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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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火の肌を持つ男

 雑談に興じているアルベルト達を見つけたアキニは、珍しく渋い顔をして早足で近寄ってきた。少し遅れてアードベッグと、なぜか十頭の一人である、肌の焼けたドワーフがのっしのっしと歩いてきている。


「なぜ宿を離れたのかな?」

「大体片付いたんだろ?」


 アルベルトが答えると、アキニはちらりとアードベッグ邸の焼け跡に目をやってから頷く。


「確かに組織的に動く力はなくなったはずだが……、宿に護衛は残してあるね?」

「何か心配があるです?」

「徒党を組んでいた者は討伐したけれど、カティの死体を確認出来ていない。流石のドワーフでも、燃え盛る炎の中に飛び込むことができずにいたからだ。ようやく火がおさまったところで、これから確認を進めていくところだ」

「さっさと確認しとけよ」


 ぼそっと呟いたレジーナの言葉にも、アキニは腹を立てたりはせず冷静に答える。


「火や建物の崩落に気を取られて、いざカティがどこかに潜んでいた場合、調査に入った兵士の命が無駄になる可能性がある。囲んでおけば逃げられないのだから急ぐ必要はないだろう」


 自分から言い出したくせに、理路整然と説明されても聞く耳を持たないのがレジーナだ。小さく鼻を鳴らしてくすぶるアードベッグ邸を見つめている。


「今まで出てこなかったんだから、普通に死んでるだろ」

「……アードベッグ邸には地下の酒蔵がある。そこに潜んでいればあるいは」

「流石に頭の上で火がずっと燃えてたら厳しいと思うですけど」

「経験がないからわからない。だからこそ囲みを解かずにいた。これからボルスに協力してもらって地下を検分する予定だ」

「一緒に行ってもいいです?」


 モンタナがじっとアキニを見つめて尋ねる。


「自分の身は自分で守るように。……君に見つめられるとなぜだか内心を見透かされているような気分になるね」

「そですか」


 鋭い指摘を受けたモンタナであったが、特別調子を崩すこともなく、短く理解の意を示して引き下がった。

 十頭が五人も集まってぞろぞろと焼け跡へ歩いていく。


「まったく、前代未聞だよね。十頭がこんな事件を起こすなんて」

「……遥か昔にはよくあったそうですよ」

「お前、ホントに歴史とかに詳しいよな」


 一番後ろで雑談をしているのはナッシュとヒューダイで、最前線ではボルスが燃えカスを蹴散らしながらずんずんと進んでいく。時折まだ火のついた炭なんかを掴んでポイっと投げ捨てているが、その表情はピクリとも動かない。


「なぁ、あのおっさんやけどしねぇの?」

「ボルスは特別火に強い。彼一人なら燃え盛る炎の中にでも突っ込めるよ」

「流石に冗談だろ」


 アルベルトが笑ったが、アキニは「いや、本当だよ。彼は火の神に愛されている」と真顔で答えた。何の痛痒も感じぬ様子で黙々と道を作っているのをしばらく見ていたアルベルトは、どうやらその言葉が真実であるようだと悟って目を丸くしてみせた。


「神子ってことか」

「それはなにかな?」

「【神聖国レジオン】じゃ、特別な力をもってるとそう呼ばれるらしいぜ」

「神の子、まぁ、そうかもしれないね。鍛冶のために生まれてきたような男だもの」


 アキニはしゃべりながら腰につけた、ボルス謹製の剣の柄を指先でなぞった。

 表情は少しだけ穏やかだ。


「ここだな」


 しかしアードベッグの声がしたところで、アキニの表情はすぐに引き締まる。

 石造りの建物であるから、地下室への入り口も壊れずにその場に残っていた。

 ただ、それを塞いでいた木製のドアはすっかり燃え尽きており、真っ暗な階段が口を開けているばかりだった。


「……流石に煙と熱が入り込んで無事ではいられないと思いますが」

「熱も煙も上へ昇っていく。分からん」


 ヒューダイの言葉を否定するように珍しく言葉を発したボルスが、そのまま地下室へ乗り込もうとした。しかしそれをアキニが肩を叩いて止める。


「私が先に」

「熱がこもっているやもしれん」

「その気配があれば出直すから」


 二人はしばらく見つめ合ったが、やがてボルスがため息を吐くと先頭をアキニに譲った。アキニが腰から二振りの短剣を抜くと、そのうちの片方がぼんやりと炎を纏った。


「うお、なんだそれ、めっちゃかっけぇ!」


 急にテンションが最高潮まで上がったアルベルトが叫び、モンタナも目を見開いて二振りの剣を観察する。炎を纏っていない方は、うっすらと冷気のようなものを発していた。


「羨ましいかい? これはボルスが私のために作ってくれたんだよ」

「羨ましい!」

「そう。素直にそう言ってもらえると気分がいいね」

「俺も欲しい!」

「駄目だよ、ふふ」


 珍しく表情を崩したアキニが、とんとんと階段を下っていく。

 地下は少しばかり温まっているようだったが、下るにつれてひんやりとしてきて、そこが十分に人が生きていられるだけの温度が保たれていたことが分かった。

 警戒を強めたアキニは、炎の剣を前に出し、視界を確保しながら進んでいく。

 暗がりにカティが隠れているとすれば、灯りを掲げているアキニはいい的だ。


「待て」


 今度はボルスがアキニの肩を掴んで歩みを止める。


「何かな」

「少しだけ待っていろ」


 そう言ったボルスは階段をのしのしと上っていき、炎を纏った炭を一抱えも持って戻ってきて、ポイっと地下室へ放り投げた。

 その瞬間アードベッグが盛大に顔をしかめたのは、酒蔵に保管してある酒のことを思ったからだ。とはいえやめてくれと口に出すような事はしなかったが。

 うすぼんやりと照らされた地下室には、今のところ人の影はない。


「ありがとう、ボルス」

「気をつけろ」


 やり取りの直後、アキニは階段を一段飛ばしで駆け下りて、そのまま地下室の真ん中まで躍り出た。動きは素早く、身がまえていたとしても対処は難しいだろう。

 部屋の真ん中でぐるりと軽く辺りを見回したアキニは階段の方を見上げて言う。


「樽の方へ隠れていなければいないはずだ。降りてくるといい」


 アルベルトたちは、アキニの指示に従って地下の酒蔵へ足を踏み入れるのであった。

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― 新着の感想 ―
アル久々にはしゃいでてkawaii
まぁ…スッキリしないのはそうなんだよなぁ ハルおじの仕業に見せようとする程度には頭が回る人が なんかボロ出過ぎというか
未だにヒューダイを信じていない自分がいる。偽ハルカの正体では? ただ、この予想は間違っていて欲しい、とも思っています。
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