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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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国民の現状

 アードベッグの屋敷が近づいてくると、空にはまだうっすらと煙が昇っているのがわかった。消火のためにできることといえば、近隣の家に燃え移らないように水をかけたり、燃え移りそうなものをどかしておくくらいだ。

 つまるところ、木造部分は燃えるに任せるしかないということだ。

 幸いこの街の建物は、煉瓦や石がふんだんに使われて作られている。とはいえ、二階や床材、家具などは木で作られているから、火が広がる余地はいくらでもあった。

 到着してみれば、未だ崩れ落ちた木が炭と化して燻り、煙をあげていた。


 未だ家の周りをぐるりと兵士が取り囲んでいるが、その中にズブロクやアキニの姿は見えない。

 様子を窺おうと近寄っていくと、兵士たちの方から制止の声をかけられてしまった。


「すみません、今将軍たちは席を外していまして……。すぐに戻ると思いますので、それまで立ち入りはご遠慮ください」

「ま、しょうがねえか」


 約束もせずに勝手にやってきたのだから、少し待つくらいは仕方ない。アルベルトたちは現場から少し離れて将軍たちが戻るのを待つことにした。

 アードベッグ邸の庭の端には、血溜まりの跡があった。戦闘で発生した死体でも積み上げてあったのだろう。

 生々しい戦闘の痕跡を見たヒューダイは、すっかり俯いて元気がなくなってしまった。

 一方でナッシュは、少しばかり眉間に皺を寄せただけで、それほど衝撃は受けていないようである。


「しっかりしろって」

「……大丈夫です。ただ、まぁ、あまり身近で戦いを見たことがないものですから」

「本当軟弱だな、お前」


 先輩風を吹かせるナッシュに、アルベルトが問いかける。


「お前は慣れてんの?」

「ん? いや、別に戦い慣れてるわけじゃないけどね。僕は自分の作った武器がちゃんと使えているか、現場で確認することがあるから」

「そういやお前、武器とかの開発もするんだっけ」

「そうそう。ヒューダイは爺さんと同じで戦場は知識でしか知らないからなぁ」


 ちらほらと人が活動を始める時間になって、街の人たちの多くは恐々とアードベッグ邸の跡を見てサッと逃げるようにして立ち去っていく。

 少しばかり興味を持っているものも、アルベルトが不意に視線をやると飛び上がるようにして驚いて逃げていってしまった。

 随分と過剰な反応である。


「なぁ、ドワーフって強そうな印象あったけど、ああいう奴らもいるんだな。小人もなんかおとなしいし」


 怖がられるのは別に構わない。

 舐められたらいけない冒険者稼業なのだから、むしろ望むところだ。

 しかし、なんとなくこの街に住む普通のドワーフたちは、アルベルトがイメージしている、頑固で厳しく豪快な雰囲気がない。

 小人たちに関しても、小さな体躯のどこから湧き出してくるのか、というくらいに負けん気が強くてよく喋る印象があったが、街で暮らす人々は見た目通り、あまり主張が激しくない。


「……まぁ、街で暮らしてる奴らって戦いとか知らないしな。お前の持ってる印象ってズブロクの爺さんとか僕とかみたいな感じだろ」

「そうそう、お前みたいな生意気な感じ」

「誰が生意気だ。知的で弁が立つと言えよ。……この国も前線以外は平和だからな。こいつみたいになまっちょろいのばっかになるってわけ」


 ナッシュが親指で指名されたヒューダイは「平和主義と言ってほしいです……」と小声で反論した。


「でもアバデアやコリアは印象通りだったぜ?」

「お前さぁ、船乗りをその辺の奴らと一緒にするなよ。あいつらは下手したら兵士なんかより度胸据わってるんだから。街で暮らせるのに好奇心に負けて大海原に繰り出す奴が小心者のわけないじゃん」

「あー、言われてみればそうか」

「お前らみたいなあちこち旅して生きてる奴らとは相性がいいかもね」


 確かに彼らはあっという間にハルカたちに溶け込み、仲間となることを決意した。お国元の事情はあるにしても、それだけ【竜の庭】での暮らしが心地よかったのかもしれない。


「……夜、戦闘があったですよね?」

「さっきの血溜まり見る限りそうだろうな」

「……誰がカティさんに味方してたです?」

「そりゃあ……、まぁ、その辺はこいつのが詳しい」


 今度こそまともな形でバトンタッチされたヒューダイの顔色はだいぶマシになってきたようだった。「はいはい」と言って話題を引き継ぐ。


「街は無茶をしたりしなければ、よほど運が悪くない限り普通に暮らしていけます。ただ、高望みしたり、大きな失敗をしたり、酒や違法な賭け事に溺れたりして身を持ち崩すものはいます。それらの多くは捕えられて鉱山で働くことになりますが、場合によっては街の外へ逃げ出すこともあるんですよ」

「その人たちをカティさんが雇ったです?」

「はい。他にも南では脱走兵が出ることもしばしばあるようで……。おそらくその辺りを味方につけていたのではないかと。宿の主人と同じですね」


 ヒューダイはそこまで話してから深いため息をついて、ぽろりと愚痴のようなものをこぼす。


「……カティさんは失敗した人を支援するような事業も積極的に進めていたんですよ。私も時折相談されて手を貸すことがありました。……まさか、こんな形で利用されるとは思ってもいませんでしたが」


 平和を愛す男ヒューダイは、裏切りのショックのためか、またガックリと肩を落としてしまった。

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