開発と解凍
困った時、何でもかんでもラルフに頼るのはいかがなものか。
そう悩みながらも、今日もラルフの下へやってきたのはハルカたち御一行である。
「ご報告ありがとうございます」
ラルフは他国の知らないほうがいい事情までつぶさに聞かされ、なんとかいつも通りの笑顔を返した。王国の裏で行われているどろどろの権力争いをなんとなく察してしまったのである。
「しかし、港ですか……」
ここからだと一番近い海は、歩いて五日程度。
そこに港ができれば、確かに王国の東部地域との交流は随分とやりやすくなる。
ただ、なぜ今そこに街がないのか、その理由をラルフは知らなかった。
ここ〈オランズ〉は、【独立商業都市国家プレイヌ】にあるほとんどの街と同じように、元々あった街の遺構を利用して作られている。
ハルカの示した場所に街の遺構がなかったから、街として採用されなかった、と考えればすっきりするような気もするが、少しばかり理由としては弱い。
あとは王国との国境が近すぎるからか、とも考えてみるが、元々【独立商業都市国家プレイヌ】の領土は全て王国のものだった。
その場所に王国の街がないというのも変な話である。
この辺りの情報は一通り頭に叩き込んだラルフであったが、どうにも〈オランズ〉から微妙に距離があるので情報不足であった。
しかし、少なくともその辺りに〈オランズ〉を脅かすような脅威が存在している場合は、とっくに情報として挙がってきているはずだ。
「とりあえず、一度現地を確認してはどうでしょう? 空から見ただけで、実地を調査したわけではないんでしょう?」
「そうですね。……ええと、もしいい場所だった場合、勝手に色々作ったりするのは問題ないんでしょうか?」
「問題ありませんよ。国内に村を作るのと同じです。その場所を開発したら、その人が長として治めてもらえれば。……ああ、今のハルカさんたちの拠点も同じ扱いです。ご自由になさってください」
そういえば拠点として利用しているが、どこかに申請を出した覚えもない。
怒られもしていないし、いつの間にか皆にも当たり前のように認識されていた。
「一応近くの街に申請を出しておくと多少の支援が得られたりしますし、人口が増えれば街としての名前が付いたりしますが……、どうします?」
「とりあえず現地の確認してからがいいかもねー。浮かれてたけど、立地が悪いってことも考えられるし」
コリンが難しい顔をすると、コリアの弟、キーグがアバデアに耳打ちする。
「その時は少しずつ海岸線に沿っていい場所を探せばいい、だそうじゃ」
「はは……、まぁ、お任せしますよ」
癖の強い知り合いが多いなぁと思いつつも、ラルフは話を続ける。
「それから、どうやら北の街が最近騒がしかったのですが、ここ数日は落ち着いているようです。オウティさんが店に顔を出して、変わりないか聞いて歩いているそうですよ」
「あ、そうですか。落ち着いたんですね……」
すなわち、勢力争いにオウティが勝ったということだ。
冒険者たちの利権と、街の店の管理まで傘下に収めたのだから、これはもう次期 宿主はオウティに決まったようなものだろう。
いずれ地ならしも終われば、【竜の庭】にもオウティが直接やってきて、状況を知らせてきそうだ。
出かけるのも悪くない頃だろう。
ハルカやコリンが先のことを考えていると、ふいにアルベルトがラルフに尋ねた。
「シャフトとはどうなったんだ?」
「まさか君から聞かれるとはね。……お陰様で、まぁ、仲直りみたいなことをしたよ」
「良かったじゃんか」
素直にアルベルトが笑うと、つられたようにラルフも笑った。
「聞いてくれるかい?」
「なんだよ」
「……ま、俺とあいつの関係は恥ずかしいから省くけどさ」
そうしてラルフが語り始めたのは、気持ちのすれ違いの話だった。
シャフトは、ラルフが抜けたことが実は相当堪えていたらしく、残りの全員で力を合わせてやっていくことを心に決めていたらしい。だからこそ、全員で階級を上げて成果を出すことにこだわっており、仲間たちに厳しく当たることもあったそうだ。
ハルカたちの宿に世話になってもいいと考えたのは、アルベルト達の成長を聞いて、何か力をつけるためのコツをつかめればと考えたからだそうだ。
当然のように誰にも伝えないから、仲間たちにはそんな気持ちは伝わらない。
一方でキンバリーたちは、そんなシャフトの気持ちの変化がわからず、自分たちが足を引っ張っているから、シャフトが厳しいことを言うのだと思っていた。
シャフトの才能は理解していたし、ならば足枷を外してハルカたちと共に世界に羽ばたいてもらおうという話だ。当然、付いていくのが辛くなったという側面もある。
本音を吐露し合った結果、言い合いの大喧嘩。
落ち着いてきたころには互いに恥ずかしくなったのか、これからも仲良くやっていこうと、丸く収まったそうだ。
「やっぱちゃんと話さねぇとわかんないことあるよな」
珍しくしみじみと言うアルベルトは、冒険者になったばかりの頃、ハルカと本音をぶつけ合ったことを思い出していた。
「私はラルフさんとシャフトさんの関係も気になるけどなー?」
「……兄弟げんかみたいなものです。俺はシャフトの才能に嫉妬して、シャフトは自分が真面目にやらないから見捨てられたと思っていた。かっこ悪いんで、これくらいで許してください」
ラルフが苦笑しながらもコリンに説明をする。
ただその苦笑は、どこかすっきりとしており、今回のことを後悔しているふうではなかった。
「仲直りできて良かったですね」
「……ええ」
ハルカが言うと、ラルフは今までにないくらいに穏やかに笑って、それを肯定してみせた。





