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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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土産話とか

 いったん大きな話は終わったということで、夜が遅くなりすぎる前にここから先は自由行動とすることになった。お酒を飲む会の面々は居残りとしたら誰も席を立たなかったので、そのまま全員で声を抑えながらの酒盛りとなった。

 折角双子と合流したので、今日はアルベルトも酒を飲むことにしたようだ。

 隣にはコリンが座って量の管理をしているようだけれど。

 本人も酒をたくさん飲むと痛い目にあうことはもう十分にわかっているから、ちびりちびりとしか口に運ばない。

 豪快な冒険者の酒盛りに憧れたアルベルトにとっては口惜しいことだが、体質的な問題なので仕方がない。


 双子たちと旅をした〈オランズ〉から〈ヴィスタ〉までの旅話をしながら酒を飲んでいると、どこから嗅ぎつけてきたのか、アバデア他数名のドワーフがいつの間にやらやってきて席に加わった。

 ドワーフも船乗りも酒好きが多いものだ。

 機会を逃すわけにはいかない。


 そこで留守番をしていたノクトがご機嫌にグラスを傾けながらハルカたちに尋ねる。


「今回の顛末を聞いていませんねぇ。【ロギュルカニス】はどうでしたか?」

「そうですね……、真竜のラーヴァセルヴ様に会いました。それからカーミラの里帰りのような事もしましたね。あ、あとですね、〈ネアクア〉へ行ってきたんですよ。リーサが寂しがっていたので、次にネアクアへ行くときには師匠も一緒にお願いします」

「何でまたそんなところに?」


 ハルカのお願いには返事をせずに、ノクトは話の続きを促す。

 どうしたものかと考えている途中なのだろう。あえて顔を出さないようにしているのは、ノクトなりに色々と考えあってのことなのだ。一般的なことであればスパッと断るのだろうが、ノクトにとってもリーサは大事な教え子である。

 回答を保留する程度には心が揺れているのであった。


 ハルカがぽつりぽつりと語り始めると、それぞれが少しずつ情報の補足をしていく。留守番をしていた者たちは楽しげに笑ったり、とんでもないことだと感心したりしていたが、酒のつまみには良い旅土産になったようであった。


 あっという間に顔が赤くなっているアルベルトが、後半になって不満げに言葉を付け足す。


「なんかうまくいかなかったよな。やっぱ俺は難しいこと考えるより、剣振ってた方が楽しい」


 アルベルトにとって政治のやり取りというのはまどろっこしくてしょうがない。本音を飲み込んだり、手を組んだり裏切ったりと、聞けば聞くほど頭が痛くなるし、もっとすっきりやれないものかと思ってしまう。

 そこには色々と大人の事情だったり、しがらみだったりがあるのだが、そこに縛られないよう生きるのが、アルベルトの考える冒険者の本質でもあるから仕方がない。生来の性格としても、見据える未来にあっても、政治とアルベルトは相性が悪いのだ。これに関してはレジーナも間違いなくそうである。


「分かってるってば。だから面倒くさいことはアルにやらせないようにしてるでしょー」


 アルベルトがグイッと酒を飲んでグラスが空になったところで、コリンがそれを回収して水の入ったグラスと入れ替える。これ以上飲むと明日は頭が痛いと言いながら朝の訓練をする羽目になるのだ。

 それでもさぼらないのは偉いけれど、馬鹿らしいのでそうなる前に控えるべきである。


「そうですね。アルやレジーナのお陰でハッとすることもよくありますから」


 ハルカが言えば、モンタナも半分くらい椅子からずり落ちたままこくこくと頷く。

 モンタナは酒が入るとどうもいつも姿勢が悪くなるが、体が柔らかいからなのか、バランスがいいからなのか、椅子から転げ落ちるようなことは今まで一度もない。


 レオンとテオドラは、ハルカたちの間にある信頼関係のようなものを敏感に察知し、なんとなく羨ましく思って目を逸らしたが、そのせいで互いに顔を見合わせてしまってバツが悪そうにグラスをあおった。

 一緒にいた時間が違うのだから仕方がない。

 やっと合流できたのだから、関係を深めていくのはまたこれからである。


 そんな二人の様子を静かに観察していたイーストンは、その感情の変化を敏感に察知して、ふっと笑い話しかける。


「テオドラにレオンだっけ。さっきの破壊者ルインズの話は驚いたと思うけど、〈オラクル教〉の考えが全部間違ってるってことはないよ」

「へー、どういうこと?」


 返事をしたのは行儀悪くテーブルに肘をついていたテオドラだ。

 もうすっかりこの顔が整った半分吸血鬼である王子様に慣れたらしく、フランクな反応であった。

 女性の半分くらいはイーストンの顔を見るとポーッとしてしまうものだが、テオドラは恋愛には重きをおいていない方であるし、優男系のイケメンならば双子の兄であるレオンで見慣れている。

 イーストンとしてもそれくらいの反応をしてもらえる方が気楽だった。


「特に吸血鬼は選民思想が強くてね。さっき話に出た〈エトニア王国〉では、国を丸ごと占拠して随分と非道なことをしていたって聞いた。そもそもそこを支配していた吸血鬼であるヘイムっていうのが〈混沌領〉に逃げたから、ハルカさんたちは討伐のために向かうことになったんだしね」

「へぇ、冒険者としての仕事ってことか。流石特級だよなぁ」

「そうなんだよ! 俺たちあのカナさんと一緒に冒険したんだぜ!」


 むくっと復活したのはアルベルトだ。

 アルベルトにとってカナ=ルーリエという冒険者は、物語の中の憧れの一人である。少々穏やか過ぎるところはあったが、その芯の強さと実力は、正に憧れの冒険者の一人であった。

 自慢の一つもしたくなる。


「あのって誰だよ」

「知らねぇの!? 【深紅の要塞クリムゾンフォートレス】! 竜騎士の!」

「あっ、もしかしてそれって……【自由都市同盟】の?」

「お、レオは知ってんのか」

「……一応。元神殿騎士で聖女で、当時の神殿騎士の全員を向こうにまわして暴れまわった挙句南の果てに建国したっていう、あのカナさんでしょ」

「いや、それは知らねぇけど」

「んふっ、ふへへ」


 グラスを口に運んでいたノクトが、少しむせるようなしぐさをしてから楽しそうにふへふへと笑う。実際にあった現場を思い出しての笑いであった。

 当時はとても笑っていられないような激しい戦いが確かにあったのだが、今言葉で聞くとなってはノクトの中では笑い話でしかない。


「そのせいで〈オラクル教〉は今でも【自由都市同盟】を国として認めてないからね。相当すごかったんじゃないかな。特級冒険者なんて区分けができたのもその頃の話でしょ」

「へー、そういやそれより前の話ってあまり聞かないよな。そうなのか?」


 アルベルトが笑っているノクトに尋ねると「そうですねぇ」と言って、人差し指が立てられた。


「確かに特級冒険者というのは、比較的新しい概念ですね。それまで冒険者の活動は南方主流だったところに、戦争まで起こして国まで作ってしまったんですから。それも世界で一番大きな国を相手取ってです。異常に強い冒険者はそれまでもいましたし、そう呼ぶ文化自体はありました。ただ、制度として確立したのはその辺りじゃないでしょうか」

「はー、そうなのか。すっげぇ」

「ふへへ、だからですねぇ。僕も制度として登録された初期特級冒険者の一人なんですよぉ。羨ましいですかぁ?」


 ノクトは障壁で作った椅子を浮かせてぷかぷかと移動し、アルベルトの前までやってきてその鼻をつつく。

 アルベルトは鬱陶しそうにその手を横に避ける。


「なんか爺は違うんだよな」

「いじわるばっかするからです」


 アルベルトが文句を言うと、ふにゃふにゃになっているモンタナまで追撃に加わる。


「えぇ、酷いですねぇ、ハルカさん?」

「え? 私は尊敬してますよ?」

「そうですよねぇ、ハルカさんは偉いですねぇ」


 ノクトはふわふわと移動してハルカの頭を一撫ですると、満足そうに元の場所へ戻っていった。それなりに酒が入ってるせいか、ノクトも今日は随分とご機嫌そうである。

たまに更新予約し忘れます、すまぬ

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― 新着の感想 ―
戦力拮抗のためにもオラクル教にもハルカやクダン並みの戦闘力ある特級冒険者がニ、三人くらいいたらいいな もしくはオラクル様降臨とかあって欲しいな
あ゛あ〜〜〜。この雰囲気が好きなんじゃ〜〜〜
カナさんも穏やかそうに見えてやはり特級冒険者だなぁ、というか制度確立の決め手になった人だった
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