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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
行って帰って港町

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彼らのおかれた状況

「寛いでいただこうとお声掛けしたのに、余計なことで煩わせてしまい、誠に申し訳なく……」

「あ、ああ、いえいえ、私の連れてきた人が騒ぎの発端のようでしたから。……というか」

「いえ、治安の維持は私の仕事です。怪しい組織があることをわかっていながら、確実に一網打尽にする機会を狙って手をこまねいていましたので……」


 頭をあげないザクソンにハルカは困り果てながら、話を切り上げるきっかけを探す。


「……ええと、こちらのドワーフの方々、南方大陸のドワーフの国からさらわれてきたそうです。治癒魔法を使い、栄養も摂っていただきましたが、かなり過酷な環境に置かれていたようです。どこか屋根のある場所で休ませてあげたいのですが」


 ザクソンはハッとしたように顔を上げて、じっと眠っているドワーフたちを見つめた。

 ハルカの言葉は、王国からしたら結構な爆弾であった。

 ドワーフの国と言えば、南方大陸の西にある大きな国である。

 国土には山が多く、湖を囲むようにして小人の国と隣接している。

 互いの国の交流は多く、文化的にも発達しており、今となっては帝国も手を出さない。

 北方大陸の【神聖国レジオン】のように、神人戦争後には一部の人が避難していた地域でもあるから、その歴史は世界的に見ても大変古いものだ。

 そしてその二つの国は、他国との交流を多く持たないことでも有名である。

 

 匿ってやった人族は、やがて帝国を作り、その技術と領土を得るために戦争を仕掛けた。同じようにドワーフたちの冶金技術や小人族の工芸品を求め、人々は彼らを攫った。

 獣人族が王国で蔑まれ、かつてノクトが激怒したのと同じように、この二つの国は人族の国を強く警戒している。心を閉ざすのは当然であった。


 各国に分散して暮らしているドワーフや小人たちは、国を飛び出した変わり者や、そうして攫われてきた者の末裔だと言われている。

 技術力の高い彼らは、攫われた地でも地位を築き、立派に生きてきたのである。


 国の外交を担当するものからすれば、生きていないでくれたほうが証拠がなくて助かったくらいだろう。

 しかし、すでに特級冒険者であるハルカがその存在を認知してしまった。

 今更誤魔化すことは不可能である。

 

 ザクソンは恩人であり、敬愛すべき女王の妹分であるハルカに対して、迷惑だなんだと思う気持ちはさらさらなかったが、自分が国の重鎮からねちねちと文句を言われることは即座に覚悟した。


 ほんの短い間である。

 様々なことを頭に巡らせたザクソンは、こくりと頷きハルカを先導した。


「小人族の方もいらっしゃいますね。ご案内します。お元気になられたら、お話も伺わないといけませんから」

「お願いします」


 ようやく顔を上げてくれたことにほっとしたハルカは、ザクソンの複雑な思いには気づかない。そして、自分という存在がドワーフたちの命を守っていることにもまだ気づいていなかった。



 一晩休んで翌朝である。

 ドワーフたちと同じ場所で眠っていたハルカは「がははは!」という豪快な笑い声で目を覚ました。

 むくりと起き上がると、昨日までよくよく眠っていたドワーフたちが盛大に食事を飲み食いしていた。酒精の香りもして、朝から元気に酒を飲んでいることも分かる。

 ユーリはちゃっかりとその中に交じってご飯を食べていた。

 ちなみにモンタナは部屋の端まで寄って丸くなり、レジーナはすでに外で自主訓練を始めている。


「おっ、救世主様が目を覚ましたぞ!」


 一人の小人がハルカが起きたことに気づき声をあげると、全員が食事の手を止めてわらわらと集まってくる。小人族の二人が全部放り出してやってきたのに対し、ドワーフたちの殆んどが手にジョッキを持ったままなのは種族性がよく出ている。


「おはようございます……?」


 寝起きから囲まれてハルカが目を白黒させていると、彼らは声をそろえずにがやがやとハルカに話しかける。誰もが礼を言っているだけなのだが、順に答えるのが難しく「いえいえ、そんな」と繰り返すばかりだ。


 しばらくして落ち着くと、ハルカの下にはユーリとアバデア、それに小人二人だけが残った。


「いやぁ、それにしても立派な城じゃ。寝てる間にこんなところにいたもんだから、また捕まっちまったかと思ったんじゃが、あれ寄こせ、これ寄こせって言ったらじゃんじゃん持ってくる。こりゃあどうやら賓客扱いだと気づいて、すっかり宴会になっておった」

「すみません、説明もなく」

「いやいや、久々の酒じゃ、楽しんでおる」


 確かに彼らの笑い声は昨日まで死にかけていた人物たちのものとは思えない、愉快なものだ。その笑いの中には仲間を偲ぶ気持ちもあったのだが、ハルカにはそこまでは理解できない。


「さて、今の状況の説明を貰えるじゃろか?」

「あ、そうですね、はい。じゃあ改めまして、私はええと、はい、こういうものです」


 途中でハッと気づいたハルカは、初めて作ってもらった名刺を差し出す。


「なんじゃこりゃ?」


 手を伸ばして受け取ったアバデアはしばし文字を追いかけてから「うぅむ」と唸った。


「わしは専門家じゃないが、こりゃ大した技術じゃな。【竜の庭】の特級冒険者か。今ひとつピンとこないが、冒険者の中じゃ一番上の位じゃったな」

「はい。お陰様でこちらの偉い方と縁がありまして、監禁されているわけでないので安心してください。ただ、少し状況整理のためにお話を伺いたいそうです」

「ふむ、なるほどな。まっ、助けてもらったわけじゃし、わしらはハルカさんの言うことに従うわい。異論はないじゃろ?」


 アバデアが隣でおとなしくしている小人族に振ると、二人は頷く。


「いいよ。でもそれまでにここがどこかとか、今日までの流れとかが知りたいね。俺はずっと意識がもうろうとしてたからよく覚えてないんだ」


 生意気そうな少年にも見えるが、小人族だから成人済みだ。

 ハルカはこれまでの経緯を、レジーナを探すところから順を追って説明するのだった。

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― 新着の感想 ―
名刺のシーンでふと思ったのだが この世界、義務教育のようなものがない割に識字率すごいんじゃないか? どういった背景で識字率を高くできているのか、もし考えられてるなら楽しみですね
[一言] 種族間対立にハルおじ巻き込むとルインズの陛下としてとんでもないもん引き連れて国ごと轢き潰されちゃう罠
[一言] ・・・センシティブな問題なので。 ただ、受け入れは短期間にすべきですね。仮の住処である間だけ。根を張って故郷になってしまうと拗れますから。
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