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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
漂った先にあったもの

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条件

「色々ありまして、私たちは破壊者ルインズたちにも、普通に手を取り合って生きていけるものがいることに気づきました。先ほどお伝えした私たちの拠点を構えた時に、ニルさんたちの里のリザードマンが偵察に来ましてね。話をしにいって、手合わせをしたら里の王にされていました。……半分以上ニルさんに騙されたような形ですね」

「見る目があったと言ってほしいがな」


 結果いつの間にやらこんな広い土地まで乗り出すことになっているのだから、ニルの言うことに間違いはない。すべては成り行きなのでハルカには色々と思うところがあったが、今更放り投げることもできない。


「それが去年の初めころですから……、間もなく二年になりますね。〈混沌領〉の種族の方々と縁を結ぶようになったのは今年の半ばからです」

「凄まじい侵攻速度……」

「いえ、土地を治めようとか、侵略しようという意図はなかったんです、本当に」


 ハルカは大門のつぶやきを否定する。

 こちらへ来たのは飽くまで吸血鬼退治のためだった。

 色々あってこんなことになっているが、目的は〈混沌領〉平定とかでは断じてない。

 

「ああ……、【神龍国朧】からやってきたヘイムという吸血鬼がこの街を占領していたんですよ。南北大陸のあちこちにひそかに攻撃を仕掛けておりまして……、元々は冒険者としてそれを退治するために〈混沌領〉へ入ったんです」

「ヘイム……? まさかあの伝説の大妖の……?」

「有名なんですか?」

「それはもう! 数百年間各国を練り歩き、里を亡ぼし、国を傾け、悪逆の限りを尽くしたあやかしと知られています。なんと、大陸に渡っていたとは……」

「妖ってなにかしら?」


 聞いたことのない単語に、ハルカのすぐ横に控えていたカーミラが首をかしげる。

 大門はほんのわずかだが表情を緩めながら、優しく説明をする。


「ああ……。先ほど若がおっしゃった屍鬼のような話の通じぬ外道共のことだな。【朧】では、それらをまとめて妖というのだ」

「小鬼とか半魚人ダガンとかのことね。ありがとう、おじさま」


 ふんふんと頷くカーミラは、【朧】生まれ【朧】育ちの大門から見ても絶世の美女らしく、少し嬉しそうにしている。


「とにかく、その流れで色んな種族の方と接触を持ったというわけです。できることならばいつか、人々の破壊者ルインズに対する誤解を解ければと思いつつ……、今はこっそりと活動している段階ですね。【神龍国朧】が妖と区別するように、私たちも対応できればいいのですが……」

「確かに理想的だよね。問題は妖相手だろうが人相手だろうが、戦ばかりしている点だけど」


 イーストンが同意したながれで、そのまま【神龍国朧】の欠点もさらっと述べる。

 【朧】が人と破壊者ルインズを区別しないのは、破壊者ルインズ以上に縄張り意識と戦闘意欲が高いからという、どうしようもない背景がある。

 それは本人たちも理解しているのか、大門は仏頂面で、行成は苦笑したまま黙っていた。


「そんなわけで〈混沌領〉においては、私は王ですが、人族の暮らす地における私の身分は特級冒険者というものです。【独立商業都市国家プレイヌ】には〈オランズ〉という街があります。私はそこに所属する冒険者宿【竜の庭(ドラゴニックガーデン)】の宿主クランマスターになります」


 途中少しばかり脱線したが、これでようやく大まかな説明は終わった。

 

「ご理解いただけたところで、話を続けましょう。あなた方のこれからの展望を聞かせていただいても?」

「……マグナスの出身は、【ディセント王国】と聞きました。現王の叔父だったということは、王国としては何としてもマグナスを始末したいのではないでしょうか?」

「その可能性はありますね」

「現王の名前をお聞きしても?」

「エリザヴェータ=ディセント女王です」


 抜群の忍耐力と苛烈さを併せ持つ女傑である。

 ノクトのことを好いていて、ハルカのことも妹弟子だと公称してはばからない、ちょっとだけ困った人でもある。それもすべて計算ずくなのだけれども。


「ハルカ殿。恥を承知でお尋ねいたします。王国に伝手はございませんか? あればどうかご紹介願いたい」


 迷いのない問いかけだった。

 しかしそれは、大門ですら口にすることを躊躇するような、図々しいとそしられて当然の問いかけであった。

 行成は恥を知らぬ若者ではない。

 ただ、それ以上に、責任と己に与えられた使命を理解していただけのことだ。

 

「……ありますよ」


 ハルカは年若い行成が自分にできることをすべてやろうとしているのを理解して、穏やかな表情のまま答える。


「では……!」

「一つだけ、条件があります」


 しかし、願いをかなえるためには一つだけ乗り越えてもらわなければならない関門がある。きっと行成ならばそれを越えられるだろうと信じて、ハルカはそれを告げることにした。


「拠点に待たせている、私たちの仲間も説得してください。できますか?」

「もちろんです!」


 拠点にはハルカたち財布のひもを握っているコリンが待っている。

 あまり勝手に決めてばかりいると後で怒られてしまいそうだ。

 どちらにせよ、仮の利益でも提示できればコリンがこの依頼を受け入れるだろうと信じているからこそ提示した条件であるけれど。

 それと同時に、行成を一度拠点に連れて行って、エニシとも顔合わせをさせておきたいという目的もあった。いつかエニシが【神龍国朧】に戻る時に、この誠実そうな若者と出会わせておけば、きっと力になってくれるだろうと考えたのだ。


「出発は数日後。拠点まではナギに乗って帰ります。行成さんもお供の方々に事情を説明して、出発できるように準備を整えてください」

「はい! 本当にありがとうございます。必ずや、恩はお返しいたします!」



最近更新を頑張っている作品

『九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。』

結構文字数が増えてきましたので、お時間ありましたら覗いてみてください……!


あっちも不器用なおじさんが主人公です!

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― 新着の感想 ―
若殿は女王と交渉して戦力を貸してもらおうとしている? まあその場合行かされるのはハルカたちなんですが(笑) エニシ帰国時にうまく受け入れてくれる勢力を作れたら嬉しいですね 大門はカーミラみたいなのがタ…
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