前準備
「というわけで、お祝いをします。仲の良い方々を招待して、食事会のような形になりますけど……、いいですか? 何か要望があればできる限りかなえたいんですけど……」
「任せる。俺よくわかんねぇし、こういうのって周りがやってくれるものらしいからな」
「そうなんですか?」
アルベルトはいつも通りの返答だが、コリンはなんだか椅子の上で体を小さくまとめて俯いている。しゃがみこんで顔を覗き込みながら尋ねてみると「うん、まぁ……」とぼそぼそと返答があった。
「何かないですか? 特別な服が着たいとか、特別な飲み物が欲しいとか……」
「…………パパが来て、ちゃんと謝ってくれて、皆にお祝いしてもらえたらそれでいいかも。……っていうか、一度祝ってもらってるし! そんなに大きな話にしなくたって……」
「駄目です。前はコリンもアルも曖昧な気分のまま、一応お祝いをしたという体でした。私は二人が気持ちを確認できたことを、ちゃんとした思い出として残しておきたいです」
「それにほら、皆に拠点まで足運んでもらうの悪いし……」
「コリン。何か憧れがあったんじゃないですか? 遠慮しないでください」
「でも……」
「大丈夫ですから」
「……耳貸して」
本当に珍しく遠慮を続けていたコリンが、ついにごにょごにょとハルカの耳元で囁く。
「その……いろんないろんな花でできた腕いっぱいになるような花束……。それ、皆の前でアルからもらいたい……かも」
「昔何かで見たんですか?」
「うん」
「あぁ、大魔法使いの祝福を受けて生涯幸せに暮らしましたとさ、のやつな」
「アル……、勝手に聴かないで」
「こんな近くで話したら聞こえるだろ」
今日はじろっとアルベルトを見るコリンの目にもあまり覇気がない。
「分かりました。大魔法使いには及ばないかもしれませんが、かき集めてきます」
しおらしく頷くコリンを後に、ハルカたちは部屋から出ていく。
「それじゃあ、皆に通達して数日後には開催します。ええっと、皆さんに先んじてショウさんには来てもらいますからそのつもりで」
「なんか手伝うことねぇの?」
「アルはコリンと一緒に仲良く過ごしててください、では」
コリンとは逆にかなりアグレッシブに動き出したハルカは、すたすたと歩いて屋敷の外に出る。歩きながらハルカが思いだしたことは、アルベルトが前に言っていた、コリンは昔大人しい奴だったという言葉だった。
きっとアルベルトの知っている幼い頃のコリンは、今日みたいな感じで物語に憧れるかわいらしい子だったのだろうと思う。いかにもお嬢様らしいなと、思わず笑みがこぼれる。
それがアルベルトと一緒に冒険者になるというので、あれだけ立派に成長したのだ。そこにまたコリンの意志の強さを感じた。
屋敷の外でモンタナとユーリ、それにエリと合流。
三人は森の拠点にいる全員に、今回の件を伝えて回ってくれていたのだ。
「どう?」
「花束を用意することになりました。何かそんな物語知ってます?」
「あー、有名かも。大魔法使いが季節関係なく花を咲かせて、腕からこぼれるほどの花束を用意してくれるんだよね」
「……できるんですか、そんなこと?」
「できますよぉ」
ふわりと頭頂の上に浮いていたらしいノクトから間延びした声が落ちてくる。
「どうやってやるんです?」
「考えたらわかると思いますけどねぇ。僕やハルカさんが得意な奴ですよぉ」
ハルカは少し頭をひねってから、「ああ」と声を上げた。
「治癒魔法で成長を促す、とかですか?」
「はぁい、正解でぇす。まぁ、腕からこぼれるほどの花束となると、普通は中々に苦労するはずですけどねぇ」
ノクトはふよふよと浮いてどこかへ消えていく。
今日はお勉強会もキャンセルだから、きっと日当たりのいい場所にでも移動して昼寝をするのだろう。年を考えれば致し方のないことだが、特級冒険者は本当に呑気に暮らしている。
「ええと……ではまずはショウさんのところへ行って日取りの確認。できるなら前日の夜に来ていただいて、それに合わせて翌日に街の他の方々を招待します。……どこまで呼んだらいいと思います?」
「基本的には冒険者関係だけでいいんじゃないかしら。ハルカたちが冒険者になってから世話になった人たちとかと、残りは二人に確認」
「確認してきます!」
エリの言葉を聞いてまたさっさと屋敷に引っ込んでいくハルカ。
その背中を見送って、ユーリが呟く。
「ママ、張り切ってる」
「そですね」
「あんなにきびきびしてるのはじめて見たかも。二人は?」
エリの問いかけに二人とも同じタイミングでこくりと頷く。
「ま、ハルカらしいかもしれないわね」
かわいらしい連動にエリが笑って言うと、二人は又こくりと一緒に頷くのであった。
ハルカが確認したところによると、呼ぶ人選については基本的にNGなし。ただし、基本的にはエリの言う通り、冒険者としての関係のある人たち。ショウの商人関係者はできるだけ絞ってほしい、という感じだった。
条件を確認したハルカは、先ほどの三人にシャディヤを加えて、すぐさまナギと共に街へ出発。
シャディヤを連れていったのは、街の拠点にいるサラの母親と一緒にごちそうを用意してもらわなければいけないからだ。二人にはそのために必要なものを見繕ってもらわなければならない。
過去一手際よく動いているハルカは、到着次第コート夫妻に事情を説明し、シャディヤをメニュー考案のためにその場に残し、ハン商会へとまっすぐに向かうのであった。





