オモシロ暴露話
腹をくくったハルカは、最近の状況をぶちまけるべく顔をあげる。
エリザヴェータはハルカが何を隠しているのか、想像を巡らせながら身を乗り出していた。
ハルカであれば、何か想像もつかないようなことをやらかしているのではないかと、期待半分懸念半分くらいでドキドキとしながら待っているのだ。日常あまり予測を外されるようなことのないエリザヴェータにとっては、あまり体験することのない種類の娯楽であった。
「一応、先ほどのどこで北城行成さんを見つけたか、という質問の回答にもなります」
「なるほどな、想像がついたら先の予測をしても?」
「ええと、構いませんが……」
完全にクイズを解くときのようなスタンスになっている。
それでエリザヴェータが楽しいのならばと、ハルカも一応了承した。
「最後にお会いした時、南方大陸へ向かう途中であったことは覚えていますか?」
「何かあれば手を貸してやると言ったのに、結局何も言ってこなかったな」
「力をお借りすると危うかったので。あの時は、皇帝のソラウ陛下に会いに行っていたのですが……、それはともかくとして」
「ともかくとするな、ちゃんと説明しろ」
今回の本題には関係のない部分なのだ。
ハルカとしてはともかくとしておきたい。
「あまり主題とは関係ないのですが」
「いいから話しておけ、あとであれもこれもありましたと言われては面倒くさい」
「……ユーリが先代皇帝の息子で命を狙われていたので話をつけに」
「え?」
「特級冒険者らしくなってきたものだな」
驚いた顔を見せたのはエニシで、納得をしたのがエリザヴェータだった。
そういえばエニシにはユーリ関係の昔話をあまりしていない。
ナディムやシャディヤにとってもかなり繊細な話題なので、自然と皆が避けて話すことがないのだ。
「それはうまくいったのですが、その後しばらく帝国をうろついていたところ、吸血鬼と戦うことになりまして……。あの、帝国領エトニア王国というところが、吸血鬼一派に占領されていたんですね」
「続けよ」
ふんわりと内紛があったことくらいは聞き及んでいるエリザヴェータは、脳内にある情報を更新していく。
「そちらは帝国と南方大陸の冒険者が協力して何とかしたのですが、首魁を取り逃がしてしまったようで、それが〈混沌領〉の東端にある街に逃げ込んでいたんです。私たちは特級冒険者のカナ=ルーリエさんに助力してそれの討伐に向かいました」
「なるほどな。討伐した結果街を手に入れて、そこで北城家の難破船を救ったというところか。船が必要となったのも、港町を手に入れたからだな?」
「……御明察です」
ハルカはちらりと視線を横に動かして、エリザヴェータの洞察力を讃えた。
だいぶ中が省略されたが、それで満足ならそこまででいいかと勝手に話を切り上げようとしたのだ。
「まだ何かあるな。そういえばハルカはカーミラという吸血鬼とも仲良くしていたな。さては混沌領で破壊者との交流が増えたか?」
「……そうですね。〈混沌領〉の東端の街は〈ノーマーシー〉といって、主にコボルトたちが暮らす街となっています」
「全部話せと言ったが?」
小出しにしたところでまだあるのだろうとつつかれると、段々と叱られているような気分になってくる。ハルカは仕方なく、また時間をさかのぼっての説明を始める。
「実は〈忘れ人の墓場〉と〈混沌領〉の間には、リザードマンの里があります。色々ありまして、拠点を構えた直後くらいから、そこの王様になっていました」
ふはっ、とエリザヴェータが噴き出して笑う。
「ハルカがか! 向いていなさそうだが、そうならそうと言えば色々と教授してやったものを」
「なにぶん前回お会いした時は急いでいましたので」
「まぁよい、続けよ。私も少し覚悟ができたぞ」
ハルカが少しばかり物事を俯瞰してみられるようになった理由を知り、エリザヴェータは悠々とソファに体を沈める。もはや何を言われても驚かぬ構えだ。途中で口を挟むのも野暮かと黙って聞くことにした。
「〈ノーマーシー〉への行き帰りの過程で、コボルトを拾ったり、あちこちの破壊者と話したり戦ったりする機会がありまして……。……気づいたらその辺りの方々にも王と担がれていました。種族的にはリザードマン、ハーピー、コボルト、巨人、人魚、ケンタウロス、ガルーダ、ラミアになります。一応、アルラウネとドライアードとは互いに攻撃をしないという約束をしています」
「まぁ、待て待て」
楽しそうに立ち上がったエリザヴェータは、笑ったまま棚から一枚の紙とペンを取り出してきて、ハルカの方へ手渡した。
「拠点から〈混沌領〉までの大まかな形を描いて、それぞれの種族の分布を描き込んでみよ」
「はぁ……」
ハルカは言われるがままに線を引き、だいたいの分布図を描き込んでいく。最近では見慣れた地図だったので、脳内補完で簡単に描きあげることができた。
「こんな感じですね」
「なるほどな。つまり〈混沌領〉全域だな」
「い、いえ。一応その、山脈を越えた森のあたりはまだですし、この辺りはアルラウネとドライアードの領域ですから」
「ではそういうことにしてやるとして……、それにしても【神聖国レジオン】ほどの国土はあるな。まさかと思うが、かの国に悟られてはいまいな? 少し前に神殿騎士が古臭い約定を持ち出して〈オランズ〉に対破壊者のための駐屯地を作ると知らせてきたぞ?」
情報不足で気持ち悪かった点と点がつながって線になり、エリザヴェータはすっきりである。
「ばれてはないですが……、調査をさせろとしつこく言われて追い返したところです……」
「気をつけよ。そちらに関しては何かあっても庇うのは難しいぞ。ここにいるリーサは破壊者だろうがその王だろうが構わぬが、女王エリザヴェータとしては、今はまだ表立って支援するわけにはいかん。とてもじゃないが国民の理解を得られるとは思わんからな」
いくら力の強いエリザヴェータだからと言って、号令で通せる部分と通せない部分はある。オラクル教の教えというのは、もはや人の当たり前の概念として浸透しているので、いきなり破壊者と和解しようと言ったところで頭がおかしくなったのではないかと思われかねない。
ただでさえ種族間の差別をなくそうと奔走しているのだから、なおさら触れるわけにはいかないだろう。
「しかし、なんだ」
エリザヴェータ愉快そうに笑い言った。
「私の生きているうちに国交を開きたいものだな。ノクト爺の弟子である女王二人が手を取り合うのだ。きっと爺も喜ぶだろう」
「……そうですね。そうなったら、私も嬉しく思います」
訪れるかわからない、まだ見ぬ未来である。
しかし王ではないエリザヴェータとハルカという個人は、同じ未来を夢想して笑い合った。





