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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
【ロギュルカニス】

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資料あさり

 人ならば四十を越えたあたりに見えるヒューダイが、子供の様にも見えるナッシュのことを先輩と呼んでいるのは奇異な風景だった。

 思い出してみればヒューダイはナッシュの隣に座っていたし、気安く見えなくもない会話をしていた。


「二人はどんな関係なの?」

「亡くなった爺さんのところで蔵書を読み漁ってた。年齢的にはこいつの方が上だけど、僕のが先に居座ってたから先輩って呼ばせたんだよ」

「実際色々とお世話になりましたから」

「あー、だからヒューダイさんのことは犯人候補にいれなかったんだ」


 違和感の答えに気づきすっきりとしたコリンだったが、同時にコリンの言葉はヒューダイに違和感を与えてしまう。


「……犯人、まだ絞り切れてませんか?」

「いやぁ? ほら……、アードベッグかカティ(ドワーフの女)だろ?」

「ああ、私と同じ意見ですね。ちなみにその理由は……?」

「折角調べてきたんだから、お前から話せよ。意見が違うところがあれば言うから」

「そういうことなら……」


 うまいことその場を切り抜けたナッシュは、肩の力を抜いて背もたれに寄りかかる。ここまでくれば知ったかぶりがばれる恐れもないだろうと安心だ。

 ヒューダイが本当に気付いていないのか、それとも先輩を立ててやっているだけかは微妙なところだけれど。


「この間の会議の後、私は少しあの場に残っていたんですよ。皆さんの様子を観察していたんですが、先輩が名前を挙げたお二人が険悪な雰囲気でして……。なんとなく頭の片隅に引っ掛かるものがあったんですよね。一緒にいた小人のお二人に聞いてみても、よく知らないとの返事しかなかったのですが、どうもカティさんに苦手意識があるような感じがしました」

「カティさんってドワーフの女の人ですよね? その二人は元々会議に出てこないくらい控えめな感じがするし、カティさんはちょっと気が強そうな感じがしたし、それで怖がってるのかな?」


 コリンがあり得そうな推測を述べるとヒューダイは頷いて「そうかもしれません」と言って話を続ける。


「すぐには何か思い出せなかったんですが、しばらくして文字で見たような気がして、爺様の記録を見せてもらうことにしたんです」

「爺様ってのは殺されちゃった小人のことですよね?」

「はい。国のことは何でも知っているような人でした」


 先ほども二人が出会ったのがそこであったというような話をしていた。

 なるほど仇を取りたくなるのも無理ないくらいには親交があったことがうかがえる。


「資料を漁るのには時間がかかったのですが、面白いことがわかりました。まず一つは、カティさんが十頭になってからの農業従事者と林業従事者の収入の増加です。交易収入自体も上がっており、国全体として豊かになっているので一見当たり前のようにも見えます。ただよく見てみると、不自然な収入増加がみられるんですよね。さらに調べていくと、悪天候による農作物の高騰と、山火事による木材の高騰以降、すでに元に戻っていてしかるべき値が元に戻っていないんですよ」

「記録に残ってたってことは爺さんも気づいてたんだろ?」

「おそらくは。それからもう一つ。私は資料の中に、カティさんの訴えの記録を見つけました。年代的にカティさんが十頭になる前の物になります。どうやらカティさんはその昔、旦那さんを海で亡くしているようです。伯爵領、【神聖国レジオン】と協力して行われた海賊退治の際の事故のようなのですが、その判断に間違いがあったと、カティさんは当時船長をしていたアードベッグさんを訴えています」

「お前、なんでそんなもん読んだことあったんだよ」

「貿易に関係のありそうな資料にはすべて目を通しているので」


 得意げに少し上を向いたヒューダイだったが、突っ込みを入れたナッシュは褒めているのではなく呆れていただけだ。

 はっきり言って貿易になど関係のないような資料にしか思えない。何ならナッシュは、今回の事件との結びつきも今一つ分かっていなかった。


「その資料からカティさんには息子さんがいたということがわかるのですが、実は私はカティさんの息子さんにお会いしたことはないんですよ。人に尋ねても知らないという人ばかりでして……どういうことかなと」

「はーい、ヒューダイさん。私には話がさっぱり見えてこないんですけど」


 ヒューダイは頑張ったことを先輩に報告したいのか、一生懸命知ったことを話すばかりで肝心の犯人にあてがつかない。名前が出てきている二人のどちらかと言いたいのだろうが、肝心のその理由が判然としなかった。


「あ、すみません。その訴えを裁いたのが爺様であり、遡ってみせていただいた爺様の手記によれば、カティさんは全く納得いった様子はなく、アードベッグさんはそれをきっかけにして船を降りたそうです。双方爺様には恨みを抱いていてもおかしくないなと」

「それ、ありえそうな動機を見つけてきただけで、何の解決にもなってないけどな」


 白けた顔でナッシュが突っ込みを入れると、ヒューダイは待ってましたとばかりに「そこなんですよ」と身を乗り出した。


「実は私は今日もカティさんの息子さんの資料を調べようと、仕事を済ませて昼過ぎに書斎にいったんです。すると奥様が出てきて、昨晩のうちにカティさんも何やら資料を見に来たと教えてくれたんですよ。奥様は私が来たことをカティさんに伝えてしまったようでして……、こうして避難してきたわけです。どう思いますか?」

「まぁ、そこまで聞くと、ちょっと怪しいような気もするけどな……」


 ナッシュが言いよどむと、珍しいことにアルベルトがその言葉を引き継ぐ。


「あんたも資料調べに行った怪しい奴じゃん。そのカティさんって人、あんたとやってること同じじゃね?」


 ヒューダイは、視線を左上から右へと動かして手をポンと打った。


「それはぁ……盲点でしたね」


 犯人探しなんてなかなかうまくいかないものである。

 しかし、一つだけわかったことがあるとすれば、カティ、続いてアードベッグはかなり怪しいぞということだろう。

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