表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1235/1483

兎追い

 先に空へ飛びあがったハルカはすぐに港へ向かい、遠方から箱をかぶせるような形で船を囲い込んだ。夜に向けて出港の準備をするものもいないようだったので、慌てた様子の人の姿も見えない。

 気づいたとしても船を丸ごと外へ出すほどの大穴をあけられるものはそうそういない。

 すぐに取って返したハルカは、途中で街の入り口に人がたくさん集まっているのを確認する。夕暮れまでに出ると言ったのに未だに島に居座るハルカたちと戦うために集められた精鋭だ。

 好都合だ。

 街で乱戦になるよりよほどいい。

 ハルカは目を細めて仲間たちの下へ急いだ。


 ナギの上ではカーミラと、海賊島に来てからずっとナギの上で障壁に守られているエニシがいた。


「そうか、カーミラも参戦するのだな」


 揺れるナギの上でじっと街を見つめるカーミラの背中にエニシが問いかける。


「ええ、お手伝いくらいに」

「……我も戦えればよかったのだがな。世話になって、ナギの背中にいるだけ。あらゆる意味でお荷物だ」


 厳しい自己評価を下しながらも、エニシは自己嫌悪に陥っているわけではなさそうだった。ただ事実を淡々と言って、遠くに見えるかがり火を眺めている。

 カーミラは振り返ってその表情を見ると、また前を向いた。

 落ち込んでいるようならと思ったけれど、そんなことはなさそうだと安心したのだ。


「……我はカーミラが羨ましい」

「戦えるから?」

「いや違う」


 遠くにぽつりと空を飛ぶものが見えた。

 ハルカが戻ってきたのだなと気づいたエニシは、話をさっと切り上げることにした。この話はハルカに聞かせたくなかったからだ。


「ハルカを王と頂く国で暮らせるからだ。我はついでに【朧】もハルカが治めてくれればと思うのだが、言えば間違いなく嫌がるだろう?」


 エニシが笑い話のように語りお道化ると、カーミラはまた「そうね」と笑って短く答える。


「だから我は力がないなりに頑張ると決めたのだ。ハルカや、あの怖い姉弟子の女王に自慢できるくらいに【朧】が安定すれば、ちょっとくらい恩返しになると思わないか?」

「素敵ね。必要なら手を貸すわ」

「うむ。そこまではさんざんに手を借りようと思っている。それまでは我はお荷物でも我慢しようと思っている。そして我はお荷物であることを自覚してるがゆえに、今回もここでおとなしくしているのだ」


 エニシはナギの上で偉そうに腕を組んで胸を張った。

 カーミラが小さく笑い声を漏らしていると、ハルカが戻ってきて門近くに敵が集まっていることが告げられた。


 ずんずんとナギの影が近づいていくにつれて、海賊たちの下っ端は体を緊張させた。剣で思い切り切りつけても傷一つ付かなかったという話は、もうすっかり噂として出回っているのだ。

 弓矢が効かないことも分かっているから、白ひげの海賊も最初から白兵戦を仕掛ける気で待っている。

 やがてナギが空に飛びあがり、その横にハルカの姿を確認した時、白ひげの海賊は号令を発した。


「突撃しろ!」


 空気を揺らす鬨の声と共に数百人の海賊が畑を踏み荒らし走ってくる。

 それと同時に、白ひげの海賊と頭領たちは素早く門の内側に身を隠した。

 魔法を使うと知っているから、ハルカがどれくらいの規模の虐殺をしてくるかを測る為、部下たちを捨て石にしたのだ。なにもやってこない甘ちゃんなのであれば、そのままアルベルトたちとの乱戦に持ち込む算段だった。


 ハルカは陣形がばらける前に、下っ端たちを囲うように障壁の準備をする。

 前後左右から挟んで土ごと海賊たちの下っ端を掬いあげたハルカは、彼らをそのまま上空まで持ち上げ、幾重にも障壁を重ねて放置する。色々と声が聞こえてくるけれど、そんなものにいちいち構ってる暇はない。

 道が開いたことでアルベルトたちが走り出す。僅かに残っていた下っ端たちを蹴散らして門の内側へ入ったところで、左右に分かれていた海賊頭領からの不意打ち。

 あらかじめモンタナからの「待ち伏せ左右です!」という声を聞いていたアルベルトとレジーナが、それぞれの攻撃を武器で打ち返した。

 アルベルトの大剣が海賊の頭領を袈裟切りにし、レジーナの金棒がもう一人の海賊頭領の頭部を壁にたたきつけて潰す。

 

 白ひげの海賊は後方で舌打ちをする。

 これも鼻息の荒い連中を、アルベルトたちの戦力分析のためにけしかけただけであったが、想像していたよりもかなり強い。

 これはいかんぞと察した海賊頭領が数人。

 ぶち殺してやると息巻いたのが大多数。

 四方八方から一斉に攻撃を仕掛けられて、応戦したアルベルトたちは、街に散っていく白ひげの海賊たち数人を追いかけることができなかった。


「逃げんじゃねぇ!」


 アルベルトが怒声を浴びせたが、そんなものにつられて戻ってくるような輩は、最初から撤退を選んでいない。それぞれが、一人でも叩きのめして人質にとればまだ活路はあると判断して、街に潜伏する気でいた。

 もしハルカが初手で海賊の下っ端を魔法で殲滅するようであれば取れなかった作戦であるが、あの調子ならば街を焼き払うようなことはしないだろうと判断したのだ。

 なかなか作戦通りにはいかないものだ。


「ハルカ! 逃げたの追って!」


 コリンが空に向かって叫ぶ。


「任せていいんですね!?」

「ぜーんぜん大丈夫!」


 馬鹿にされたと憤慨する海賊頭領が一斉にコリンに斬りかかる。

 コリンは懐に潜り込み、最初の一人のみぞおちを掌打。

 体が折れ曲がったところで、それを背負うようにして他の頭領からの剣撃を受け止めて、人を巻き込むようにして投げ飛ばす。

 視界が晴れた瞬間にコリンに襲い掛かろうとしてた者たちの首は、空気を割きながら迫ってきた大剣によってまとめて刎ね飛ばされていた。

 血しぶきを浴びないように姿勢を低くして移動したコリンは、そのままアルベルトに背中を預ける。

 それぞれが血みどろの戦いを繰り広げる現場だったが危なげはなさそうだ。

 モンタナなんて、時折危うい様子を見せるアードベッグを庇いながら戦っている様子すらある。それでも次々と出てくる頭領たちは、無視して通り抜けられるほどには弱くなかった。

 本当に戦いというのは思ったようにいかないものである。


「任せます!」


 まもなく日が落ちて暗くなる。

 万が一がないように、ハルカはアルベルトたちの頭上に光球を浮かばせて明かりを確保し、辛うじて背中が見えている白ひげの後を追いかけた。

 見失う前に白ひげの海賊の後を追ったハルカの後には、ナギも続いて飛んでいく。

 しょっちゅう屋根の下を通り過ぎるせいで、捕まえることが非常に難しい。

 幾人かは障壁の中に閉じ込めることに成功したが、数人はするりと家に飛び込んで逃げて行ってしまうのだ。

 鬼ごっこはしばし続いたが、やがてその集団もばらけ始める。

 おそらく一番厄介であろう白ひげの海賊の方へ向かったハルカの背中に、カーミラの声が響く。


「お姉様、私はあちらを!」

「お願いします!」


 さらに集団は分断され、ナギの上では二人が言葉を交わす。


「行ってくるわ」

「気を付けて」


 カーミラの宣言にエニシが短く返事した瞬間、その姿がぐずりと崩れた。

 初めて見たエニシは息を呑んだが、なんてことない。

 夜が訪れ、カーミラがその体を空に飛ばすための準備をしたに過ぎない。


 カーミラはなんとなく、自分でも理解できていないけれど、ハルカの前で吸血鬼としての能力をあまり使いたくなかった。ようはかわい子ぶっているだけなのだが、人に甘えるのが久しぶりなカーミラはそのことがわからない。

 そしてその甘えはハルカの目がなくなればなくなる。

 カーミラは自分の力を存分に仲間のために使うつもりだった。

 黒いすすのような何かが再び形を宿したとき、紅い眼をした夜の支配者は、海賊頭領たちの前でうっすらとほほ笑んで、僅かにその牙を外に覗かせていた。


なんか!

最近ランキングあがっててどんどんぱふぱふなので、この機会に本作にブクマと★★★★★を投げて、ランキングを駆け上がらせてみるっていうのどうでしょうか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お遍路の如く 追い付いたとき何話進んでるかな
とっとと殲滅しろよ。ごきぶりだろう。逃げられると面倒じゃん。半魚人と同じ扱いでいい。 以上
駆け上がってくださいね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ