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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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訓練と成長

 ハルカが目を覚まして部屋から出ると、ちょうどコリンに遭遇した。


「おはようございます。早起きですね」

「うん。今日はご飯作らなくていいし、軽く体動かそうかなって。一緒に来る?」

「あ、それじゃあ折角なので」


 コリンの言う軽く体を動かそうは、本当にちょっとした運動だ。

 師匠であるゴンザブローが教えた技術の中には、当身もあるそうで、その形の練習なんかをする。実戦的なものなのだが、ハルカはどうも力加減を細かく調整するのが得意でないから、コリン程にはうまく決まらない。

 ちなみにこれがアルベルトの軽く体を動かそうは、ガッツリ動いて滝のように汗を流すまでやるので全く信用ならない。終わった頃に水を頭からかけてやると、冬場でも気持ちよさそうにするレベルである。

 庭へ出ていくと金属同士のぶつかり合う音。

 見ればアルベルトとレジーナが武器を打ち合わせている。

 本気でやっているわけではないから、体にあたったとしても身体強化を抜いて大けがする程ではないが、相手のスキをついて攻撃を与える訓練と考えれば十分以上の成果がある。

 勝敗を決める審判役としてモンタナが連れてこられているが、本人は地面にべったりと座って、戦いの音を子守唄に完全に目を閉じてしまっている。

 随分と長くやっているようで、二人とも汗だくで、段々とヒートアップしてきているようだった。

 明らかに体に武器が当たっていても訓練をやめないし、そもそもモンタナの判断すら仰いでいない。最低限相手を大けがさせないというルールだけは守っているようなので、ハルカとコリンは横を通り抜けて朝の運動を始めるのであった。


 十五分程度の軽い運動を済ませた二人だったが、庭では相変わらず武器のぶつかり合う音が響いている。眠っていたナギも目を覚ましたようで、顔の位置をずらして二人の訓練をじーっと見つめていた。

 モンタナも外の寒さにようやく目が覚めてきたのか、うっすらと目を開けてぼんやりとしている。しばらくするとモンタナはピピっと耳を動かして「そこまでです」とぼそりと呟いた。

 当然そんな声が聞こえるはずもなく、仕方なくコリンが声を張り上げる。


「はーい、そこまで! 終わり終わり!」


 武器がぶつかり合い、つばぜり合いから互いに距離をとった。

 全力で動き続けるというのは中々体力を使うもので、二人とも肩で息をしている。

 やはり実力的にはアルベルトよりも一歩先にいるようで、先に呼吸を落ち着けたのはレジーナだった。ハルカが出しておいた水球で顔をバシャバシャと洗って袖で顔をぬぐっている。

 少し間をおいて、負けず嫌いのアルベルトが無理やり呼吸を鎮めようとしながらもう一つの水球によってきて、顔を突っ込みブクブクと息を吐きだした。それなりに長いこと息を吐いてから、ぶはっと顔を出して口で大きく息をする。

 呼吸が乱れているのをごまかしたかったようだ。


「モンタナ、どっちの勝ちだよ」


 モンタナの視線が左にずれ、それから右にスーッとずれる。


「寝てて見てなかったです」


 目を合わせず答えると「見とけよ……」とアルベルトがため息を吐く。


「眠いのにそっちが勝手に連れてきたです」


 勝手に部屋に入り込んで腕を引きずるようにしてここまで連れてきたのは事実なので、今度はアルベルトの方が目を逸らす。思えば審判を頼んだ時に頷いているように見えたのは、ただ船を漕いでいるだけだったような気もする。


「あたしの勝ちに決まってんだろ」

「わかんねぇじゃん! 審判いないんだからわかんねぇじゃん!」

「わかんねぇほど雑魚かよ」

「は? わかるし」

「どっちの勝ちです?」


 アルベルトが無言で不満そうな顔をしてレジーナを見たことで結果は判明した。

 かなり勝率が悪いはずなのに、よくもまぁ毎回挑んでいくものである。


「くそう、最近レジーナの攻撃崩しにくいんだよなぁ」


 ぼやくようにアルベルトが呟く。

 いつからか我流ながらも基礎と素振りを大事にするようになったレジーナは、以前のような隙が随分と少なくなった。柔軟さを持ち合わせながら、攻撃をいなし続けても雑にならなくなってしまったので、付け入る隙がないのだ。

 強さにむらがなくなったという感じだ。

 一方でレジーナからしてもアルベルトは少しずつ戦いにくくなっている。

 基礎がどっしりとし過ぎていて、まともに正面から打ち合い続けると中々崩すことが難しいのだ。その割に一撃は重たく、仲間になって身体強化の訓練を積めていなければ、今頃勝てなくなっていたはずだ。

 言葉にしないまでも、良い訓練相手だと思っている。


 みんなして庭から屋敷へ戻ろうと通りへ出ていくと、ちょうど街の中心部の方から金髪の若者が二人並んで歩いてくるところだった。ローブを羽織り、旅の装いをした二人は、ハルカたちを見つけると笑って同時に手をあげる。


「お、やっと帰ってきたのか! 久しぶりだな」


 アルベルトが「よっ、久しぶり」と手をあげると、テオドラが駆け寄ってきて手のひらをパンと合わせる。


「元気そうだな。無駄にでかくなりやがって」

「無駄じゃねぇよ、戦いの役に立つ」

「相変わらずそんなことばっか言ってんのな」


 軽口の応酬は楽しそうだが、ふと視線を下に向けたテオドラは未だちょっと眠たそうなモンタナを見てにっかりと笑う。


「やっぱりモンタナはあんまり変わらないのな」


 身長的にはモンタナの方が幾分か小さい。

 初めて会った時は同じくらいの背丈であったのに、時がたつのは早いものである。


「でも僕のがお兄ちゃんです」

「分かってるって」


 昔と似たようなことを言われておかしかったのか、テオドラはけたけたと笑った。

 人見知りであっちこっちに突っかかっていた頃を考えると随分と明るく成長したものだ。


「お久しぶりです、ハルカさん。それにモンタナと他の皆さん」

「あのね、私たちをおまけみたいに言うのやめなさいよ」

「そんなつもりはないですよ?」


 明らかにハルカを贔屓して挨拶をして、すました顔で笑っているのはレオンだ。

 背はハルカよりもほんの少し高いくらいだろう。すっきりとしたイケメンに成長している。涼し気で知性的なふるまいをするから、さぞかし女性にもてることだろう。


「お久しぶりです。お待たせしてすみませんでした」

「いえ、会えるのを楽しみにしてました」


 あまり人に見せないような良い笑顔を出したレオンの腕を、テオドラが肘でつつく。相変わらず仲が良いことである。

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― 新着の感想 ―
追いついたー。 卵取りにはいつ行くんでしょう。
ハルおじってレオン視点から見れば 「美人でスタイル抜群な巨乳で優しくて面倒見が良く、それでいてちょっと抜けている所もあるが腕っぷしは滅法強くて(命の恩人でもある)どこかミステリアスな雰囲気もあり、なぜ…
クダン「ハルおじにΣ(-∀-;)忘れられた件」
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