言葉足らずの
「そんなわけで、今日の話はシャフトさんのことと、噂の出所についてですね」
ぞろぞろと仲間たちを引き連れてやってきたハルカは、今日も支部長室でお茶を出してもらってラルフとお話しをしていた。いつも大人数で押しかけているので、一応お土産に高級な茶葉やお菓子を買って渡してある。
ラルフも暇じゃないだろうと思ったので、時間があいた時にと言伝を頼んだのに、すぐに支部長室に通されてしまった。
ラルフはシャフトの話を聞いている間は、終始呆れたような表情をしていたけれど、噂話の方になると少しばかり難しい顔になった。
「噂は……、調べてみます。もしハルカさんたちに心当たりがないのならば、勝手に誰かが言いだしたか、あるいはいやがらせの可能性もありますから」
「いやがらせですか?」
「はい。ここに来る間にも幾度か宿入りの件で冒険者に話しかけられているんじゃありませんか?」
「ええ、確かにそうですね……」
実は拠点の出待ちから始まり、ここに至るまでに実に六組の冒険者や、冒険者チームから宿加入の話を持ち掛けられている。
あちらとしても役に立ちたいとか、一緒に活動したいとか、前向きな気持ちで来てくれているから、すげなく断るのも申し訳ない。
それも、キラキラとした表情の割とフレッシュな冒険者や、これまで少なからず交流があるものだったりするものだから余計に厄介だった。
お陰様で支部長室にたどり着いたのはお昼時である。
話している間、特に用のない仲間たちは買い物をしたり適当にぶらついたりしていたので、幸い退屈はしていないようだったが、時間がとられたことには変わりない。
「ハルカさんの性格を知っていてのいやがらせ、なんてことは十分にありそうですけどね」
「あまり意味があるようには思えないんですが……」
「いやがらせなんてそんなものでしょう。とにかく、それに関しては俺の方で調べてみます」
「ありがとうございます」
礼を言うとラルフは頭をかきながら、気まずそうに顔をゆがめた。
「いえ、むしろシャフトが迷惑をかけたようで申し訳ないです。俺が抜けた後もうまくやっていたようで安心していたんですけど、相変わらず仲間とちゃんと話をしていないようで……」
「答えたくなければ構わないんですが、やっぱり何か意図があってチームを離れたんですか?」
「あー……そうですね……」
ラルフは少し困った顔をしてから、ソファに体を沈めるようにしてため息をついた。
「ご存じの通りです。俺には戦う才能がない。シャフトにはある。でもあいつは俺を基準にものを考えるから、一緒にいたとき、あまり向上心を持とうとしなかったんですよ。俺より強いからいい、って具合で。それに腹立たしい気持ちもありましたし、俺のせいであいつを駄目にしてるんだって気持ちもありました。それから、シャフトのおまけ、みたいな扱いされるのも気にくわなかったんですよ。ほら、俺も今より若かったですし……、それに、こんなでも冒険者ですからね」
ものすごく人間らしい、当たり前の葛藤と決断だった。
ハルカはそれを笑おうとは思えない。本人にとっては深刻な悩みだったのだろうと思うことが出来た。
「それでも、俺はあいつの兄貴分、くらいの気持ちで世話してたんです。俺がいなくなるって言ったら、止めてくることもちょっと期待してたのかもしれないですね。それをされなかったとき、がっかりしたのと同時にめちゃくちゃ恥ずかしくなって……、まぁ、今にいたる感じです。聞かれたから答えましたけど、あまり人に話さないでくださいね」
「……なんかわかるぜ。俺もな、そのうちハルカが驚くくらい強くなるんだ」
腰に手を当てたアルベルトが言うと、モンタナもひそかに頷いた。
いつだって努力し続けられるのは、身近に追いつきたい相手がいるからだ。
「ハルカは強いからって、一人で何とかしようってするときあるですから。もっと強くなって、一緒に戦うです」
「あの、別にそんなことは……」
「たまに守らなきゃ、みたいな雰囲気を感じるんだよな。あれが悔しいんだよ」
「いえ、その、ほら、私一番年上ですし……」
「関係ねぇの」
ハルカはぴしゃりとアルベルトに言い負かされて黙り込む。
そんなやり取りを見ながら、ラルフは笑った。
「本当は俺もそうできればよかったんですよ。拗ねて、自分に言い訳して離れたんです。だからこそ、俺は立派な冒険者になりたかったんですけどね。今じゃ別の仕事をしてますけど」
「いやー、どうかなー。支部長って冒険者として認められた人がなることが多いみたいだし、すごいことだと思うけどなー」
「俺の場合はたまたま機会が巡ってきただけですけどね」
コリンが褒めてもラルフは苦笑するだけだった。
どこか今でも、シャフトに対する後ろめたい気持ちが残っているのかもしれない。
「ラルフさんも……、この機会にシャフトさんと話してみてはどうでしょう?」
「いえ、俺はもう部外者ですから」
ハルカの提案に乗ってこないラルフに、黙っていたレジーナがぶっきらぼうに言い放つ。
「よくわかんねぇけど、お前が抜けたせいであたしたちにごちゃごちゃ言ってきてんだろ。何とかしろよ」
「……あー……、いや。……まぁ、そうですね、わかりました。話をしてきます」
「あの、すみません、なんか余計なことを……」
レジーナからあたしたちという言葉が出たことに、不思議な感動のようなものを覚えつつも、少しばかり身勝手な発言に謝罪をするハルカ。感情のうねりが激しくて、大変である。
「いえ、むしろいい機会です。シャフトに仲間と話せと言っておいて、俺こそあれ以来シャフトと腹を割って話したことがなかったんですよ。割り切ったふりして気にしてたんだと思います。ありがとうございます」
「早く話してこいよ」
ハルカの謝罪を無視して相変わらず高圧的なレジーナであるが、ラルフは気にした様子はなかった。
「今夜中には」
ラルフはレジーナの方を見てしっかりと約束をする。
結果的には背中を押すような形になったので良かったけれど、レジーナとは少しお話をしなければいけないなと思うハルカであった。





