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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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流れた時間と変化

 双子に話さなければならないことは山ほどある。

 まず世間に周知されているような情報を共有するだけでもそれなりに時間がかかることだろう。

 食事をしながら一応最近の仕事のことだとか、拠点にどんな仲間がいるだとかを話す。それだけでレオンは思っていたよりも随分と派手に動いていることに驚いたし、テオドラはすっかりワクワクしてしまっていたが、本当に話さなければいけないことはこれからである。

 食事を終えて一休みしているところで、レオンの方から質問が飛んでくる。


「南方大陸には行ったらしいけどダークエルフの森は訪ねたの?」

「いえ、まだですね。そのうち自由都市同盟を訪ねた時にはと思っているんですが。……そういえば、マルチナさんはお元気ですか?」


 初めてヴィスタを訪ねてた時に話をした、双子の叔母に当たる教師の女性だ。研究者気質で、神話に詳しく、ハルカに色々と教えてくれたのだ。

 その熱心な性格ゆえに色々とトラブルもあったのだが、本人は善良な人物であった。

 許婚がダークエルフの森に研究に出かけたまま帰ってこないと気にしていたので、そういえばと思い出したのだ。


「ああ、叔母さんなら呼ばれて自分も南方大陸行っちゃったよ」

「あ、そうですか。じゃあ婚約者さんとは」

「結婚したね。もう家の年寄りたちはカンカンだったけど、最初っからああすればよかったと僕は思うけどね」


 常識にとらわれない若者である。

 

「お元気ならいいですが」

「合流できたって手紙が来たから元気だと思うな」


 ハルカたちはナギがいるからひょいひょいと遠方へ向かうが、実際歩いてダークエルフの森まで行こうと思えば、半年ちかく時間をかけての移動になるはずだ。

 二度と家族にも会えないかもしれないことを覚悟の上での旅となる。それを考えるとものすごいバイタリティであった。


 さて、ここからどう話を進めるべきかとハルカがソファに腰掛けようとしたところ、突然歩いていたテオドラが「まじか」と呟いて固まった。

 視線の先を追いかけてみると、換気用の窓に大きな目が張り付いていた。ナギが今日は話し声がたくさんするなと部屋の中の様子を覗いていたのだ。

 そう言えば先ほど双子が来た時は庭に立ち寄らず、そのまま屋敷へ入ってしまった。

 何度か顔を合わせた時もナギを紹介するような機会はなかったから、二人ともその姿を見たことはなかったはずだ。


「そういえば紹介がまだでしたね。庭へ行きましょうか」

「すごく大きいとは聞いてたけど、目だけであの大きさかぁ」


 ハルカが庭へ出るために玄関へ向かうと、レオンがぼやきながらついてくる。ハルカたちが一緒に旅していることは知っているから、怖がるというよりも、単純に驚いて感心しているようだった。


「でっけぇ……」


 テオドラが声を上げながらふらふらと近寄っていき、レオンは目を丸くして足を止めている。


「ナギです。今はこんなに立派になりましたけど、昔はこれくらいの卵だったんですよ」


 ハルカが手で大きさを示すと、レオンは興味深げに確認し首を傾げる。


「まだ大きくなってるの?」

「最近はそんなにですけどね。ナギ、私たちの友達のテオドラとレオンです。怖い人じゃありませんよ」


 ハルカの言葉を聞くと、ナギは縮めていた首を少しずつ前に出しテオドラの目前で動きを止めた。

 半歩ほど後退りをしたテオドラが笑いながら振り返る。


「普通大人しいから怖がらなくてもいいって俺たちにいうもんじゃないのか? やっぱなんかズレてんだよな」

「あ、そうですね。でもナギは本当に怖がりなんです。昔はよく私の背中に張り付いて人から隠れたりしてましたから」

「ふーん、こんなにでかいのにか」


 テオドラは恐る恐る伸ばした手で鼻先を撫でるが、ナギは静かに伏せて動かなかった。ハルカが大丈夫と言ったから大丈夫だろうと信じているのだ。


「本当に大人しいのな」

「いい子ですよ。私たちの話してることもなんとなくわかっていますし」

「へー、よろしくなナギ。俺、テオドラ」


 ナギは瞼をあげて一度瞬きをして、喉を静かに鳴らした。それでもゴロゴロと大きな音がするが、テオドラは一瞬動きを止めただけで、またその鼻先を撫でる。


「マジでわかってるっぽいな。今の返事したんだろ?」

「そうでしょうね」

「賢いな」


 そんなやりとりをしている間に、ようやくレオンもハルカの隣を離れてナギの近くまで歩いていく。

 鼻先を撫でて、確かに大人しいことを確認しているようだったが、昔と変わらずこの双子の中ではまずはテオドラが先に動くのが基本のようだ。


「あ、ハルカさんおかえりなさい!」


 そうこうしていると、庭先から声がしてサラが走ってくる。杖は持っているが、仕事に出かけるような格好はしていない。


「今日はお休みですか?」

「はい! 昨日まで〈黄昏の森〉の奥地までの調査に出てたんです。奥地といっても〈竜の庭〉の拠点よりは手前なんですけど。以前よりも危険な魔物が少なくなっているので、木こりの人は仕事がしやすいみたいで……」


 一気に話をしてからはっとサラは言葉を止めて、レオンやテオドラがいることに気づいて咳払いをした。それから、近くに知らない女性が立っていることに気がつくと、頭を下げて挨拶をする。


「初めまして、サラと申します。ハルカさんと同じ〈竜の庭〉で冒険者をしています」

「初めまして、サキと申します」


 サラは事情を説明してくれるのを待ったが、サキはそれ以上話すことがない。互いに停止してしまったところでハルカが間に入った。


「【ロギュルカニス】から一緒にきた、新しい仲間です。当分は拠点の方でできることを探してもらうつもりです」

「なるほど、新しい仲間ですね。どうぞよろしくお願いします」


 サラが手を差し出すが、サキはそれに対する答えが分からない。ハルカはサキの手を取ってサラの手を握らせて説明をする。


「仲良くしましょうという合図です。相手が友好的に手を差し出してきたら、こうして握ってあげてください」

「わかりました。サラさん、よろしくお願いします」


 ハルカのところには色々な人が集まってくる。

 この人も何か複雑な事情を抱えているのだなと察したサラは、にっこりと笑って軽く手を振った。

 〈竜の庭〉がサキにとっても、いつでも帰りたい場所になるといいなと願いながら。


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― 新着の感想 ―
そういえば性癖壊されちゃった少年元気かな(ぉ
漫画版から来て やっと追い付きました とても面白く読ませていただきました 続きを楽しみにしています
サキにとってはハルカ達に助け出されてからが本来の人の生き方になったわけで 新たな名前も貰い、いわばユーリと同じ「ハルカの娘」みたいなものだね。 ユーリは「だいぶ年下の兄」みたいな感じになっていくのか…
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