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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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魔法の段階

 単純に発動する魔法の数を増やしてその場に維持させるより、『連なる』という言葉を使うことによって一つの効果で多数の魔法を維持できるとか、そんな感じの詠唱についての専門的な話が続く。

 なるほどなぁ、と思いながら頭上で水球をぐるぐる回しているハルカ。一応納得はいくし興味深いのだが、当然口を挟む隙はない。

 ちなみに無詠唱に関しての話は、慣れるまで反復練習を繰り返すか、魔法を発動させるための補助媒体に特定の文様を刻むことでうんたらかんたらと、エリが話していた。こちらもかなり専門的かつ実践的であり、同じくなるほどなと頷くのだが、そのどれも意識したことのなかったハルカが出せる意見はない。


「学者側が無詠唱を苦手とする人が多いのは、実戦不足かもしれないですね。逆に冒険者は伝わった情報を実戦でどうやって活かすかを日々試行錯誤する。やっぱり学園の外にいる魔法使いと話ができるのは面白い」

「そのかわり冒険者は使える魔法の種類が少ないの。魔法でなくてもできることはそちらに任せて、攻撃として有用な魔法だけを鍛える。あるものを活用することには優れていても、新しいものを生み出すことはあまりないわね。魔法の発展を考えるのなら、学者や研究者みたいな人はやっぱり必要だと思う」


 互いに教養があるお陰か、喧嘩にもならずに長く続いた話し合いは、互いを尊重する形である程度収束したようだ。実に有意義な話し合いを聞かせてもらったなと、大満足のハルカだ。


「それで、話は戻るんですけど」

「そうなのよね」

「な、なんでしょう?」


 二人の視線を急に向けられてハルカは困惑する。

 ユーリと一緒に素晴らしい魔法についての話し合いを聞くことができて、気持ち的には今日はもうお腹がいっぱいである。


「ハルカさんの近くにいると、魔素が常に流動してる感じがするんだよね。エリさんはどう思います?」

「私はあまり魔素の動きってわからないんだけど、なんだかソワソワする感じはあるわ。魔素の制御がほんの僅かだけどいつもより難しくなる感じもするかも」

「やっぱり! 僕も初めてハルカさんの近くで魔法を使ったとき、ほんの少しそんな感じがしてたんだよね」


 長く話が続いていたため、流石に目を覚ましていたモンタナだったが、ちらりと視線を上げただけで、また宝石の研磨に戻ってしまう。魔素の動きについては、助言を求められた時だけすればいいかというスタンスだ。

 そもそも自分の目の話をあまりあちこちで話したいとは思っていない。

 ここにいるそれぞれのことは信じているけれど、冒険者というのはそもそも自分の手の内を人には明かさないものだ。


「なんかすみません。私あまり魔素の制御はできないのですが、基本的に私の周りには大量の魔素が渦巻いていると言われたことがあります。感情によって多少のぶれはあるそうなのですが」

「渦巻くって、周りをぐるぐる回る感じってこと?」


 エリが人差し指をぐるりぐるりと回して見せる。


「恐らくそうです。周囲の魔素を巻き込むような形で、大規模な魔法を使う時はその渦の動きが激しくなったり……」

「……そういえばハルカさんって、自分の体から結構離れたところにも魔法を生み出すよね」


 レオンがふと空で不規則な動きをする水球を見上げて呟く。


「ええ、はい。その方が戦う時には便利です」

「それってさ、魔法との線を繋げているような印象ある?」

「……線?」

「つまりさ、魔法って基本的には制御下にないといけないでしょ。だから僕たちみたいな普通の魔法使いは、発動する魔法と自分の間に、魔力の線、っていうか、糸みたいなものが繋がってるわけ。発射する瞬間には制御が必要なくなるから切っちゃったり……しますよね、エリさん」

「まぁ、普通そうね。……ハルカはそうじゃないみたいだけど」


 ピンとこない顔をしているハルカを見てエリは笑う。

 以前モンタナやレジーナから聞いた話によれば、ハルカの周りに渦巻く魔素は、すでにハルカのものとなっており、それが作用する空間に自由に魔法を生み出すことができるらしい。

 普通の魔法は体内を通した魔素を操って出現させ、それを体外に放出、つながった糸のようなパスで操作をする。

 ただしハルカの場合周囲の魔素を直接体外で操っているようにも見える魔法の使い方をしているのだ。あるいは渦巻く途中に勝手に体内で循環してそれを放出しているのかもしれないが、その辺りの詳しい部分まではモンタナたちにもよくわからない。

 もちろんこんなことを普通の魔法使いに伝えても混乱するばかりである。


「だから、あんなふうにグニャグニャ動かしてたら、普通はものすごい魔素を消耗するはずなんだよね」

「え、でもあれは師匠からやるように言われましたよ?」


 ハルカの言葉に魔法大好きな二人は今度は二人してノクトの方へ顔を向ける。

 寝転がっていたノクトは、ニコニコしながらいつも通りに短い人差し指を立てて前後左右にゆらゆらと振った。


「まぁ、これに関しては技術的に解消する方法もありますねぇ。そもそもハルカさんの場合は制御力を鍛えるためにたくさん使わせているだけで、魔法使いの技術云々を向上させるための訓練をしているわけじゃないんですよぉ。同じものとして考えることがまず間違ってるんですよねぇ」

「そうなんですか?」

「そうですよ? だってハルカさんの魔法は技術的によくわからないですもん」

「師匠もかなり自在に障壁を操っているように見えますが」

「んー、そうですねぇ……。僕の使う障壁の魔法ってつまり、空間を壁によって区切る魔法なんですよねぇ。自由に扱うためには、自身が認識している空間に対する理解力が必要なんですよ。自身を起点にしての相対的な位置と空気中の湿り気とか風の強さとか寒さ暑さだとか漂う臭いとか音による揺れだとか、そんなものの一切を自分の管理下に置いているという傲慢さが、空間中の魔素に作用する力を持つというか……。逸脱した魔法使いに自分勝手なものが多いのってこれも一つの理由なんだと思うんですが……っと、聞いても分からないでしょう?」


 そこにいる全員がノクトの言葉を今一つ理解できず、まともなリアクションをとれていない。ただ煙に巻いたにしてはすらすらと出てくる理論。すごみや説得力は感じるのだけれど、常識にとらわれているうちは納得できそうにないものだった。

 特級冒険者の魔法使いというのは数が少ないが、世界の捉え方という概念自体がどうも異なっているようであることはなんとなくわかる。

 そんな異常な存在であるノクトをして、ハルカはよく分からないというのだ。

 いわんや普通の魔法使いの領域にいるエリやレオンは、という話である。


 それでも進歩を望んでいる魔法使いの二人は、難しい顔をしてノクトの言葉をかみ砕こうと完全に黙り込んでしまった。


「ユーリ、分かりました?」

「……うーん。ちょっと、分かるような、分からないような」


 一応ノクトによる英才教育を受けているユーリには、少しだけ思うところがあったようで、真剣に考えこんでいる二人よりは得るものがあったようだ。


「すごいですねぇ」


 ハルカが頭を撫でてやる。

 しばらくの間は黙ってそれを受け入れていたユーリだが、やがて首をゆっくり横に振ると笑って言う。


「ママの方がすごいんだよ」


 魔法を学べば学ぶほど、ユーリもハルカの魔法がよくわからない。


「私のは、うーん」


 一方でエリやレオンのように、あるいはユーリのように努力して身につけた力でないことがわかっているから、ハルカの心中は複雑だ。あるものをうまく使うための努力はしているが、褒められて素直に受け入れるのは難しい。


「すごいの」

「……ありがとうございます」


 ユーリは別にハルカの魔法のことだけを評価して話しているわけではない。

 謎の力を持ったうえで、ハルカがハルカのままであることを褒めていた。

 二度も褒められて受け入れないのは流石に大人げない。

 言葉に出して礼を言うと、なんとなくユーリが自分を認めてくれているという気持ちはちゃんと受け取れた気がして、ハルカは心が少し暖かくなった。


 冷たい風に吹かれて、屋敷の方から食事の匂いが漂ってくる。

 そろそろおひるごはんの時間。


「お腹が減ってきましたね」

「うん」


 ユーリとたわいない話をしながらも、ハルカはエリとレオンの意識が浮上するまで、立ち上がるのは我慢することにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
やろうと思えばハルカさんは時分の近くにある他人の魔法のコントロールを奪ったり出来るのかな?
おじいちゃんの障壁は種族由来の卓越した感覚と若気の至りから来てるんですね。
ノクトの障壁ってそんなちゃんとした技術が下敷きにある物だったんだ⋯ ハルカみたいに感覚でやってるものかと思ってた
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