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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
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ひっそりとした交渉

 魔法などの訓練をしながら二晩を過ごし、夜間の腐敗臭が軽減していることを確認。

 季節によって海流も変わるため、海の状態は常に一定であるわけじゃない。しかし現状確認した限り、適宜対処することで十分に港としては機能すると、港の専門家である小人のキーグが身振り手振りを交えて解説してくれた。

 ここにいる間、ノクトは一人でふらっと廃墟の並ぶ村をうろつくことがあった。しかしユーリがそれについていったことから始まり、結局ほとんどの時間誰かしらがノクトと共に時間を過ごすことになった。

 「落ち着きませんねぇ」と言っていたノクトだけれど、表情は一人でいた時よりもずっと明るかったので、ハルカはこれで良かったのだろうと思っている。


 帰りにナギの背に乗りながら、ハルカは【ロギュルカニス】からやってきた面々と話をする。ちょうど見張っていなければならなそうな神殿騎士たちも〈オランズ〉から離れたので、その間に彼らを一度故国へ送り届けるつもりだった。


「街の用事を済ませたら、皆さんを【ロギュルカニス】へ送ります。こうして港の話を提案してくださっていますが、もし気が変わったら遠慮せずに言ってください。あの場所を調べるきっかけを下さっただけでも十分に恩を返していただいてますから」


 アバデアたちによれば、【ロギュルカニス】は人にあまり好意的な国ではない。

 国外で作業する許可を取るのも相応にハードルが高そうな話であった。

 折角無事に国元へ帰れるというのに、無理に恩を返そうとして問題を起こしてほしいとは思わなかった。


「いいや、絶対に戻ってきて港を作る。わしらは決めたことを曲げるような軟弱者じゃあないぞ」

「……曲げたからと言って軟弱者とは思いませんが」

「くどいのう! 矜持の問題じゃ」

「俺はお言葉に甘えてもいいと思うけど」

「じゃあお主だけ残ってわしの母御の胸でもすっとれ」

「こんの……、提案しただけでそこまで言うことないだろ!」

「知らん、恩知らずの声なんか聞こえん」


 アバデアはコリアに胸ぐらをつかまれても、小指で耳をほじりながら知らん顔だ。

 よく食べよく眠っているおかげで肉がついてきたアバデアと元から細いコリアでは、ますます体格差が広がってやっぱりびくともしなかった。


「分かったよ、俺も残る!」

「あの、別に無理なさらずとも」

「残るって言ってんだろ!?」

「お主が残ったところでやることなんかないがのう」

「なんだとこの野郎!」


 体を揺さぶろうとして逆に自分の体が揺れているだけのコリアは、まるでパパに遊んでもらっている子供だ。その形相はすさまじいが。


「あの、本当に気にしないでも……」

「うるせぇ、黙ってろ!」


 ハルカが止めに入ると逆上しているコリアが叫び、アバデアは「わは、わはははは」と煽るように笑う。


「だってそうじゃろ? 船に乗ってない船長なんて、陸に打ち上げられた魚と一緒じゃ。残ったってなーんの恩返しにもなりゃせん」

「言ったな! よしわかった俺はきめたぞ。港ができて船ができたらお前ら率いて俺がその船の船長をしてやる。おー、やってやるぞ、お前が言ってきたんだから今更逃げるんじゃねーぞ!」

「わしの母御が恋しくならんかぁ?」

「なるか馬鹿野郎! いつまでそんなこと言ってやがんだ。半端なもん作ったら承知しねぇからな!」


 ハルカを置いてけぼりのまましばらく言い合いを続けた二人だったが、やがてコリアが息を切らしてその場に座り込む。もともと小さな体をしているから、ドワーフたちと違ってまだまだ体力が足りないのだ。


「どうじゃ恩人。ついでに船乗りと船長まで確保してやったぞ」

「あ、あの、ホントに大丈夫ですか?」


 どや顔をするアバデアだが、ハルカの不安は募るばかりだ。

 そこまでやってくれとはお願いしていない。

 アバデアはへたり込んでいるコリアをちらっと見てから、ナギの背の端に向けて歩き出す。そうして十分に距離を取ったところで、眼下を見下ろしながら小声で話し始めた。


「……わしらは船を無くし、長く拘留され、いくつもの命を失った。正直なところ国元じゃあどんな扱いされるか分かったもんじゃあない。わしら船乗りはともかく船長であったコリアはなおさらじゃ。再び船長としての仕事を任せてもらえるかもわからんのじゃ」

「そんな……、悪いのはコリアさんじゃないでしょう」

「いいや、海に出た以上すべての責任は船長の肩に乗る。コリアのやつは真面目じゃ。【ロギュルカニス】に帰って暮らすのならば、亡くした命、失くした船、無くした誇り、全てを背負って生きていくことになるじゃろな。わしら船員は、奴が立派な船長であることをよく知っておる。わしらが懇願したせいで、奴は危険と分かっていながら漂流者を救出することにしたんじゃ。そんなコリアを国で見殺しにしたら、死んでいった仲間たちにぶん殴られるわい」


 「くそ髭がぁ……」と、ようやく息を整えたコリアが、開口一番罵り言葉を吐き出したが、アバデアは笑っただけだった。


「勝手に話を進めてすまぬ。迷惑じゃなきゃあ、コリアを……いや、わしらをまた船乗りとしてハルカさんの所で使っちゃあもらえんか?」

「…………提案はありがたいです」


 しばしの沈黙の後ハルカが答えると、アバデアは眉根を下げて情けない顔をした。


「しかしそれは、【ロギュルカニス】に帰った時、本当に居場所がなければとしましょう。今決めなくて構いません。帰って十分に吟味して、それでも手を貸してくださるのならば、ぜひともお願いしたいです」

「なんじゃあ、まったく……」


 はっ、と息を吐いてアバデアが顔をあげて笑う。


「あんたぁ、本当に底抜けにいい奴じゃなぁ」

「あまりお人好しすぎても困るんだけどねー」

「間違いない! お人好しすぎて損をする雇い主というのも困るもんじゃ!」


 音もなくぬーっと後ろから現れたコリンが言うと、アバデアがそれに同意して手を叩いて大笑いした。

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