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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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双子の立場

 話をするために広いテーブルにつくと、ダリアがすぐに朝食の用意をしてくれる。

 サキは何もしていないことがいたたまれないのか、ダリアの後をついて回って雑用を頼まれている。


「僕たちは食べてきましたのでお構いなく」


 レオンが如才なく告げると、ダリアも軽く返事をした。

 毎日のようにやってきていたので、このやり取りも慣れたものなのだろう。

 目的の人がいないのに毎日押しかけている時点で遠慮も何もないが、そこもスタフォードの双子らしいと言えばらしい。

 準備をしている間、テオドラは行儀悪くテーブルに頬杖をついて口を開く。


「割と面倒なことになってるって聞いてたのに長旅なんて、随分余裕があるよな」


 テオドラが言っているのは〈オラクル教〉の神殿騎士たちと揉めている件だろう。

 ハルカたちとしては決着をつけたつもりだが、〈オラクル教〉の内部を見てきたテオドラからすれば、神殿騎士というのはそんなに容易いものではない。


「お二人はどのあたりまで事情を知っているのでしょう?」

「全然。コーディさんからハルカさんたちの所へ行って、現場で情報を聞いてそれぞれ判断するように言われました」

「すっごい雑な指示だねー」


 コリンの呆れかえった言葉に、レオンもため息をついて頷いた。


「一応、一つだけ約束したぜ。いざ何かあった時、選ぶとしたらどれってな」

「なんだよそれ」


 アルベルトから欲しい反応が返ってきて、テオドラはにんまりと笑った。


「〈オラクル教〉か、コーディのおっさんか、ハルカたちか」

「一番面白そうだからハルカさんたちって答えたら、好きにやれってさ。コーディさんって答えてればもうちょっと色々教えてくれたかもね。だから来てもやることがなくて、毎日皆が帰ってくるのを待っていたってわけ」

「それは、大丈夫なんですか……? 確かあなたたちの家は結構お堅い一族だと聞きましたが」


 スタフォードの家は代々教育者の家系と聞いていたから余計だ。

 サラの時のことを思い出しながらハルカは心配を口にする。


「表向きは枢機卿直属扱いだから、一族の中でも出世頭かな。教会内の立場で言うとフラッドさんと同じくらい? ま、部署が全然違うから比べても仕方ないけど」

「お給料出るです?」

「出る出る! 街に来てからさぁ、どうせ使うところないだろってフラッドの奴がたかってくんだよ。恥ずかしくねぇのかな、あいつ」


 フラッドは騎士と学院生だったころからの顔見知りだというのに、追いつかれて嫌な気分になるどころか、十以上年下の二人に酒をせびっていた。これもらしいと言えばらしい反応である。

 昔は双子に無視されていたフラッドだが、双子の方が成長したおかげで仲良くやれているようだ。


「そんなわけで、僕たちはどうとでも動けるってわけだね。個人的には、問題を起こしてくれたおかげで動きやすくなっていると思っているんだけど……」


 レオンは口元に手を当てながら悪戯っぽく微笑む。

 そこへやってきたサキがお茶を置いてさっと去っていく。

 やけに手慣れた配茶にレオンは普通に「どうも」と返事をして手を伸ばしてから、あれっと思いながら振り返る。


「そういえば、はじめましての人が何人かいるよね」

「そうだな。会うたび人が増えてるよな」

「あ、そうですよね。ええと、こっちが……」

「レジーナ」


 自己紹介をしなさそうなレジーナからと思ったら、腕を組んだままむすっと答えるレジーナ。知らないやつらに警戒心はマシマシだ。

 興味のないことはすぐに忘れるテオドラとは違って、頭に色々な知識が詰め込まれているレオンは名前と外見でその素性に気が付く。ただ、いつ噛みついてきてもおかしくなさそうな雰囲気に、余計なことは言わずに「レジーナさんですね」と名前を繰り返すだけにとどめた。


「それからお茶を出してくれたのがサキさん。色々ありまして、【ロギュルカニス】から一緒にこちらに来ることになりました」


 ぴたりと足を止めたサキは丁寧に頭を下げた。

 随分とかしこまっていることから、こちらも妙な雰囲気を察したレオンは余計なことを言わない。

 テオドラも頭のてっぺんからつま先まで一通り見た後「ふーん」とだけ返事をした。なんだか真面目そうな奴だなぁくらいの印象である。


「エニシだ」

「カーミラよ」

「ふーん。皆冒険者なのか?」


 カーミラのお嬢様然としたおっとり具合と、エニシの戦えそうにない小さく華奢な体躯をみて、テオドラが不思議そうに尋ねた。


「いや、ここで冒険者登録してんのは俺たちだけ」

「へー、ってことは非戦闘員をあちこち連れてけるくらいは強いってことか。よし、俺も色々連れてってもらうか」

「いいぜ」


 あっさりと許可を出したアルベルトに反対する者はいない。

 どこまで話してどれだけ協力してもらうかは考えなければならないが、短い間とはいえ共に旅をし、こうして遠いところを訪ねてきてくれた友人だ。今更彼らを疑う者はいなかった。


「えーっと、とりあえずみんなよろしくってことで、色々な話をしても大丈夫ってことでいい?」


 レオンが心配しているのは、これから行われるハルカたちとの情報共有についてだ。

 まず間違いなくよくわからない話が飛び出してくることを確信しているから、ハルカたちの方でゾーニングしてねというお願いのようなものであった。


「そうですね……」


 双子をのぞき、細かな話を知らないのはサキだけだ。

 だが、ここまでの人生を想えばサキが何か問題行動をするとは思えない。

 あり得るとすれば、教育不足による無意識の情報漏洩だが、まずは拠点でのんびりと人と生活に慣れてもらうつもりだからそれも問題ないだろう。

 外の常識を何も知らないので、聞いたところでちんぷんかんぷんだろうから、いずれ色々と世間の常識について教えてあげる必要はある。


「問題ありません。レオが……レオンと呼んだほうが?」


 こうして対面しても、なんとなくハルカとしては最初にあった頃の印象が強く、その頃の呼び名が頭の中に残ってしまっている。


「レオで良いよ」

「今更だよな」

「じゃあ、そのように。ええと、レオがさっき言っていた問題を起こしてくれたおかげ、というのは何でしょうか?」

「ああ、それね」


 レオンは出されたお茶を啜ってから、静かにカップをソーサーへ置いて答える。


「〈オラクル教〉との関係値が悪化している〈竜の庭〉。その仲を取り持つために元々縁のある僕たちがハルカさんたちの拠点で暮らして、危うい動きや妙な話があれば、〈オラクル教〉の方へ報告する。っていう適当な理由が付けられるでしょ。もちろん、いざ本当に何かあっても報告はしないし、ばれても適当に誤魔化すつもりでいるけどね」


 指を組んで少し身を乗り出したレオンの言葉は中々に策士めいていて、その顔にはどこかコーディに通じるような怪しい笑みがたたえられていた。

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