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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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心の余裕

 障壁を確認。

 ナギは起きていて、何かいるなーと目を右へ左へと動かしている。

 急に首を動かすと人を驚かせてしまうので、こうして大人しく様子を見ているのだ。逃げられてしゅんとしてしまうナギがかわいそうで、ハルカたちが教え込んだ成果である。

 ただ、こういった状況に限れば盛大に近寄って観察してもいいのだが、その違いを教えるのは難易度が高い。

 もう少しナギが育ってきてからの課題になるだろう。


 それから隣を見るとぴったりとナギに体を寄せたエニシが、もごもごと口を動かしている。幸せそうな顔から推測するに、美味しいものを食べる夢でも見ていると思われる。

 三十代にしては無邪気な寝顔である。


 寝ているなら寝ているで怖がらせる必要はない。

 ハルカがそーっと立ち上がろうとしたところ、ローブの一部がエニシの下敷きにされていることに気が付き、時間をかけてゆっくりと引き抜く。

 一仕事終えてハッと顔をあげると、こちらを囲んでいるむくつけき男たちは、ジッとハルカを見て大人しくしていた。

 よく見れば男たちは障壁の外でずっと待機しているのだ。

 ナギまでぐるりと障壁で囲っていたせいで、その範囲は随分と広くなっている。

 つまり彼らはやってきて障壁の存在を確認し、その外でお手上げ状態になっていたということだ。

 こっそり壊そうとしても壊せなかったのだろう。

 もしかしたら話をするつもりで静かに起きるのを待っていてくれたのだろうか。

 そんなことを頭の片隅にでも思い浮かべているハルカはおめでたい。


 ハルカが話をしてみようかと一歩踏み出した瞬間、周囲がざわめきだし、数秒もしないうちに汚い言葉が飛びはじめた。とてつもなく汚い言葉だったのでハルカは目を丸くして立ち止まってしまったが、いくつか主な内容をまとめるならば『俺たちの島に勝手に入りやがって』『ぶっ殺すぞ』『金目の物を出せ』『障壁をどけろ』と言った感じである。


 これまで黙っていたのは、障壁がどこかで消えたら眠っている間に襲撃してやろうと考えていたからに他ならない。

 彼らの罵詈雑言は留まるところを知らず、ご機嫌におやすみしていたエニシが飛び起きる。


「ななな、なんだ、なにがなんだ!?」


 ハルカは飛び起きたエニシの耳を咄嗟に塞いだ。

 女性には聞かせるべきではない言葉が山ほど飛んできていたからだ。

 確かに勝手に島に入ったのは悪かったけれど、あまりに酷い歓迎だ。

 まだ幼いナギにも汚い言葉はあまり聞かせたくない。


「ナギ……、聞いちゃだめですよ」


 ナギがぐるんと首を回して、不安そうな顔つきでハルカのすぐ横に顎をおろした。

 なんだか悪いことを言われていることはナギだって分かっているのだ。

 動き出した瞬間、罵声が一瞬おさまる。

 大人しくしていたから調子に乗っていたけれど、顔だけでも人を圧殺できそうな竜が突然動いたのだ。静かにもなろうものだ。


「なんなのだ、あいつらは……」

「分かりません。聞いてみますか?」

「ん? 今何か言ったか?」

「あ、聞こえませんよね、塞いでいたら」


 折角静かになったので、エニシの耳から手を放す。


「起きたら囲まれてました」

「……気づかなかったのか?」

「私、あまりそういうの察知できない方でして。何者か聞いてきますか? 怒っているようですし」

「そ、そうだな」


 いつの間にやらすっかりたくましくなったハルカは、いざとなれば空へ飛んで逃げてしまえばいいかとエニシに相談をする。

 エニシは混乱していたけれど、ハルカが慌てていないお陰で冷静さを保っていた。

 ハルカもエニシがいるからしっかりしないといけない、と考えている部分があるのでお互い様だ。


「お、起きちまったのか? おい、どけコラ、邪魔だ」


 声が聞こえると囲みが割れて、その奥から妙な男が姿を現した。


「おい女コラ! 下りてきやがれ!」


 ほぼ上裸に辛うじて腕に布を通しているような格好をした男が、筋肉をぴくぴくとさせながらハルカたちに要求を突きつける。この男、ナギを見ても動揺していないようだ。

 今の季節は冬。

 北方大陸よりはだいぶ暖かいとはいえ、肌を露出して過ごすような季節ではない。

 見ているだけで寒くなる。


「ちょっと話をしてきます」


 どうやら話ができるものが現れたので、エニシに一言告げたハルカは丘を下りていく。あとからナギの首が伸びてついてきているが、堂々たる体躯を持った男はやはり怯えるそぶりを見せなかった。


「すみません、勝手に島に着陸してしまって。この辺りの地理に詳しくないものですから」


 男の身長は二メートルほど。

 体の分厚さもハルカの数倍はありそうだ。

 威圧感のある見た目だが、あの巨人たちの長と正面から殴り合ったハルカは、大きいなぁという感想を持つ程度にとどまっている。

 あとこれだけ筋肉を育てるのって大変だろうなぁと見当違いのことを考えるくらいの余裕はあった。

 〈混沌領〉の旅は、ハルカにこびりついていた小心者の感覚をついにほとんど取り払ってしまったようである。



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― 新着の感想 ―
これもしかして話に出てきた海賊島か?
そのダークエルフがその気になれば、何百人居ようが輩共全員を瞬時に絶命させられるくらいに比嘉の戦力差は絶望的なんだが… 「デカい龍さえどうにかなれば女二人だ!勝てる」とか馬鹿な事考えてるんだろうなぁ… …
ナギがいるのによく囲めるな…。私だったら絶対近づかないぞ
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