定期報告会
ハルカたちを迎えに出てきたコリンは、笑いながら尋ねる。
「なーんで出かけた時より増えてるの?」
「色々ありまして」
「そうだねー、色々あったんだろうねー」
内容は責めるようなものだが、コリンは楽しそうにそう言いながら降りてくるドワーフたちのもとへ歩み寄り、全員が下りてくるのを待って挨拶をした。
それに応対したのはアバデアだ。
このグループの頭脳はコリアなのだが、初めのうちはアバデアが前に出て相手の様子を探るというのがいつものやり方なのだ。コリアはコリンたちの様子をじっと観察している。
ハルカたちと既に知り合いなので、その時間は短く済ませたようで、挨拶の後の事情を説明するときになると、自然と話の主導権はコリアに移った。
自然なやり方だったので、ハルカたちの陣営も特に誰も気にしていない。
空を飛んでいただけとはいえ、疲れが出たのだろう。
食事をして事情を説明したところで、ドワーフたち一行十一名は、各自与えられた部屋に引っ込んで眠ってしまった。
思えばあの穴倉から助け出されてまだ数日。体力が戻っているはずもないのだ。
ハルカの魔法によって体はすっかり良くなっていたが、落ちてしまった筋力や体力まではまだ戻ってきていない。あの街からは早々に離れたほうがいいだろうという判断から旅に連れ出してしまったけれど、長旅をするにしてもしばらくはリハビリをする必要があるだろう。
。
ハルカたちは、灯りを落としたリビングで離れていた間の情報共有をする。
目をパッチリさせているカーミラはハルカの肩に寄りかかり、ユーリはすでにその腕の中でお休みだ。夜もずいぶん遅くなっているので、珍しくレジーナも同席しているけれど、こちらもすでに目を閉じている。
当たり前のようにすやすやと部屋で眠っているエニシは、多分すっかりここの生活に慣れて安心しきっている。
「こっちはなんもなかったよー。エリさんとカオルさんが来たけどね。またハルカが戻ってきたころ来るって言ってたから、そのうち来ると思うよ」
「何か伝えておけばよかったですかね」
「いや、別に気にしなくていいんじゃない?」
ハルカはメール一本で連絡が取れる時代に生きてきたせいで、相手に無駄足を踏ませることを気にしがちだが、実際はコリンくらい気軽に構えているのがちょうどいい。
街で暮らしている間は付き合いの範囲も狭かったので、こういった事態が起きることはあまりなかったが、これからのことを考えれば慣れていきたいところだ。
「それより、【ロギュルカニス】って、〈オランズ〉と同じく木工製品が有名なのよね。他にもガラス細工だったり、造船技術が盛んって話も聞いたけど……。伝手がある商会が一つだけあって、かなり儲けてるの」
商人の娘だけあって情報は持っているコリンだが、それこそ外に出てくるような情報しか持っていない。伝手のある商会にしてみれば、他には譲れない販路だから、安易に情報を漏らす気もないだろう。
「もし私が商人だったら食いつくけど、冒険者だからなー。ま、家族とかも心配してるだろうし、早く帰してあげたいね」
「そうですね……。出発するとしても、ザクソンさんへ手紙を出して、それが戻ってきてからなので、すぐには出られませんが」
「だいぶ痩せてるみたいだったし、丁度いいんじゃね。笑ってたけど、あれ多分服の下がりがりだぜ」
初対面の相手の実力を測定するのは冒険者として必要な技術だ。
普段から意外と人間をよく観察しているアルベルトである。
辛い生活を送ってきたのだろうと想像したハルカたちが黙り込んだところで、黙って話を聞いていたカーミラが口を挟む。
「【ロギュルカニス】ねー……。私、まだ両親と一緒に暮らしていたころに、旅行をしに行ったことがあるわ」
「近くに住んでいたんですっけ?」
「ええ、【ロギュルカニス】と【グロッサ帝国】の北側国境付近よ? 自然が豊かで、湖には船がたくさん浮かんでいたわ。湖の真ん中に煙を噴いている山があるの」
目を細めて語るカーミラは、はるか昔の記憶を思い起こしているのだろう。
よくもまぁ、千年も前のことを思い出せるものである。
「火山でござるか。ドワーフの冶金技術というのには、拙者も興味あるでござる」
「……【朧】は刀鍛冶が多いって聞くですけど?」
「そうでござる。しかしドワーフは住んでいないんでござるよ。戦争に嫌気がさしてはるか昔に島からいなくなったでござる。【神龍国朧】でずっと争っているのは人ばっかりでござるからな。あの凶暴な鬼も、誇り高い天狗も呆れて戦いに交じらなくなって早数百年でござる!」
「はっはっは」と笑うリョーガだが、笑い事ではない。
破壊者よりも何よりも、人が最も狂暴で欲深いことを示すような、無茶苦茶な話であった。
流石【朧】出身の侍である。常識的な行動はできるが、ねじは少しばかり外れている。
「だから【朧】の鍛冶師は人ばかりでござる。ま、そっちも秘伝の技術は漏らさん上に、凶暴な戦闘集団でござるから、良いものは一振り打ってもらうのも命懸けでござるがな。有名な話だと、ムラサキ一派に弟子入りして技術を盗もうとたくらんだ輩が、故郷の村の辻ごとに体の部位をばらまかれ……、おっと」
モンタナが興味深げに聞いているものだから楽しく話していたリョーガだが、ハルカたちの沈黙に気づいて口を閉ざす。とっくに手遅れだ。
「け、景色は綺麗でござるよ? 心の根のよい住人もいるでござるし! あ、米という穀物があって、これがまた美味いんでござるよ?」
「あんまり行きたくないなー……、ね、ハルカ」
「え? あ、いえ、どうですかね……」
野蛮な話ばかり聞いたのに曖昧な返事をしたハルカに、コリンは驚きである。
まさか米という言葉につられて悩んでいるとは、流石のコリンも気づかないようであった。
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