順次対応
騎士たちの動向については、なんとなくラルフの方でも情報を収集してくれることになった。街に人を張り付かせてばかりはいられないハルカたちとしては、非常に助かる話である。
また、一先ず拠点が完成するまでは勝手にあちこちに行かないことをお願いしてもらうことになっている。その間に街への受け入れなどを済ませて、スムーズな連携がとれるように調整を行いたいというのが、それに対する言い訳だ。
ハルカたちも竜と協力して森を見張っておけば、知らぬ間に〈混沌領〉へ入られることは中々ないだろう。
ラルフによれば、この〈混沌領〉対策の派兵は、そもそも【ディセント王国】と【独立商業都市国家プレイヌ】の戦いを仲裁したという形になっていた【神聖国レジオン】の顔を立てる形で受け入れたものらしい。
実際のところ、ただで派兵してくれるというのなら願ったり叶ったりだろうという商人の都合も大きく、『冒険者ギルドとしてはやや警戒を持っていますよ』というスタンスを取ること自体は間違っていないらしい。
むしろそうでないと舐められてしまう。
ラルフには若いながらも、ちょっとめんどくさく、一筋縄ではいかない〈オランズ〉の支部長になってもらうというわけである。
これについては冒険者ギルド本部からも、怒られることはないらしい。
問題があるとすれば、ラルフのメンタルがゴリゴリ削られていくことくらいだろうけれど、そこは本人も了承済みである。
ラルフの大いなる犠牲に感謝しつつ、ハルカは翌日ノクトを連れて拠点へ一度戻る。街にいるといつスワムと遭遇するかわからないということで、全会一致での決定であった。
代わりに万が一森で神殿騎士と会った場合を考慮し、門番ことタゴスをぼこぼこにしていた(手合わせ)レジーナを回収。
拠点に暮らす仲間たち全員にも、コート夫妻と同じように拠点の事情を伝えた。
竜たちにはナギから巡回をするよう頼んでもらったことで、途中から編隊を組んで〈黄昏の森〉上空を飛行してくれるようになった。専門家である〈ドラグナム商会〉によれば、自由に飛べる場所があるのなら飛んでいた方がストレスにならない、らしいので、こうして任務を与えたことによる悪影響は特になさそうである。
「タゴスさんは……あのー、あくまで提案なんですが……、うちの宿に入ったりしますか……?」
ハルカに怪我を全て治してもらったタゴスは、その控えめな提案の意味を最初理解できずに、ぽかんと口を開けていた。
それを見たレジーナは、嫌がっているのだと思ったのか、眉間にしわを寄せて「嫌ならさっさと断れ」と吐き捨てる。
「は? うるせぇよレジーナは黙ってろ」
「ぶっ殺すぞ」
「後にしろ」
結構な頻度で散々ぼこぼこにされているというのに、タゴスはレジーナに対しては相変わらずそれなりに態度がでかい。同じ一級冒険者であるというプライドと、昔の因縁がそうさせているのだろうけれど、別に互いに仲が悪いわけではない。
宿の話とかになると、タゴスもレジーナの言うことを素直に聞くのだが、今回に関しては自身のことだ。そうなのかと頭をかきながら引き下がるわけにはいかない。
レジーナもタゴスの言葉に理があることはわかっているのか、不満そうな表情を湛えながらもまだ手は出ていない。
「いいのか?」
「お世話になっていますし、タゴスさんさえよろしければ。一応他の皆にも確認していますし……」
「そうか……、あいつらもか……」
タゴスはレジーナだけでなく、アルベルトたちの訓練相手もよくやってくれている。ぶっきらぼうで強面ながらも、暴れるような奴ではないという認識を拠点の仲間たちも持っていて、今では気軽に重いものを運ぶときに声をかけられたりしている。
フロスとゆかいなカーミラの犬たちなんかは「タゴさん、タゴさん」と言って割と慕っている。
「ただ、その、ちょっと色々とお話ししなければいけない事情もあって……」
ぼそぼそというハルカの声は、熟考しているタゴスの耳には届かなかった。
「いいぜ、入れてくれ!」
「あ、そうですか?」
「初めて腰を落ち着けた場所だ。ここに来てからしばらく、随分と腕も上がった。俺様で良ければ一員に加えてくれ」
「わかりました、ではよろしくお願いします。ところで、先ほどの事情についてなんですが……」
「事情? 今更だ、なんだって受け入れるぜ?」
その辺はよく聞いてなかったタゴスが安請け合いをする。
「ありがとうございます! 実はですね、私、〈混沌領〉の南半分くらいに住む破壊者の王をしてまして……。その都合で色々とご迷惑をかけるかもしれないんですが、説明は都度きちんとさせていただきますので。今はですね、主にリザードマンとハーピー、巨人、ケンタウロス、コボルト、人魚と仲良くさせてもらっています。そのうちご案内もしますね」
「お……」
脳が理解を拒否する事情にかすれた声を出したタゴスだったが、今更考えさせてくれとも言えず、そのまますべての言葉を飲み込んだ。
「では、神殿騎士が拠点に来るようなことがあったら、この先には通さないでください! ギルドの方には私から手続きをしておいてもいいですか?」
未だ思考が追い付かないタゴスは、神妙な顔をしながら一度頷く。
「わかりました、では、これからどうぞよろしくお願いします! レジーナ、ナギ、行きますよ」
そう言ってさっさとナギの背に乗り込むハルカ。
タゴスがフリーズしているのに気が付いているレジーナは、これでいいのかと珍しく疑問に思いながらハルカとタゴスを交互に見る。しかしそれもつかの間、タゴスのことだからどうでもいいかと結論付けて、すぐにハルカの後に続いたのであった。





