人選
エニシは、ハルカが魔法の訓練をしている横で美味しそうにお菓子を食べるという作戦で、見事に子供たちを釣り上げお菓子を分け与えて見せた。最初のひとりまでは随分警戒されていたけれど、一人が食べ始めてしまえば一緒に来ていた大人たちも、我が子を止めるのが難しくなってしまったようであった。
「うむ、よい。子供は元気なのがよい」
自らも人気者になったような気分なのか、エニシはすこぶる機嫌よさげにお菓子を配り続けている。昨晩ハルカが聞いた話によれば、エニシは巫女の総代として、新たにやってくる巫女の世話もよくしていたそうだ。
拠点ではすっかり世話をされる側であるが、本当はこういった活動も好きなのである。多少悪戯をされても穏やかに微笑んでいる姿には、少しばかりのカリスマ性のようなものが見え隠れしていた。
翌日の会議の連絡が送られてきたのはその日の夜であった。
前回とは違って招待状のようなものが用意されて渡されたが、本来はこれが普通の参加方法なのだろう。
必要と思われる人数での参加をお願いされているが、これは何かを制限するものではない。単純に大人数にこられても場が狭くなるのと、話し合いに必要ない人は連れてこなくてもいいという気づかいであろう。
何せ前回はうとうとと眠っていたものたちもいたのだ。
その証拠に何人に絞れという制限は課されていない。
「どうします?」
「めんどくせぇ」
「じゃあレジーナは留守番で」
だらりと椅子の背もたれに腕をひっかけていたレジーナが、早々に離脱を宣言しハルカが認めると、いつもは意見が一致するはずのアルベルトが身を乗り出す。
「俺は行くからな。馬鹿なこと言い出すやつがいたらハルカの代わりにぶん殴ってやる」
「じゃ、アルは留守番で」
「なんでだよ!」
ハルカの真似をして留守番を宣言したコリンにアルベルトは噛みつく。
「話し合いの場に暴れようとしてる人連れてっても仕方ないじゃん」
「だってハルカは言い返さねぇじゃんか」
「はいはい、代わりに私が言い返してくるからアルは留守番ね。なんかあった時のために、ちゃんとこの宿の警備しておいてよね」
「……ちゃんと言い返せよ?」
「言うってば」
コリンが手綱を握りながらも、進みたい方向を決めているのはアルベルトという関係は以前と変わっていない。
少しばかり距離が近くなっているような気もするのが、ハルカから見ても微笑ましかった。
「私は留守番ね。ああいう場所に行ってもあまりしゃべれることもないもの」
「僕は行くです」
カーミラは辞退して、モンタナはいつも通りに同行。
交渉関係ではコリンとモンタナがいると心強い。
「我も行く。他国の首脳陣を見るのは良い学びになるからな」
ついでに参加を表明したエニシは前向きである。
のんびりばかりはしていられないという気持ちがそうさせているかと思うと、少しばかり痛々しくもあるが、本人はそう感じさせないように元気にふるまっている。
カーミラの上にちょこんと座って後頭部を胸部に埋もれさせているせいで、あまり深刻な雰囲気は感じられないけれど。もともと仲良くしていたカーミラは、元気のなかったエニシを見てから、何かとかまってやっている。
エニシも拠点で暮らすようになってから甘えることを覚えたのか、当たり前のような顔で膝の上に鎮座していた。
以上のメンツに加えて、コリアとアバデアの参加表明を受け、計六名の参加となった。人数は前回よりだいぶ少ないが、一応精鋭のような感じになる。ちなみにドントルはズブロクに拉致されたまま帰ってきていない。
かわいそうに、すっかり気に入られて連れまわされているようであった。
翌朝、迎えのものがやってきたので大人しくついて行き、ハルカたちは先日と同じ部屋へと通された。
中では既にすべての十頭が待っており、ハルカたちが着席するのを待って話し合いが始まる。小さな椅子が一つ、その主を失って空席となっているのが少し寂しそうであった。
「さて、事情を知らないかもしれないお客様のために説明をしておこうかな。本日は全ての十頭が揃っての会議となるのだけれど、席が一つ欠けている。……つい先日街の外で暗殺をされてしまってね。少なくとも僕が十頭の地位についてからはそんなことは一度もなかったのだけれど、何とも物騒なことだよ。……おや、驚いていないね。もしかして事前に誰かから情報をもたらされていたかな?」
「あなたは就任してまだ八年目だったな」
「殺されるんならそのこまっしゃくれた口の利き方をするお前さんじゃと思っておったんじゃがな」
にやけ面の小人が嫌みなことを言うと、アキニとズブロクがすかさず突っ込みを入れる。
「どっちの味方なの、ご両人は」
「聞いての通りじゃ」
拗ねた顔をしてみせた小人が言うと、アキニはすまし顔で無視をしてズブロクはいけしゃあしゃあと言い放った。
今日は気合いを入れてやってきたコリンが、にっこりと笑って小人と視線を合わせる。
「もしかして疑いをかけていらっしゃるんですか?」
「そう聞こえたのなら、やましい部分があるんじゃないかな?」
「ありませんよ。だからこうして顔を出しに来たわけですからー」
前回の会議では大人しくしていたコリンが、にっこにっこと笑いながら反論してきたことが意外だったのか、にやけ面の小人は目を細めて椅子に寄りかかった。
「へぇ、冒険者っていうのは意外と口も立つんだね。すぐに手が出るようなのばかりかと思っていた」
「お望みならばそうしますけどー?」
前回のお願いする立場とは違う。
ただ後手後手に回っていては、犯人に仕立て上げられかねない。
「ま、そう鼻息を荒くしないでよ。僕だって馬鹿じゃないんだ、あんたらが殺したなんて思ってないさ」
にやけ面の小人から出た意外な言葉に、十頭の数人が目を見開いたり眉を動かしたりと、僅かな反応を返した。





