一緒に生きる人たち
「あまり関わり合いにならないほうがいいかなぁって思ってたけどさ、逆にできるだけ接触しとかないと、いつの間にか勝手にきてそうだよねー」
人込みに紛れながら危ない話をするのはコリンだ。
主語がないので何の話をしているのかは外からはわからないだろうけれど、相槌を打つにはちょっと気を付けなければならない。
「そうですね……。別に、通り抜けはいくらでもできるわけですから」
いくら開けた〈忘れ人の墓場〉を拠点としているとはいえ、関所があるわけではない。森の端の方を通れば、普通に通過することは可能だ。
ただ魔物が多くリスクが高いから、相応の実力がない限り道を外れるメリットはないのだが、席次の高い神殿騎士くらいになれば大したリスクにもならないだろう。
「通り抜けることが彼らにとっていいことではない、とする必要があるわけですねぇ……」
付け足したのはそのような駆け引きが得意そうなノクトである。
他人事なので、矢面に立つ気はもちろんないだろう。
弟子であり当事者であるハルカが解決するべき問題としてとらえているのだろう。
ある意味真っ当な師匠からの試練でもある。
「ちょっと話し合いが必要な気がしますね。エリと話したように、拠点の仲間全員に事情を共有するべきなのかもしれません」
「そうだよねー……」
きっと受け入れてくれるだろうと思いながらも、余計な心理的負担をかけないように控えてきたことだ。ただ、こうして近くに警戒するべきものがきてしまっている以上、身内では結束して備えておきたい。
「それほど心配する必要はないのではないか?」
ひょっこりとハルカたちの顔を覗き込むようにして言ったのはエニシだ。
拠点でエニシちゃんエニシちゃんとかわいがられているせいで、厳かな仕草よりかわいい仕草の方が板についてきてしまっている。
ハルカたちが一斉に目を向けると、ややたじろぎつつもエニシは続ける。
「コリンが言っていたではないか。仲間とは、共に歩むものなのであろう? 誰かだけが責任を負っている状態は不健全だと」
コリンとハルカは横目で視線を交わして笑う。
「その通りですね、ありがとうございます」
「なんか今、はじめてエニシが年上っぽく見えたかも」
「なんだまったく。我を舐めすぎではないのか?」
言葉では文句を言いながらも、エニシは嬉しそうに表情をほころばせる。
分かりやすくちょろい巫女様に一行が和んだところで、商店の店主から声がかかり話はいったん中断となった。
相変わらずあちこちで商品を貰いながら、ハルカは街中を歩く。
これからどうしたものかという悩みはあるが、先ほどよりは少しばかり心が軽かった。
「あっ、ハルカさん! お久しぶりです!」
拠点へ戻ると飛び跳ねるようにサラが近づいてくる。
サラには申し訳ないと思いつつも、それがまるでこの間までくっついて回ってきていたコボルトのようにも見えて、ハルカは思わず微笑んで頭を撫でてやった。
一瞬だけ驚いたような顔をしたサラだったけれど、すぐにはにかむような笑顔を見せて素直に撫でやすいように頭を差し出してくる。
「お久しぶりです。留守にしている間、拠点でヴァッツェゲラルドさんに出会ったようで。怖かったでしょう?」
「……怖かったです、けど、いつか来ると思っていた未来がヴァッツェゲラルド様で良かったです。まだまだ力不足で、敵対的なものが来ていたら何もできずにやられるところでした」
思い出して震えるのではなくこぶしを握るサラは、うつむきながらも冒険者の顔をしていた。
ハルカたちや見守っている両親にもそんな気持ちが伝わってくる。
冒険者としてどのように生きていくのか、サラの中で少しずつ固まりつつあるのかもしれない。
「うまくいかないことや、力不足を感じることもあるでしょう。どんなに強くなっても、それはなくならないもかもしれません。私たちは折角出会って仲間になったのですから、何かあればいつだって相談してください。一人でできないことでも、一緒ならできるかもしれません。とはいえ、今回のように留守にしていることも多いのは申し訳ないですが……」
最後にハルカが苦笑すると、サラはぶんぶんと首を振ってから顔を上げた。
「ありがとうございます! 私ももっと強くなって……、それで、ハルカさんに困ったことがあった時、相談してもらえるようになります!」
「楽しみにしてます」
そう答えて、持って帰ってきた荷物をテーブルに置いてから、ハルカはサラとその両親に向けて続ける。
「……というか、今丁度、ご両親も含めて相談したいことがあるのですが、お時間頂いても?」
「……私たちも、ですか?」
「はい、ダスティンさんと、ダリアさんにもです。私はお二人も【竜の庭】の仲間だと考えています。実はサラには一度お話をしたことなのですが……、改めてお二人にもお伝えしなければいけないことがあります」
すっかり穏やかな夫婦をしている二人は、顔を見合わせてから互いに頷き、穏やかな笑顔を浮かべながらダリアが答える。
「わかりました。お茶を入れますから、少しだけ時間をください。ハルカさんもあまり緊張なさらずに待っていてくださいね。……おこがましい話ですが、私たちも皆さんの仲間だと思っていますから」
ハルカは幾度か瞬きをしてから、手のひらで自分の頬を撫でる。
緊張していたのがまるっと伝わっていたのが少しばかり恥ずかしかった。





