計画の進行
2人の祝いの席は、つつがなく進行された。
世話になっている街の大工たちが、どうしてもという話で、いつの間にか二人用の新居まで作られることが決まっていた。
お代はなんとショウが出すらしい。
最初はそんなものいらないと二人して断っていたのだが、周りの大人たちの勧めが強く、お祝いの席だというのもあって押し切られた形だ。
お金があるのに新婚で自分たちの家を持たないというのは、一般的には割と変な話らしいと聞いて、この件に関してはハルカも口を挟まなかった。
気が変わる前にと翌日から大工がやってきて、あれよあれよというまに建築の準備が始まる。ちなみに森の拠点にない資材に関しては、ハルカが街から一人で運んできた。
運送費がかからないだけで、とてつもない節約である。
家が作られている間に、ハルカたちは竜たちを頻繁に〈混沌領〉側へ飛ばし、そちらに慣れさせていく。
時に日を跨いで行われることのあるその遠征では、あちこちに飛竜たちのための離着陸場を準備した。
そのうち建物も作ってみたいところだが、その辺はお勉強してからだ。
せっかく家を作るための大工が来ているので、秘密基地を作るという大望を抱えたハルカたちは、いろいろと質問をしながらその技術を学ぶ。
大工たちも今ではすっかり立派な冒険者となったハルカたちが自分たちの仕事に興味を持っていることが誇らしいのか、ぶっきらぼうながらもあれこれと技術を語ってくれた。
ついでに船大工のドワーフたちも〈オランズ〉の木々を扱う技術には興味があるらしく、互いに意見交換をしながら楽しそうに暮らしている。
三者全部が満足の良い関係である。
ハルカは離着陸場の場所を整えるたび、その辺りの環境を整備しつつ資材を確保。秘密基地という名の簡易宿泊小屋を作るための準備を着々と進めていく。
そうして家の施工を見守りつつ中型飛竜の慣らしを続けること数十日。
気づけば木の葉が色づき、乾いた冷たい風が吹き始める季節となっていた。
「それでは、できるだけ竣工日には帰ってこられるようにします。留守は任せました」
「本当に大丈夫かなぁ? なんかあったらイースさんに頼ってね」
万が一家ができた時に家主がいないのも、ということで今回は珍しく留守番となるコリンは、不安そうにハルカに言い聞かせる。
ハルカは心配されることを情けないと思っているが、金銭の絡む交渉ごとのほとんどをコリンに任せている以上仕方がないと受け入れてもいる。
「はい、一人でなんとかしようとはしませんので」
「うーん、ま、大丈夫か。気をつけて行ってきてね」
「はい、行ってきます」
今回のお出かけメンバーは、ハルカ、モンタナ、イーストンにレジーナ。それからユーリと珍しいことにカーミラである。
ウルメアの話を聞いていて気になっていたことに加えて、街へあまり顔を出せなくなったので、せめて安全そうな旅には同行しようという魂胆だ。
今回の目的はいくつかある。
まずはリザードマンの里から、数人を〈ノーマーシー〉へ連れていくこと。それから〈ノーマーシー〉の現状確認。続いて、中型飛竜の半分を〈ノーマーシー〉に預けてくること。最後に、〈ノーマーシー〉に貯蔵されている余剰な食料を、ガルーダたちへ配給することである。
割と遠い場所にあるので、顔を出す時には全て済ませる必要があり、どうしても用事が多くなってしまう。
あまり大きな声でどこへいくとも言えないので、大工たちには〈暗闇の森〉や沿岸にいたダガンたちの調査にいくなどと銘打ってのおでかけだ。
無力そうなユーリやカーミラを連れていることから、まるで遠足のような気軽な雰囲気を漂わせつつ、ふわっとした感じで出発。
中型飛竜を大量に連れている時点で、戦時行動に思われてもおかしくないのだが、大工たちも毎日竜がウロウロしている場所に暮らしていたものだから、すっかり感覚が麻痺している。
出発したハルカたちは当日にはリザードマンの里で、数人の希望者を拾い、翌日には山脈を越え、少し無理をして森の外まで飛んでいく。
森の中に一箇所中継地点を設けたいのだが、以前夜に、アラクネと思われる謎の破壊者から襲撃されたことがあったため現状却下している。
森の外で一泊。
翌日、赤に金糸で刺繍の入ったスカーフをたなびかせた竜たちは、堂々とアルラウネたちの住処へと着陸。
約束通り、ハルカの仲間としての目印を準備してきた形だ。
「えー、かわいぃ! 私も欲しいかも」
「いえ、あの、万が一知り合いとかがきた時関係性を探られても困るので……」
「えー、じゃ、それ解決したら、ね?」
「まぁ、解決すればいいですけど……」
相変わらずアルラウネたちのノリは非常に軽い。
これで戦力的には中型飛竜を捕食できるレベルだというのだから恐ろしい。舐めてかかってはいけない相手と聞いているリザードマンたちも、体を緊張させて経過を見守っている。
「そっちは? リザードマン? え、あんまり見たことないんだけど。へー、もっとこっちきてくんない?」
ハルカが頷くと、ついてきたリザードマンの戦士たちは素直に前へ出てアルラウネたちに近寄る。
そんな真面目なリザードマンたちに応えるためか、一番手前にいたエノテラは蕾を開いて、ハルカもとい、ゼストによく似ているらしい本体を晒した。
リザードマンたちは彼らの王にそっくりなその姿を見て動揺し、ハルカとエノテラを交互に見たが、ケラケラと笑って「うけるー」と言っているエノテラを見て、中身はだいぶ違うようだなとすぐに納得をした。
ぬるっとした妙な交流を終えて、さらに翌日。
ガルーダの儀式場、巨人領の東端、砂漠のリザードマンとケンタウロスの縄張りの間、と順番に離着陸場を使用。
丸一日滞在する場所もあったので、実に八日間の時間をかけて、ハルカたちと中型飛竜一行は、ようやく〈ノーマーシー〉の街を望むことになったのであった。
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『たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること』
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