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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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後手後手

 レジーナの攻勢は止まらない。

 相手が紙でできているのではないかと思えるほどに容易く人を宙へ弾き飛ばし、着実に戦力を削っていく。

 張り切っていたアルベルトは慌てて後に続くが、最前線はどんどん前へと進んでいく。仕方なくレジーナが討ち漏らした者を相手にするような形となってしまった。

 完全にレジーナの勢いに押されて及び腰になってしまっている集団の中に飛び込み、大剣の平の部分でガインガインと横っ面をひっぱたいていく。どういう処遇になるかわからないので、一応生かしておこうという判断であった。

 そうでなければ真っ二つに斬り裂いて進んだ方が早い。


 前方は任せていいとすぐに気づいたのか、アキニは他の場所から敵が飛び出してくるのではないかと警戒をし、ズブロクは鼻息をふんっと荒く吐き出して、のっしのっしと戦場に乗り込んだ。

 そうしてなぎ倒されただけで怪我のないものの頭に、アルベルト同様戦斧の刃のない部分をゴツンゴツンと振り下ろしていく。後始末を任されているようで不満はあったが、一度手合わせをした若者の動きを客観的に見るのは面白い。

 大人しく作業を続ける傍ら、そういえば小さいのがいないなとふと周囲を窺うと、小さいのことモンタナはいつの間にやら周囲の屋根を走っていた。


 戦いが始まるや否や壁をトントンと蹴って屋根に上ったモンタナは、そこからぐるりと辺りを見渡し、先ほどのようにボウガンを構えた敵がいないか探していたのだ。

 そして一つの家の屋根上に三人ほどの小人が並んでいるのを発見し、屋根の上を飛び回りながら接近していた。

 小人たちもそれに気が付くと、順番にモンタナに向けて矢を放つ。

 矢の速度は速く、威力は屋根を突き刺し貫通する程であったが、当たらなければ意味がない。

 時に減速、加速を繰り返しながら距離を縮めたモンタナは、ついに接敵。

 相手がナイフを抜いている間に、剣の柄頭で一人のこめかみ、鞘でもう一人の喉、更に身をかがめてナイフの一撃を躱してから、足をばねのようにして立ち上がり、そのまま無事である小人の顎を頭でかちあげた。

 ほんの一秒程度の間に、きれいに三人ノックアウトしたモンタナは、さっと武器をしまって、屋根から落ちていきそうになる小人たちの服を掴まえ、目の端に映った藁束の上にぽいぽいと放り投げた。

 モンタナだって毎日のように身体強化をし続けてきているのだ。

 見た目以上に力がある。


 屋根の上にはもう敵がいないことを確認したモンタナが、再び壁を蹴りながら地面に降り立ち、敵の集団背後を狙おうと路地から飛び出すと、正面からレジーナと相対することになった。

 ここまで一分にも満たぬ出来事である。


「……アキニ将軍はいつもあんなの相手にしてるわけ?」


 アルベルトたちの戦闘を息を呑んで眺めていたナッシュが、アキニに問いかける。


「まさか。ナッシュも見たことがあるでしょう。あれほど練度の高い敵なんて、そうそうお目にかからないよ。もしいた場合は私が相手にすることになるけれど」


 アキニの言う通り、ナッシュは幾度か実際の戦場に同行したことがある。

 列を作り整然とボウガン部隊で対応し、相手を十分に崩した後突撃をするという戦いは見たことがあるが、イレギュラーが混ざる戦いは見たことがなかった。

 なぜそんな戦いしか見たことがないかと言えば、アキニが情報戦も大事にするタイプの将軍だからだ。そんなよくわからない敵が出そうな戦場には、ナッシュを連れていったりしたことがない。


 おしゃべりをしているような時間はなかった。

 集団が片付けば、アキニはすぐさま兵士を二つに分けて、その後始末に移る。

 片方は集団の捕縛。

 もう片方は建物内の調査である。


 それなりの建物であっても、十数人で一斉に入れば調査などすぐに終わってしまう。兵士たちは木箱に隠された地下道への入り口を見つけたが、どこにもカティの姿は見当たらなかった。

 報告を受けたアキニは、兵士たちに再度指示を出す。

 今度は街全体に捜索範囲を広げて何としてもカティを捕まえなければならない。

 ズブロクたちは西半分、アキニは東半分の調査と部隊が分けられた。

 兵士が四方八方へ散っていくのを確認し、アキニはアルベルトたちへ話しかける。


「私は最初に君たちの宿へ向かい、そこから調査を広げるつもり。アードベッグたちを守らなければいけないから、移動には時間がかかるだろう。君たちには先行してもらいたいと思うのだがどうかな」


 どうせ引っ込んでろと言っても首を突っ込んでくるのだ。

 だったら最初から行動を制御できる方がいい。


「よし、任せておけ」

「頼んだ」


 アキニの提案に一も二もなく頷いたアルベルトは、さっさと宿へ向けて走り出そうとして、一瞬だけ止まり、モンタナを先にやってからその後に続いた。

 今は道を間違えている場合ではないと冷静な判断ができたらしい。


 アキニは十頭たちを連れてアルベルトたちの後を小走りで追いかける。

 途中、息を切らしながらヒューダイがアキニに尋ねる。


「あの、カティさんのお子さんは、アキニさんの下にいたのですよね?」

「……そうだ」

「軍で亡くなって、カティさんは訴えを起こしてます」

「よく知っているな」

「訴えは、退けられました。アキニさんは、カティさんに、何を言ったのか、覚えていますか?」


 ヒューダイは時折冷たくも見えるアキニの態度を不安に思うことがあった。

 【ロギュルカニス】の将軍。

 【焔氷の舞姫】と呼ばれるアキニの言葉はどこまでも冷静で、その二つ名に反してあまり感情の熱を感じられない。

 ヒューダイは、カティの起こした二つの訴えにこそ、今回の騒動の根っこがあるのではないかと考えたのだ。


「兵士としての役割をまっとうした。判断に間違いがあったとは思えない。英雄として名を遺すのは、大抵死んだものだ、と、そのようなことを言った記憶がある。彼女は興奮していたから、何を言われたかまではつぶさに覚えていないけれど、酷く責められたと記憶しているよ」


 ヒューダイはついていくのに必死で、ハッハッと荒く息を吐きだした。

 そうして戦場と日常の考えの違いについて思いを巡らせるのであった。

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― 新着の感想 ―
ヒューダイの考え方は正論かつ中立的で一見いい感じの様だけれど、今するべき話しではない点が、何と言うかこの人をどうしても信用出来ないと思わせる。
 やんちゃで危険を顧みない誰かが先に死んでくれるから、戦えない誰かの命が助かってるのだから、仕方ない。  戦士の文化は当事者の母親としては受け入れ難いでしょうけれど、それなら子供が戦う者になった時点で…
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