表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
漂った先にあったもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1139/1483

おみやげ

 ユーリがコボルトたちと走り回っているのを見ながら、ハルカは最近の状況をニルやウルメアに伝えていく。ユーリも年を考えればかなり運動神経がいい方なのだが、コボルトたちが本気で走りだすと、これが意外と速くて並走するのも大変そうだ。

 何せコボルトは全力で走って足がもつれても、うまいこと転がってまた立ち上がって走りだす。基本的にあまり加減というものが得意じゃないのだろう。

 家を建てたり作物を育てたりを器用にやるのは、そうだと教え込まれたからであって、コボルトの本質的な部分はこちらだ。比較してみると、街の外で育ったコボルトたちがいかに慎重で優秀であったかがよくわかる。


「こうなってくるとラミアとも接触してみたくならんか?」


 地図を見ればわかることだが、こうなってくると〈混沌領〉においてハルカたちの目が届かない場所は、砂漠の北部だけになってくる。そこにはラミアが住んでいるらしいのだが、今のところまだ誰も接触していない。

 砂漠には巨大な魔物がたくさん住んでいるので、無事に暮らしているのかという話からになってくる。


「ご近所づきあいになりますし、何か問題が起こる前に、という気持ちはありますが……」


 いかんせんわざわざ会いに行く用事もない。

 本当にあいさつにだけ来ましたと言って信じてもらえるのか微妙なところだ。

 砂漠のリザードマンやケンタウロスたちだって、吸血鬼と敵対しているという状況さえなければ、これほどスムーズに手を取り合うことはできなかったはずだ。


 要は最初の交流で力試しの殴り合いになる可能性があるので、積極的に会いに行くのを渋っているというわけである。


「ガルーダの所へ越冬のための食料を運ぶのだろう? ついでにおすそ分けという感じで会ってくるというのはどうだ?」


 悪い案ではない。

 というか、こちらから歩み寄りを見せている分、最初の接触としては非常に感触がいいだろう。もちろん、ラミア側が比較的穏当で、ハルカたちの主張を信じてくれるのであればという話だが。

 こんなことならばラミアという種族について、詳しい人に色々聞いておくのであったと、今更後悔するハルカである。文献によれば下半身が蛇の種族なのだが、流石にそんなことは知っているし、それは何の新しい情報にもなっていない。


「気が進まんだろうか?」

「いえ、行きましょう。どなたか詳しい方がいるといいんですけど……」

 

 ガルーダや巨人は時折接触があるような話であったし、放っておくとどこかで知らぬ間に戦いが発生して、敵対関係になっているなんてこともあり得る。

 しかし、どうせ会うのならばできるだけトラブルなく接触したいところだ。

 例えば麦を持っていって、麦が毒になる種族だったりしたら交渉どころではない。


「そうだな。ウルメア、なんか知らんか?」

「なぜ私が知っている」

「だってお前、この辺支配しようとしてたんだろ? だったら調べててもおかしくなかろう」

「……所在が分からないから接触していない。ラミアという種族自体、あまり人前に出てこないしな。聞いた話によれば女しかいないらしい」

「それでは子が作れないではないか」

「そこまでは知らない」

「何も知らんのと大して変わらないな」

「あ、いえ、ありがとうございます。女性しかいない、ですか……」


 ずっと一緒にいるからかニルはウルメアに対して遠慮がない。

 不機嫌そうなウルメアにハルカから礼を言うが、実際それだけでは大した情報量にはならない。


「……食料を運びがてら、空から探してみることにします。見つかれば接触を試みてみますし、駄目ならそのまま戻ってくるような形で。できるだけいろんな種類の食料を用意していきたいところです。長期保存できる食料の一覧とかは……」

「ある。後で渡す」

「ありがとうございます、助かります」


 ウルメアの細かい性格はこういったときに役に立つ。

 知らぬことを否定するより、適材適所で働いてもらうのが吉だ。

 なんだかんだ気安く会話をしているから、ニルとウルメアも仲が悪いわけではないのだ。何せここが仲違いをすると、ウルメアがまともに会話する相手は殆んどいなくなってしまう。


 話を切り上げて用意してもらったリストを見れば、干し魚などはすでに試験的に作り始めているらしい。他には根菜類と主食になる穀物が主な輸送品になりそうだ。


「果樹とか、植えられるといいですよね」

「果樹だと?」


 難しい顔をするウルメアに、ハルカは何気なく果物に関する話を続ける。


「いえ、ほら、折角なら乾燥させた果物とかがあると、食卓が華やかになりそうじゃないですか。風土に合った種とか探してみましょうかね」


 もしあったら良いのにな、くらいの軽い気持ちである。

 塔の天辺にある植物園に行けば、果樹の類はたくさん植わっているのだが、あれはどうも気温調整がなされているからこその植生であり、この辺りに適したものはないようだった。

 もしかするとそういった果樹は外のどこかに植えられていたのかもしれないが、現状では見当たらなくなっている。


「どうしても育てたいのならば、育て方や土の作り方まで持ってくるんだな」

「そうですね。折を見て探してみることにします」


 ハルカが何気なくした果樹の提案は悪いものではない。

 ただ問題があるとすれば、これまで行動をプログラミングされたように生きてきたコボルトたちに、新たな作業を追加する苦労が生じるということくらいだ。

 全体にそれを浸透させる役割を持つウルメアは、相応の苦労をすることになるのだが、ハルカはまだそのことに気が付いていない。

 ウルメアはウルメアで、やれと言われればやるべきだと考えているから、反論しないのもまた良くなかった。

 ちょっとしたすれ違いの会話をしながらも、ハルカたちはガルーダとラミアの下へ持っていく食料をリストから選んでいくのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ニル市長とウルメア秘書官
そういえば下半身蛇で人間の足を擬態していた南の大陸から来た種族がいましたな 人間社会に溶け込んでいたから問題なさそうではある
ニルがいるし、詰め込みすぎはコントロールしてくれるかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ