楽しい休日
秘密基地を作ると言っても、外から見えないような難しいものを作る気はない。人里離れた場所に自分たちが自由に使える建物があることにワクワクするのだ。
ハルカたちは集めた木材を選別し、なんとなく節の少なそうな丈夫なものを取り出して並べていく。
よく木こりたちの護衛をしていたから、なんとなく建材に適した木を選んでいっているが、それが正しいのかどうかはここにいる誰にもわからない。
「……こっからどうすんだ?」
「釘、ないです」
「互いに噛み合うような切り方をして、組み合わせて作ることもできるらしいですよ」
「へえ……」
勢い込んで始めてみたものの、作り方がさっぱりわからない。互いの知識を持ち寄ったとしても家を一軒建てるのは難しいだろう。
「……木材って、湿気で伸び縮みするので、乾燥するのを待って使ったほうがいいらしいですよ」
とりあえず地面に線を引きながらハルカは思い出したように呟く。一生懸命樹皮を剥いでいた二人は、ぴたりと手を止めて顔を上げた。
「……どうする?」
「……とりあえず、乾燥させるですか」
「魔法でできたりしねぇ?」
「あー……できるかもしれませんね」
「でもできても、組み立て方わかんないです」
三人ともが手を止めて、どうしたものか唸ったところでコリンから招集の言葉がかかった。
「ご飯できたから適当に終わらせてこっちきてー」
「…………まず、拠点の近くに一つ小屋を作ってみましょう。センズさんがそのあたりのことには詳しいはずです」
センズというのは、カーミラを追いかけてやってきた元犬たちの一人だ。彼らはそれぞれ元はちゃんと仕事を持っており、大工仕事を得意とするのがセンズであった。
計画はちょっとばかり先延ばしになるが、ノリと勢いで家を作るのは難しいと分かっただけでも収穫である。
「そですね」
「まぁ、その方がいいか」
少なくとも木材を集めている間、ハルカたちは十分に楽しんでいたので、それはそれでよしとすることにしたのだった。
「あれ、もうちょっと粘るかと思った。キリがいいとこだったの?」
「いや、家の作り方わかんねーから、勉強してからやることにした」
「拠点の近くに一つ建てるです」
真面目な顔をして報告する二人に、コリンは真面目な顔をして言う。
「ここ、中型飛竜に乗って、リザードマンとかくるかもしれないんだよね?」
「ええ、まぁ。私たちも今後使うことがあるんじゃないでしょうか」
「じゃあ一度コボルトたち何人か連れてきて、ちゃんとした家建てようよ。秘密基地は、もっと見つからない場所に作ったらー?」
ハルカたちは顔を見合わせて、どうしようかと目だけで相談をする。あまりにも真っ当な意見で反論の余地がなかった。
「……まぁ、そうするか」
最終的にアルベルトが折れたことで、秘密基地は別の場所に作ることが決定。秘密基地のためには必要な技術がたくさんあるという認識を収穫としてこの場での建設は諦めることとなった。
ー
つまり結局は今日午後いっぱい楽しく遊んでいたことになるのだが、楽しかったので、三人ともやっぱりあまり気にしてはいなかった。
夕飯を食べ、空がすっかり暗くなりその日は交代で就寝。翌朝、日が頂点へ昇り切る前に、空に三つの点が現れた。
翼を羽ばたかせ手に槍を持っているガルーダたちを確認すると、念の為アルベルトたちは警戒を強める。
もし戦闘になるのならばもっと大勢でやってくるはずだから、本当に念の為でしかないけれど。
花人たちがいる場所をかなり大回りしてやってきた三人のガルーダは、竜たちがのんびりとしている場所も避けて、ハルカたちの頭上までやってくる。
「おりるぞ、爺さん」
「嫌だね。あの銀髪は空に飛べるんじゃろ? あっちから上がってきてもらえ」
「この……。あの竜の数を見ろ! 偉そうに空飛んでる場合か!?」
「わしはまだ人が空を飛ぶなんて信じておらんぞ」
「この後に及んで……! ホーギス、あんたからもなんとか言ってやってくれ!」
頑固ジジイに手を焼いて助けを求めたルチェットだったが、ホーギスはゆっくりと首を横に振る。
ただしその目は地上にいるハルカたちや竜、それに花人に向けられ、手にはしっかりと槍が握られ、緊張をしているようだった。
「反対だ。降りればいざという時にお前らを逃せない」
ホーギスは相手の実力をある程度正しく推し測り、強く警戒しているのだ。
しかしルチェットはどうせ戦力的には負けていること前提でやってきている。
自分だけでも降りて、相手に良い印象をと考えたところで、すいーっとハルカが近くへやってきてしまった。
三人が降りてこないのを見たハルカは、ガルーダの一族は空で会議するのが当たり前なのかもしれないと思い至った。そうして郷に入っては郷に従えの理論で、呑気にやってきたわけである。
言い争っているようなので、大丈夫かなと遠くから様子を窺っていると、しわがれた「げっ、本当に飛びおった」という声が聞こえてくる。
「あの、そちらへ行っても? それとも下でお話ししますか?」
「今降りる、下で話そう」
「何を言っておるんじゃ、この!」
ティニアが掴み掛かろうとしたところで、ルチェットはついに我慢の限界が来た。逆にティニアの肩を掴んで揺さぶりながら怒鳴りつける。
「黙ってろ糞爺! 俺は嘘を言ってなかっただろうが、今くらい言うことを聞け!!」
「こ、この、ぐ、わ、わかったわかった! ったく、近頃の若者は年寄りを馬鹿にしとる……」
物凄い剣幕で叱られてしゅんとなったティニアは、耳を押さえた。
ついでにハルカも目を丸くして固まっていたが、ようやく思い通りにいきそうだとホッとしていたルチェットは、気づいていないようだった。





