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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
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今のところ安全

 ラルフの方でも街の拠点のことは気にしておくらしい。

 迷惑をかけただろうからシャフトたちにも伝えておくと言い出し、ハルカが遠慮してもラルフは引かなかった。

 念のためトットとサラには一度街を離れることを伝えておく。

 そうしてコート夫妻に拠点の留守を任せて、ハルカたちはすぐに街を後にした。


 本拠点に立ち寄って一休み。

 翌日、ちょっとのんびり過ごすと宣言したカーミラを置き、代わりに船の話ならというイーストンを回収してそのまま海岸へと向かう。

 ノクトは何やら現地のことを知っているようだったけれど『実際に行って見たほうがいいでしょうねぇ』と何も教えてくれなかった。

 おかげで警戒だけはできているハルカたちである。 


「あの辺りのことは僕も詳しくないな。わざわざ船で入り込んでいく必要もなかったからね」

「潮の流れとかはどうなんでしょう?」

「入り込んでくる流れがあれば、出ていく流れもあるはず。多分だけれど東から入って西から抜けてく形になると思う」


 地図を見ながら真面目に相談をしているハルカとイーストン。それに小人のキーグが混ざって頷く。


「国へ帰れば腕のいい船乗りもいるんだけどね。だからって勝手に引っ張ってくるわけにもいかないし……。船を作るからには乗組員も調達しないと」

「あ、そうですね……」


 操船技術というのはなかなか複雑だ。

 最悪ハルカの魔法を使うなり、ナギに引っ張ってもらうなりすれば何とでもなるが、それならば最初から船など利用する必要がない。

 ハルカがいなくても自由にあちこちを行き来するための手段として用意するのだから、その道の専門家を用意した方がいい。


「船乗りならバルバロのところにもいるけどね。ま、まずは港が作れるかどうかって話だから、後のことは後で考えよう」


 大人たちが真面目に話している間、同じく大人であるはずのエニシは、ドワーフたちに囲まれてちやほやされていた。船といえば【神龍国朧】へ行くための手段の一つだ。

 ナギの背に乗って向かうよりは、目立たずに島へ上陸することができるだろう。

 そんな事情もあって、甘やかしてくれるコート夫妻の下を、名残惜しくも出てきたエニシである。


「【朧】にも船は多いのだが、でかい船はあまりないのだ。だから大きな船というのは心躍る!」

「おう嬢ちゃん! よくわかってるなぁ!」

「うむ、楽しみだ」


 最近ではすっかり素直なエニシは、ドワーフたちにも気にいられたようだ。

 輪の中に入って楽しそうに話している。

 どうやらすっかり人に取り入るコツを掴んだようである。


 地図を見る方に参加していたリョーガは、目を細めてその光景を眺める。


「いやぁ……、あの姿、身内には見せたくないでござるなぁ……。絶対にはしゃぐでござる。父のそんな姿見たくないでござる……」


 エニシに協力することはやぶさかではないが、それだけが嫌なリョーガは一人ぼやく。

 ぼやきは耳に入ったハルカであったが、どうやっても解決できない問題に聞こえないふりをするしかなかった。

 


 やがて空にも潮風の香りが漂うようになって、ナギがゆっくりと高度を下げる。

 昼を少し過ぎて、夕方にはまだ早い時間だった。


 ぽっかりと開けた場所があり、降りてみると、辺りには潮風にやられた廃屋が立ち並んでいた。

 元から警戒していたハルカたちは、ますます警戒して地面に降り立った。


「ナギ、変なのが出たら一度空へ避難してくださいね」


 ハルカが相変わらず過保護な発言をすると、ナギも同意するように声をあげる。

 ガウガウと声を出して随分と広範囲に存在をアピールしてしまったが、すでにその巨体が降り立っている時点で隠密は不可能なので問題はない。


 廃屋の木材に絡みついた植物をよけてみると、ところどころ焼け焦げた跡などもあり、自然と倒壊したものではないとわかる。

 しかしそれはずいぶん昔のものであるようだった。

 もはや何者かが暮らしていた痕跡は薄れ、においもなく、建造物だけが過去を示している。


 ぐるりと回ってみても、襲い掛かってくるものもなさそうだ。

 安全の確保が済んだところで、全員がナギから降りてきて海辺へ向かう。

 

 途中モンタナがひくりと鼻を動かし、首をかしげる。

 よく利く鼻なのであるが、どうも海辺となると色々なにおいが混ざって今一つ物の判別がつきにくい。


「どうした?」


 後ろを歩いていたアルベルトが声をかけると、モンタナは鼻がつまったような声で答える。


「なんか、腐った臭いするです。魚、じゃない気がするですけど……」

「海の方からですか?」

「そですね。たまに風に乗ってするですけど、わかりにくいです」

「腐った臭いかー……。もしかしてアンデッド?」


 コリンの言葉に顔を見合わせたハルカたちは、念のためドワーフたちを後ろに下げて、戦えるものを先頭にして海辺まで慎重に歩いていく。

 結果、海辺についてみたが、やはり何もいない。

 うーんと首をかしげるモンタナ。


 モンタナの嗅覚を信用しているハルカたちも、何かおかしいぞと思いながらも、元気に水辺の調査を始めるキーグを見守る。


「ふーむ、水深は割と浅いか。小さな船なら使えるが、大型になってくると難しいところじゃな」

「でも少し進めば海の色が変わってる。あの辺りから急に深くなるんじゃないか? だとしたら桟橋を伸ばせば使えるだろ」

「ま、贅沢を言わなければそうじゃな。後はこの辺りに魔物や肉食の魚がいないか調べないとな。作業中に急に食いつかれても困る」


 アバデアは腕を組み、コリアはかがんで水面を睨んでいる。

 ドワーフたちもそれぞれ、海岸線を歩き回ったりと、ハルカたちにはわからない調査を開始しているようだった。

 こうなってしまうと冒険者は黙って護衛をしているしかすることがなくなる。

 早々に森の中へ消えていってしまったレジーナ。


「ちょっと森に行ってくるです」

「何かありますか?」

「……この辺り、やっぱり腐った臭いがするです」


 モンタナには海の近くは辛いらしい。

 いなくなる直前に「お、じゃあ俺も」と嬉しそうにアルベルトもついていってしまった。


 何か襲ってくるでもなし。

 平和でゆっくりとした時間が流れていく。

 ユーリは少し離れた場所で、ナギと一緒に魔法の訓練。

 それを眺めながら、ハルカは地面に腰を下ろした。

 モンタナの言う臭いを確認しようと、もう一度鼻を引くつかせてみるが、今のところそれらしいものは感じない。


「ちょうどいいから街であったこと教えてよ。ちょっと離れてただけであっという間にわけわからないことになってるし」


 同じくユーリのことを気にしながら、気だるげなイーストンがハルカの横に腰を下ろす。コリンが右手側、リョーガが左手側を見つつ、それぞれ興味深げにドワーフたちの話を聞いている。

 どうやらしばらくはのんびりと過ごせそうだと判断したハルカは、騎士たちの話から、女誑しのことまで、まとまらない話をぽつりぽつりと紡いでいくのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 海の匂いはプランクトンやら魚などの腐敗臭と言われていますからそれを敏感に感じたのかな。
[気になる点] 今回のドワーフ達救出&護送も、そこに至るまでの切っ掛けは確かに女たらしである。 ここのボタンが少し掛け違えて、例えば女たらしが拐おうとした対象がサラだったら…ナンパには失敗してももし…
[一言] アンデットが出るならそれなりに街のほうでも話に上がりそうなもんだけど ほとんど情報がないってのは何か別の要因があるんでしょうね
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