互いの状況
漫画二巻予約始まっております
ぜひにご購入の上、初々しいハルカたちをご覧くださいませ!
今度こそ話は片付いた。
ナッシュもヒューダイも、他の十頭も、それぞれ思う部分はありながらも、滞っていた自分たちの仕事を片付けるべく奔走し始める。
穴の空いた四つの椅子は、宿に滞在していた頭脳労働を主にしている二人が一時的に請け負った。
ナッシュが文句を言いながら最低限の仕事をこなし、ヒューダイがそれをサポートするような形だ。
兵器開発は一時中断。
ヒューダイが普段受け持っている貿易関係は、出航を完全に停止し、ハルカの帰りを待っている状態なので、それほど動きはない。
宿に残っているアルベルトたちはというと、今度こそやることがなくなって、自主訓練をして喋るだけの毎日を過ごしていた。
「ハルカいつ帰ってくるんだろうねー」
せっかくの機会だからと、モンタナはコリンと体術での手合わせをしている。
コリンはつぶやきと共に、力を入れていた方向を瞬時に切り替えて、ぽいっとモンタナを投げる。
モンタナは逆らわずに飛んで宙にくるんと一回転して綺麗に地面に着地した。
訓練はお互い投げるところまで。受け身の取れない技を禁じ、極めきったり、倒れたところへの追撃は無しとしているので大きな怪我はしない、はずだ。
アルベルトとレジーナはぽいぽいと投げられて、仕組みが感覚的に理解できず早々に諦めて二人の訓練を見ている。
殴る蹴るならまだしも、力の流れを意識して操るような投げ技に関しては、三人ともコリンに敵わない。
何せコリンは瞬時に身体強化で力を込めたり抜いたりすることが得意だから、どうしたって翻弄されてしまうのだ。
モンタナは力の流れのようなものはなんとなくわかるのだけれど、ならばと身構えると今度は逆側に体が持っていかれるということを繰り返している。
どうにも細かな力の押し引きは難しい。
「早くても十日くらいはかかると思うですよ」
「あー、まだ半分ちょっとかぁ」
続けても今コツを掴むのは難しそうだと判断したモンタナは、両手を軽く上げて「終わりです」と降参した。
「じゃ、休憩」
軽く汗ばむ程度の運動。
宿の中に戻りながらコリンは言う。
「ハルカがいないとさぁ、なんか真面目な感じになっちゃうんだよね」
「あー、まぁな」
アルベルトが同意すると、コリンは近くにあった椅子を引きながら続ける。
「ハルカはいつも真面目なんだけど、なんか楽しそうに私たちのこと見てくれてるから、いるだけでちょっと落ち着くんだよね。っていうか、旅先ではずっと一緒だったから、離れると変な感じっていうか……。ね、二人もそう思うでしょ?」
「そですね」
モンタナは椅子に腰掛けて素直に返事をしたが、レジーナは少し考えてから返事をせずに水を飲みに行ってしまった。
否定しないあたり、レジーナも違和感は覚えているのだろう。
「早く帰ってこねぇかな」
「ねー。カーミラも結構気を張ってるっぽいしさぁ」
コリンたちはナギの背に乗っているであろうハルカに思いを馳せる……。
◆
その日の夜。
ハルカは大きな島を見つけて、休息を取ることにした。本当はもう少し手前で降りるつもりだったのだが、どこの島にも船がバラバラと停泊していたので、降りることを控えていたのだ。
そうして夜は更け、いつの間にやら島の影もあまり見えなくなってきてしまった。
そんな中、高度を低く飛ぶことで、辛うじて確認できたのがこの島だったのだ。
島の北には明かりが灯っており、何者かが住んでいることがわかる。
往路では一晩島で過ごしただけで、朝にはすっかり囲まれていたという経験をしたハルカだ。どうせ泊まるならば大きい島のほうがいいかと、灯りがない方へ降りることに決めたのである。
ちょっとした丘に着陸したナギは、尻尾でぐるりとハルカたちを囲む。
こうすれば風除けになるし、ナギの体温で周囲はふんわりと温まる。
眠る時はハルカとエニシはすぐ隣で、ナギに寄りかかるようにしてだ。
「……みんな大丈夫ですかね」
「それはどういう意味でだ?」
無事だろうか、という意味なのか、あるいは妙なことをやらかしていないだろうか、という意味なのか微妙なところだ。
「もちろん、元気にしてるかという意味ですよ」
「大丈夫だろう」
「ええ、そうだろうとは思うんですが……。物騒なところに置いてきてしまったので心配で……」
「物騒か……」
言われてみれば確かにそうだけれど、エニシはあの面々がどうにかなっているような想像はできない。
エニシ自身は戦う力がないので、みんな異常に強いってことくらいしかわからないのだ。その上あの国の強そうな奴は味方についていたし、ハルカがこんなに心配する意味が理解できない。
「心配性だな」
「そうですか?」
「以前何かあったのか?」
何かあったかと聞かれると、一番ヒヤヒヤしたのはおそらく、大竜峰でヴァッツェゲラルドに酷い目に遭わされた時だ。
「あったといえばありましたけど……」
よく考えると焦ったことは数あれど、そこまでギリギリの危ない状況になったことはそれほどないような気もする。
「ふむ、いつのことだ? 聞かせてほしい」
大竜峰のことを話すと、自然と知られたくないことまで話さなければいけなくなる。さてどうしようかなと、幾つか別の話をしているうちに、エニシはコクリコクリと船を漕ぎ始めた。
ハルカは話の途中で口を閉ざし、自分も目を閉じて朝を待つ。
一応周囲に障壁は張ってある。
訓練の結果、眠っても維持することができるようになった、らしいが、今一つ自分の意識のない間のことだから自分を信用できていない。
だからこの移動の間は、目を閉じて休むことはあれど、あまりちゃんと眠っていなかった。
夜の間ちゃんと体を休めているし、自分に治癒魔法をかけてみたりしているおかげか、不思議と体調の悪さは感じていない。
ハルカは目を閉じて静かに朝を待つ。
そんなハルカたちは、外が明るくなった頃、すっかり周囲をぐるりと、何者かに取り囲まれていた。
眠らずにいた意味があったのかどうかは、ちょっと微妙なところである。





