これがエノテラちゃんのビューティー顔だ
空を飛べる皆でぐるりぐるりと辺りを周回した結果、ユーリがポチと名付けている中型飛竜がエノテラを囲む壁を見つけて先導をしてくれた。次からはもっと目立つ目印を立てておこうと反省したハルカである。
現地に着くと、ナギだけでも着陸するのが難しいくらいには木が生い茂っている。
竜たちの強さを考えれば、なぎ倒して着陸できないこともないのだが、一応近くに花人のエノテラがいることを理由に、人だけで地面に降りることにした。
自然破壊をしたからと敵対関係になったら、たまったものではない。
小鬼や半魚人は襲ってよし、魔物も襲ってよし。
でもオークはちょっと分からないから何かされるまでは攻撃しちゃだめだよと、主にナギに言い聞かせて、〈混沌領〉の空の散歩に向かわせる。
ハルカたちの話を聞いていたナギが、興味本位で海岸の方へ向かったようだから、きっといくらか半魚人の数を減らして戻ってくることだろう。
ナギとの合流の目印のために、上空に魔法で大きな光の球を設置してハルカたちは壁の中へと降りていく。
竜たちに向かって蔓を何本か向けて様子を見ていたエノテラは、見覚えのある障壁と人が下りてきたのを確認して警戒度を下げた。
上空から見る限り、周りに山ほどいた半魚人の姿は、随分と目減りしたようである。
姿が見えなくなって丸一日以上。追いかけることを諦めたか、エノテラの存在自体を忘れてしまったのかもしれない。
「もー、びっくりしたじゃん。あれ竜でしょ? なんなの? 仲間?」
「ええ、皆うちの子ですよ」
「うちの子ぉ?」
ちゃんと変なことを言ったときの反応をするエノテラに、イーストンはふっと笑う。どこに行って誰と相対してもハルカが相手からこんな風にみられるのが面白かった。
続けて少しばかり唇が弧を描いたまま、イーストンは問いかける。
「あの花人でも、竜は苦手?」
「なに、私たちのこと知ってるの?」
「聞いたことはあるよ、随分と強いって」
「何これぇ、もしかして私やばい感じ?」
イーストンの試すような問いかけに、エノテラは声に警戒の色を見せて、地面からいくつもの蔦を生やした。
「あ、ちょっと待ってください! 攻撃するつもりはありませんから。単純に私たちが花人という種族について詳しくないので、お聞きしたかっただけです。ちゃんと安全なところまでご案内する約束も守ります」
「えー、本当にぃ? それにしては強そうなのいっぱい連れてきてるし、ちょっと怖いんだけどぉ」
うねうねと蔓を動かしているが、かなり不利な状況にもかかわらず先制攻撃をしてこないあたり、やはり相当に賢く、好戦的ではない性格をしているといえるだろう。
珍しいイーストンの失態にちらりとハルカは視線を送る。
「ごめん、今のは僕が悪かったよ」
「別にいいけどぉ……」
素直に謝罪したイーストンに、拗ねたような言葉が返ってくる。
そこへイーストンはさらに続けた。
「アルラウネって人型だって聞いてたのに、姿も見せてないからさ。そっちも何か企んでいるのかと思ったんだよね。それで、竜は苦手なの?」
「……いい性格してんね。大きいのは苦手、小さいのは何とかできちゃうかも。これでいいの? なぁに、姿も見せたほうがいい? そしたら信用してくれるの?」
「交渉するのなら姿くらい見せるのは最低限だと、僕は思うけどね」
「あーはいはい、わかったし。でも見せたから急に襲うのとかなしだかんね?」
「ハルカさん、あとよろしく」
急にパスを投げられたハルカは、蔓の先端から出ている目玉が自分をじーっと見ていることに気が付き慌てて両手を振った。
「約束します。あなたが私たちを攻撃しない限り、こちらからは危害を加えません」
「…………ならいいけどー……。ハルカだっけ? あんたゼスト様そっくりだし」
「はい?」
最後の発言に首を傾げたハルカを置いて、エノテラの本体のように見えていた蕾部分が、蓮華の花が咲くように開いていき、やがて中から人影が現れる。
その姿は、身長が百七十センチ程度。
足が植物部分と一体化しており、肌は薄緑色。上半身からは普通の人と変わりなく、耳は尖り、髪の毛は長く濃い緑色をしていた。
「じゃーん、これがエノテラちゃんの美しくてかっこいい姿でーす!」
「……なんか、ハルカに似てね?」
ぽつりとつぶやいたアルベルトの一言は、正にその場にいる全員が思っていたことだった。表情がころころ変わり、ハルカ風に言うなればきゃぴきゃぴとした動きをしているせいで、どことなく、という印象しか受けないが、はっきり言って瓜二つだ。
「違う違う。私はゼスト様に似てるの! だから、ハルカがゼスト様と私に似てるんであって、私がハルカに似てるわけじゃないんでーす」
「あの、その話詳しく伺うことってできるでしょうか……?」
よくわからないけれど自分に関係のありそうな話に、ハルカは額に手を当てつつ控えめに質問する。
「なぁに? ハルカもゼスト様の真似してるんじゃないの?」
「いえ、私は違うんですけど……。真似とはどういうことでしょう?」
「えー? 私たち花人は、結構自分が思うような姿に成長できるんだよねー? まだ生まれたばっかりの頃助けてくれたゼスト様みたいになろうって思って、こんな姿になりました! かっこいいでしょ?」
わかるような、わからないような、肝心な部分がぼかされた話だった。
これは腰を据えて話をするしかないなと、ハルカは少しばかり覚悟をしてエノテラに向き合うことにするのだった。
 





