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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
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家族の話

「コリン、私が悪かったよ。いろいろ言い訳を用意してきたんだが、それを話す前にちゃんと謝っておく。申し訳なかった、許してほしい」


 頭を下げたショウをチラリと見たコリンは、変な顔をしてまた目を逸らす。しばし沈黙が続き、やがて横に立っていたアルベルトが「おい」と声をかけたことで、コリンが大きなため息をついた。


「……とりあえず顔上げて言い訳聞かせてよ」

「うん、ありがとう」


 顔を上げたショウは笑っているが、コリンの方はまだスッキリとはしていない様子だ。


「お話長くなるようでしたら、座ってしましょうか」


 一応最低限の謝罪は済んだところで、ハルカが間に入って場所を移すことを提案する。いつまでも外で話していても仕方ない。

 席を囲んで一息ついたところで、ショウが再び口を開く。

 一緒にやってきたハン一家は、先ほどの謝罪の後からはすっかりリラックスしていた。長年末娘のコリンを見守ってきたから、もう大丈夫だろうとわかっているのだ。

 いつの間にやらこの場で一番気を揉んでいるのは、いつもの通りハルカになってしまっていた。


「コリンがどんなふうに冒険者としてやってきたかは聞いたけど、どうやら私の中にはピンときていなかったんだ。小さな頃の怖がりな様子や、出発前夜私の所へ来た――」

「パパ、その話やめて」


 ショウの言葉を遮ると、ショウは瞬間的に周囲の様子を観察してすぐに謝罪した。


「……ん、ごめん。とにかく等身大のコリンを見ていなかったんだ。もしかすると私自身が、こうあってほしいという姿を勝手にコリンに押し付けていただけなのかもしれないね。それにホラ、上の子たちはコリンくらいの年頃の時、いろいろ問題を起こしたりしていただろう?」

「それは知らないけど、そうなの?」

「コリンは気にしないでいいから。……あと父さんは、私たちのせいにしないでください」


 兄弟を代表して文句を言った長男の言葉を無視して、ショウは話を続ける。


「他にも、時間が経てばコリンの婿に名乗り出るものはいっぱいいただろうし、街の力関係的にも、均衡がどうのと余計な気苦労が増えるかと思ってね」

「……なんで先に私たちに相談しないで勝手に決めたの」

「……そのー……、ほら、最後にその話をした時、二人して照れてしまって、しばらく関係が微妙になったろう? 私たちからすれば、どう考えても一緒になる未来しか見えないのに、話を振ることでかえって反発を招いてしまってもよくないだろう? 互いにいい年齢になったし、それですれ違っては後悔するだろうし、それならばいっそと」

「そんなこと……!」

「あったかもです」


 強く否定しようとしたコリンの言葉を、冷静なモンタナが遮った。


「二人とも、人から言われると意地になるです」

「いや、別にそんなこと」

「あるです。ハルカはどう思うです?」


 モンタナに問われたハルカは、なんとなく二人の関係や、これまでそれらしい話になった時のことを思い出してみる。

 そうして光景を思い浮かべて呟いた。


「……ありそうですね。その後すれ違うかどうかはともかく、多分しばらくはその……、いや、うーん……」

「だろう?」

「です」


 得意げなショウにモンタナが同意する。


「でも! 私は相談してほしかったの!」

「うん、わかっている。勝手にやったことを反省しているよ。たとえ一時反発したとしても、私たちがきちんと時間をかけて話をすれば、互いに納得のいく結末に辿り着けたはずだ。全ては、コリンを大人として信じられなかった私が悪い。だからこそ申し訳なかった。これからは二人のことをちゃんと大人として見ることにするよ。もちろん、コリンが私の大事な娘であることには違いないけれど」


 勢いよく立ち上がっていたテーブルに手をついたコリンは、ショウの言葉を聞きながらゆっくりと腕を引きながら腰を下ろし、不満そうな表情を隠さずに言った。


「わかってるならいいけど。……私も別に……」


 ボソボソと口の中でつぶやいた『パパのこと嫌いなわけじゃないし』という言葉は、近くにいたモンタナの耳くらいにしか届かなかった。

 それでも、コリンの頑なな気持ちが解けたことくらいはその場にいる全員が察する。


「コリン。たまにはゆっくりと時間をかけて、冒険者になってからのことを聞かせてもらえないかな。コリンがどんな体験をして、どんなふうに思って、どうして暮らしてきたのか、もう一度しっかりと覚えておきたいんだ」

「……話せないこととかもあるけどいい?」

「もちろん」

「人に話したりしたらダメだからね」

「わかってる」

「……じゃあ、話す」


 これは家族水入らずというやつか、とハルカが腰を浮かせかけたところで、服の裾をコリンがつかんだ。


「一緒にいて」

「ええっと……」

「いいからいて。ここの皆だって、私の家族みたいなものなんだから」


 ハルカは思わず緩んだ口元を手で覆い「そうですか……」とつぶやいて腰を下ろした。


「さっきモンタナくんが話に入ってきた時も思ったのだけれど……、君たち本当に仲がいいんだね」

「はぁ、仲良くしてもらっています……」


 ハルカはなんとなくむず痒い感じがして、笑って言うショウの顔を見ることができなかった。

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― 新着の感想 ―
ああ゛〜〜かわいいんじゃ〜〜
強さは化け物みたいなチームなのに、ひとりひとり可愛いし、関係性が尊い。好き。
すっと話に入る有能モン君いいなあ それにチームの関係性が本当に素敵
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