パフォーマンス
ひとまず全体の納得を得たあと、ガルーダたちはばらばらと自分たちの縄張りの山へと帰っていった。身内たちにこれからの変化についての説明をしに行ったのだ。
ティニアは代表として老体に鞭を打って連絡をしに行ったが、ホーギスとルチェットはその限りではない。
ハルカと三人、太陽の下で目を閉じて午後の予定に備えた。
そう、ハルカにはまだやるべきことが残っている。
代表たちの連絡が済むであろう午後から、山脈の南から北まで、ナギたちと共に空を飛ぶセレモニーを行うのだ。
そこには戦士であるホーギスと、今回の功労者であるルチェットが付き合う形になる。
どこかで何か派手なパフォーマンスも、と言われているが、さてどうしたものかと悩みつつの就寝である。
セレモニーは今日の午後で半分まで終わる予定で、その後はハルカたちが平和の大地とした儀式場に場所を移し一晩を明かすことになる。
そこではガルーダたちの中で体調の悪いものや、大きな怪我をしているものを集めて治癒魔法を施すという計画もあった。
そうして翌日昼からは、中心部から北部にかけてのセレモニーを行い、一連の行事は終了だ。急遽考えた割にはなかなか良い計画である。
ハルカの能力を確認し、短い間であれこれ考え出すガルーダたちは、やはり考え方が人間に似ているところがあるようだ。
それが効率のいい力の示し方だと言われれば、ハルカは首を横に振る理由がない。
治癒魔法に関してはうまく利用されている気がしないでもなかったが、それで助かる人がいるのなら構わないかと軽く考えている。
ケンタウロスたちにも相当使ってしまった前例がある。人族の領土で使うよりは気を使わなくていい。
昼前に疲れ切ったティニアが戻ってきたところで、ハルカたちは空へと飛びたった。
南部の山までは、ナギに乗っての移動である。
少しばかり時間がかかったが、最南端まで辿り着いたハルカたちは、数人の巨人を見かけて一度地上へと降りていく。
「だ、大丈夫かよ?」
緊張した口調で尋ねたルチェットだが、ハルカたちがケロリとしていた。
「見覚えのある顔なので、ついでにみなさんのことも周知しておこうかと」
ガルーダたちにとって巨人というのはかなり手強い相手だ。致命傷を与える手立てもあまりない上、あちらの攻撃は全て一撃必殺だ。
これまでの最良の策は近寄らないことであった。そうすれば巨人たちも積極的に山登りなんて面倒なことはしてこない。
あっという間に巨人の目線まで高度を下げたナギに対して、巨人たちが破顔した。
「ようよう陛下よ! 今日はどうしたんだ?」
「お久しぶりです! 山脈に住むガルーダたちとも仲良くやっていくことになりましたので、みなさんに伝えていただけますか?」
「山の鳥たちか! よくもまぁそうあっという間に仲良くなるもんだ。わかった、他と同じく手出ししなきゃあいいんだろ?」
「はい! もし何か問題が起こったら、一度保留しておいてください! それから、今後今連れている竜たちが空を飛んで東へ行くことがありますが、赤い布を首に巻いていれば、私のところの子です。くれぐれも捕まえて食べたりしないでくださいね」
「わはは、俺たちもそうそう竜を捕まえてくったりしない! 陛下の冗談は面白いな!」
そもそもこの〈混沌領〉には飛竜が棲んでいないから、飛んでいれば巨人たちは勝手にハルカの仲間だと判断する。
「なんか手伝うことはないか?」
「お気持ちだけ! では行ってきます」
「おう!」
巨人たちはそれぞれ手に持った武器を掲げて元気にハルカを見送った。
首長たちとハルカが戦いを繰り広げた場にいた戦士たちは、すっかりその強さに心酔しているからご機嫌なものである。
「いざ見てみると実感するな。こりゃ参ったぜ」
「わしは驚かんかったぞ。陛下の強さを信じておったからな」
手を挙げて降参をするルチェットに、ティニア老が偉そうに言う。いつの間にやら巨人から陛下呼びを踏襲した調子のいい老人に、もはやルチェットは何を言う気も起きなかった。
派手な魔法、と聞いてハルカが思い浮かぶのは、爆発をする炎の球の魔法だ。威力を減らし、音を出して空で弾けさせたら花火みたいにならないかと考える。
そうしてガルーダの住む山の近くに差し掛かったところで、ナギの背から飛び立った。
ハルカは先頭で、いつも周りに水球を回しているのと同じように、炎の球をぐるぐると飛ばす。
まだ空が明るいからその姿はそれほど目立たないけれど、夜だったらばどんな化け物が現れたかと大騒ぎになるところだろう。
真っ直ぐ北へ向かい、いくつかの山を通り過ぎたところでハルカは纏わせていた球の一つを空へ打ち上げて、十分な距離をとって破裂させた。
威力は抑えたが音はそのまま。
自分でやったくせに、ビリビリと大気が揺れる衝撃に、ハルカは思わず耳を塞いで目を瞬かせた。
空で弾けた橙色は、わずかに火花を散らしてすぐに消えてしまう。音以外は想定したよりも地味だったなと反省したハルカは、次はもう少しカラフルになるように考えながら、周りに跳ぶ火の球を生成し直すのであった。
その破裂がすっかりガルーダたちの度肝を抜いたことも、後に語り継がれる一幕となることも、今のハルカには与り知らぬことであった。





