戻ったハルカは、一晩休み、翌日の朝にはもう出発の準備を始めていた。一応昔にノクトに買ってもらった正装などを引っ張り出し、必要な荷物を確認している。

 今回同行するのは北城行成きたじょうゆきなり大門雷行だいもんらいこうのエリザヴェータに用がある二人に加え、それを心配しているエニシに、ハルカにしつこく頼まれて重い腰を上げたノクトだ。

 スタフォードの双子が来ていることと、それに伴って〈オラクル教〉関係の来客があるかもしれない都合上、いつものメンバーは留守番。カーミラはエリザヴェータがちょっとだけ苦手なのでこちらも留守番。


 部屋が控えめにノックされてハルカが「どうぞ」と言うと、扉が開いて軽装のイーストンが顔を覗かせる。


「どうしました?」


 ハルカが立ち上がると、イーストンは手を前に出してそれを制した。


「荷物まとめながらでいいよ」

「そうですか?」


 今更遠慮もなくなってきたハルカが、その言葉に甘えて準備に戻ると、イーストンは扉に寄りかかって口を開く。


「今回は僕も行くよ」

「いいんですか?」


 イーストンはこれまでエリザヴェータと直接顔を合わせていない。あえて避けてきたのかと思っていたハルカは言葉足らずな質問を返す。


「ちょっとね。ハルカさんは彼らの嘆願を女王が通すと思ってる?」

「それはきっと」

「正直に」


 ハルカが前向きな言葉を紡ごうとしたところ、イーストンがぴしゃりとそれを封じ込めた。


「……今のままでは難しいかと」

「だよね。……まぁ、僕もそろそろ【夜光国】のイーストンとして、一度はエリザヴェータ女王のことを直接見ておきたい。【夜光国】に一番近い国は【ディセント王国】だからね。なんとなく、エリザヴェータ女王の代で国交を持つことになるような気がしているんだ。もちろん会っても名乗る気はないし、無理してまで謁見の場に同席するつもりもない。あくまでハルカさんの仲間の一人としてね」


 色々と自分の都合も述べたイーストンだが、これらはすべてハルカが気負わないようにするための言い訳みたいなものだ。

 結局のところ考えているのは、行成が失敗した時のフォローである。ハルカには荷が重く、エニシは共感してしまって事態の収拾には役立たない。ノクトは何とでもできるが、何ともしないだろう。

 となると、一応放蕩王子ではあるが、後継者という立場を同じくし、長く生きてきたイーストンは今回の同行者として適任であった。


「ま、何かあったら手を貸すことくらいはするけど、僕にも目的があるからあまり期待しないで」

「頼りなくてすみません……、ありがとうございます」


 ハルカが全てを察したような顔で、荷物を詰め込み終えたところで深々と頭を下げる。


「…………まぁ、僕も用事があるから」


 イーストンは思わず小さくため息をついて、己の言い訳が失敗していたことを悟った。普段はどこまでも鈍くて察しが悪い癖に、人の親切にばかりに敏感で仕方のないダークエルフである。

 

 二人して屋敷を出てナギの下へ向かうと、すっかりお食事を終えて口の周りを血だらけにしたナギがお出迎えをしてくれた。

 大きな水球を出して口の周りをきれいにしているうちに、今回の同行者がばらばらと集まってくる。

 今から緊張している行成と大門。それを見て何か使命を持ったように表情を引き締めるエニシ。

 彼らの空回りそうな気合いを見てさらに不安になったハルカは、思わずイーストンに目配せしてしまう。イーストンはなるようにしかならないと肩を竦めてみせる。


 そこへ遅れてやってきたのは、今日も歩くことを放棄している竜の獣人ノクトであった。ふわふわのんびりやってきたからか、後ろにユーリやアルベルトたちお見送り隊を引き連れている。


「あれぇ、イースさんがいるなら僕は留守番ですかねぇ」

「いいから行けって」

「そです」


 この期に及んで回れ右をしようとしたノクトの行く手にアルベルトとモンタナが立ちふさがる。


「ひどいですねぇ、二人して。ねぇユーリ」


 ノクトが泣きまねをしながらふらふらとユーリの下へ向かう。

 本気で逃げるのならば上空へ浮かび上がればいいだけなので、当然茶番である。

 ユーリは自分とさして変わらない大きさのそのぷにぷにとした手を取って、ブンブンと振りながら言う。


「ママのことお願い。早く帰ってきてね」

「……仕方ありませんねぇ」


 ハルカと違ってノクトとユーリは師弟関係ではない。

 ゆるゆると魔法を教えているだけで、お爺ちゃんと孫みたいな間柄である。

 そんなユーリにお願いをされると、流石のノクトも次に誰かに助けを求める気にはならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>実はノーマーシーで農業に勤しんでます 家来たちについては1163話でちゃんと書かかれてましたね 失礼しました https://ncode.syosetu.com/n3853hn/1163/
イースは良い男だねえ 顔が良くて性格が良くて腕っぷしもあってとかそりゃあ一般社会では厄介な女性に絡まれもするわな
今回も面白かったです。 イースのさりげない気遣いがありがたいですね。 >今から緊張している行成と大門。 あれ、数十人は居そうな侍たちは当主の旅立ちを見送りに来ないのかな… と思いましたが >後ろにユー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ