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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
行って帰って港町

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負の遺産

 地下の部屋には、金目のものがうず高く積まれていた。それは目を惹かれるものであったが、それよりもさらに気になるものが一つあった。

 部屋の奥の壁が壊されて、その先にトンネルが掘られているのだ。

 魔法で照らしてみると、トンネルの壁面は土が露わになっており、申し訳程度に木材で補強をされている。

 奥には道が長く続いているようで、地下室からは先を見通すことができなかった。


「なんですかね、この穴は」


 問いかけ振り返ると、レジーナはちょうど金目のものを適当に鷲掴んで荷物の中に放り込んでいるところだった。

 きっと誰も咎めたりはしないだろうけれど、決して褒められた行為でもない。


 自分の命を狙ってきた相手を倒して相手の財産を奪うのは、街の外で活動する冒険者的には、それほど間違った行為ではないのだ。

 問題はここが街中であるということなのだけれど。


 咎められないだろうというのは、ハルカが一緒ならば見逃されるだろう、という程度の話である。


「……彼らが悪い人なら、多分退治した報酬がもらえるので、それ、置いておきませんか? 荷物になりますし」


 レジーナは少しだけ考えると、確保したものを次々と元あったあたりへ放り投げた。

 宝石らしきものが混ざっているので、見る人が見たら悲鳴をあげそうだ。


 勝手に報酬を確保できなくなったレジーナは、上へ戻る前にハルカが気にしているトンネルを覗き、鼻をひくつかせる。


「何かわかります?」

「中見にいくぞ」


 ずんずんと勝手に進んでいくレジーナのあとを、ハルカは明かりと共について歩く。

 穴は真っ直ぐに延びていたが、少し進むと横に窪みのようなものが見えてきた。明かりを先行させると、窪みから「なんじゃ?」と掠れた声がした。


 すぐにレジーナが武器を構えたまま飛び出し、そこで足を止めてハルカの方を振り返る。

 敵対してくるような相手がいたわけではないようだ。ハルカも続いて顔を出すと、そこにはドワーフが数人座り込んでいた。


「なんじゃ、あんたら。騒がしいと思ったらいつもと違う奴らがきたな」


 態度こそ強気であるけれど、頬はやつれており、目だけがギラギラとしている。余計な体力を使いたくないのか、床にあぐらをかいたまま立ち上がりもしなかった。

 そのドワーフ以外は喋る元気もないのか、眼球だけを動かし、ハルカたちをジロリと見た。


「こんなところで何を……?」

「何をじゃと? そんなことこっちが知りたいわ」


 よく見ればドワーフたちの奥には。寝転がっているものがさらに数人いるようだった。


「上にいた人たちとの関係は?」

「攫われて買われた。もしやあんたら……、あいつらの仲間じゃないのか?」


 ずいっと身を乗り出したドワーフは、大きな声を出した拍子に酷く咳き込んだ。口元を押さえた腕には、意匠のない腕輪がつけられている。

 布切れのような服を纏っているのに、その腕輪だけが無骨に目立っていた。

 ハルカはそれに見覚えがある。


「違います。その腕輪はあなたのですか?」

「そんなわけあるか。こいつをつけられてからというもの、体の自由が奪われてかなわん。くそ忌々しい」


 ドワーフは腕を振り上げて地面に腕輪を叩きつけるが、それはびくともしなかった。


「その上つるはしで叩いても壊れんのじゃ。やっていられるか」

「攫われて、無理やり働かせられてたということですか」

「ああ、そうじゃとも。もしあんたがわしが死ぬ前の幻覚じゃないんなら、こっから出してもらいたいもんじゃがな」

「……わかりました」


 ハルカが歩み寄ろうとすると、そのドワーフはカッと目を見開いて地面をなぐった。


「待て! いつ操られるかわからん! 先に穴の奥に逃げていったやつを……」


 言葉が途中で止むと、今まで立ち上がる元気もなかったドワーフたちが、突如、ハルカへおどりかかった。

 驚いたハルカだったが、ドワーフたちは障壁にぶつかってべちゃりと床に落ちる。素手のドワーフたち相手には必要なかったかもしれないけれど、魔法の展開はもはや癖のようなものだった。


 穴の奥から男の悲鳴が聞こえる。

 目の前で障壁を殴り始めていたドワーフたちが動きを止めたので、ハルカは声の発生源を確認するため振り返った。

 いつの間にか姿を消していたレジーナが、ずるずると、暗闇の中から何かを引きずって歩いてくる。


 片手で一人ずつ、二人の男が泡を吹いたまま引き摺られてきていた。怪我の具合は、治癒魔法をかけない限り二度と歩くこともできなそうなくらいである。


 障壁の向こうにいるドワーフたちは、その場にへたりと座り込み、ばたりと地面に倒れた。

 そうしてずっと喋っていたドワーフが、ガックリと肩を落とし口を開く。


「すまん。もっと早く言うべきじゃった。嘘みたいな話じゃが、本当に体が勝手に動いてしまうんじゃ」

「いえ、信じます。そのような道具があることを、私は知っていますので」


 ドワーフは「ほっ」と目を開いてから、くしゃりと顔を歪めた。笑おうとしてうまくいかなかった結果であった。


「すまんが……、水をもらえんか。ここ数日水も食料も与えられず、もう限界なんじゃわい……」


 今動いたせいで限界が訪れたのか、ドワーフはばたりと仰向けに倒れ込んでしまった。意識はあるようだが、かなり危ない状態だ。

 栄養はともかく、まずは体の状態を治そうとハルカは順番に治癒魔法をかけながら、レジーナに言う。


「その人たち、逃さないでくださいね」


 閉じ込めて働かせるのはもちろんのことだが、人を意に反して操るなんてとても許されることではない。


「足千切るか?」

「あ、すみませんでした。そこまでしなくて良いです……」


 平気で実行しそうなレジーナに、ハルカはなぜか謝ってしまっていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 足千切るか?って素で言われるとスンってなるよね。
[良い点] レジーナさんはゴキほいほい [気になる点] 何故竜の庭の関係者を狙うのか?尾を踏んだらまた蹂躙されると考えないのか [一言] 治安が改善されました
[良い点] よっしゃ、この勢いで街のドブカス共を一掃して報償金せしめてから帰ろうぜ! 領主がゴネたら? 単独で国ごと制圧出来る特級冒険者【耽溺の魔女】にそんな事出来る奴が居たらたいしたもんっすよ
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