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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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あんしん

 ナギの背に乗って出発したハルカは、盛大にため息をついた。

 先ほどのならず者、間違いなく何か悪さをしているタイプだと確信しているにもかかわらず、あまり強く出られなかった自分にがっかりしていた。

 急いで帰らなければいけないという事情もあったが、用事が終わり次第、とって返して様子を確認しなければならない。今度は仲間たちも連れて徹底的にだ。

 正義の味方を名乗るつもりはないが、放っておくとなると喉に小骨が引っかかったような感じになる。

 仲間たちがいないとどうにも自分は半人前だと、ハルカは俯いて首を振った。


「元気がないな」

「対応が上手くできなかったので」

「そうか? あの場を乗り切るには十分だったが」

「……あの男、何か悪さをしていそうで。しかしそれを確認する手立ても思いつかず。というかそもそも、力で脅すようなやり方は好みません」


 〈混沌領〉の話を聞いていたエニシは、ほぼすべて力で乗り切っているではないかと思った。ただ、穏やかなハルカの性格を考えると、それも突っ込みづらい。


「同時に……、ああいった類の人が、力によってしかどうにもならない傾向にあることもわかっています」

「そうだろうな」


 引けばその分前へ出てくるようなごろつきに、弱い部分は見せてはいけない。

 よくアルベルトたちの言う、舐められてはいけないの部分なのだろう。

 わかっているのについやってしまうのが、ハルカは自分の悪いところだと考えている。


「どうもいつまでたっても私は、皆と一緒にいないと半人前なんですよね」

「そんなことはないと思うが」

「……ありがとうございます」


 慰めのつもりで言った言葉ではなかったけれど、ハルカはそうは受け取らなかったようだ。

 もしかしてしばらく仲間と離れ離れになってるから、寂しくなっているんじゃなかろうか。

 そんなことを思いながら、エニシは落ち込むハルカを見守っていた。



 【ロギュルカニス】の沿岸で一休みしてから、翌日昼にはついに〈フェルム=グラチア〉へ到着したハルカは、ナギを街の外に待たせてまっすぐ宿へ向かっていく。

 普段はナギがいると怖がられてしまうが、今回の場合はナギがいることが何よりの身分保証となって、あっさりと街へ入ることができた。


 街はハルカを見ると少しざわついて変な感じだ。

 宿へ着いても、どうも様子がおかしい。

 勤勉な宿の主は毎日のように宿の前を掃除していたが、今日は端の方に枯葉が引っかかっているようだった。

 窓には板が打ち付けられて、簡易要塞のように改造されている。


 自然と早足になったハルカは、焦る気持ちのまま宿の扉を開けて、ほっと胸をなでおろした。


「あ、おかえりハルカー」


 宿の中にはカーミラに膝枕をされてだらんと寛ぐコリン。

 いつもと変わらない挨拶に、なんだか全身の気が抜けてしまった。

 知らぬうちに少しばかりささくれ立っていた心が、瞬く間に融解していく。

 海賊らしき男に対してとった行動もここにきて振り返ってみれば、正しいか正しくないかは別として、少し自分らしくなかったかなと思うハルカだ。


 カーミラはうつらうつらとしていたようだが、コリンの声を聞くと顔を上げ、「おかえりなさい、お姉様」と緩く笑った。

 モンタナは床に座っていたけれど、手作業を止めて顔を上げ、尻尾をゆらりゆらりとゆっくりと振っている。


 アバデアたちからも次々と挨拶が飛んでくれば、それを聞いたのか中庭からアルベルトとレジーナが戻ってくる。


「おせぇ」

「あ、すみません」


 なぜかレジーナに文句を言われたが、そんなに悪い気もしないハルカは軽く頭を下げる。素直に待っててくれたんだなぁと思うと随分な成長だ。

 続いてアルベルトが汗をぬぐいながら、にっかりと笑う。


「やっと帰ってきたか。いやー、暇だったわ」

「ということは、何もなかったんですね……」

「いや、あったけど」

「え?」


 アルベルトの言葉によって生じた安心は、あっさりとそれを否定される。

 宿がこんな状態で何もないわけがないのに、楽観的に考え過ぎだ。


「そーそー、色々あってさ、やっぱハルカがいないとねーって」

「そですね」

「ありがとうございます……?」


 よくわからない納得をする仲間たちに礼を言っていると、ハルカの後ろにいたエニシにカーミラが声をかける。


「エニシちゃんもおかえりなさい。女王様怖くなかったかしら?」

「怖かった……!」

「そうよね、怖いわよね、あの人……」


 エリザヴェータにはカーミラも一度対面したことがあり、苦手意識を持っている。

 ビシバシと遠慮なく言葉が飛んでくるので、のんびりと千年も生きてきたカーミラとは相性があまり良くない。

 そんな共感をする二人の姿に笑って、コリンはソファを詰めて席を空けてやった。

 間にエニシが座り、対面にハルカが座れば、仲間たちが集まってきて自然と話し合いの形ができる。


「それじゃあ、まずは互いの状況報告からね。ハルカの方はどう?」

「あ、私の方はつつがなく。ちゃんとお手紙貰ってきましたので、当初の目的は達しています。途中立ち寄った島で海賊らしき人たちを見かけたくらいでしょうか。状況が落ち着いたら、悪さをしていないか確認しに行きたいです」

「へー、海賊かよ」

「その話は後で詳しく聞かないとね」


 留守組は海賊と今回の事件に関連性があることを知っている。

 ハルカは妙な反応に首をかしげたが、これから話すことを聞けば納得することだろう。


「じゃ、今度はこっちの番ね」


 コリンがハルカが出かけた日からのことを、順を追って話していく。

 驚いたり眉を顰めたりしながら、ハルカは良い聴衆として最後まで黙って話を聞いたのであった。

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― 新着の感想 ―
待っててもおしまい、逃げてもおしまい。ご愁傷様です…。でも自業自得だよねー!!
待とうが逃げようがもうお終いなんだよなぁ(海賊)
ドワーフさらった海賊がこいつらか 島で待とうが逃げてようが結局ハルカたちに拾われてロギュニカルスに連行される予感
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