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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
オランズの街と神殿騎士

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君もきてたんだ

 北の門の方に先行してやってきた騎士団がいると聞いて、ハルカたちはそちらの偵察をしに行くことにした。

 敵対しているわけではないので、遠くからどれだけきているのか確認するだけなのだが、少しばかり緊張してしまうハルカだ。

 特にカーミラに関しては一緒に行かない方がいいんじゃないかと、控えめに提案してみたのだが「仲間外れは嫌よ」とあっさり断られてしまった。

 カーミラは楽しそうに少し先に行って店先を冷やかしたり、見るものがなくなればハルカにべったりとくっついたりと、一番街歩きを堪能している。

 そもそも賑やかな場所が好きだし、見るものの多くが新鮮で楽しいのだろう。


 麦わら帽子をかぶって、日傘をさしているカーミラは、どこから見ても良家のお嬢様で、これを吸血鬼と看破するのは難しいだろう。

 日差しの中でも楽しさが勝っているのか、だるそうな様子を見せない。

 これこそが千年生きた吸血鬼の力と言われると納得してしまいそうだ。

 ハルカは今度イーストンに、事の真偽を確かめるつもりである。


 ユーリの歩幅に合わせて小一時間ほど歩くと、ようやく北門が見えてきた。北門は東西南北四つの門のうち、〈黄昏の森〉に最も近い。


 ハルカたちがいつも利用しているのは〈黄昏の森〉までの道が整備されている東門である。

 一応西からの道も整備されており、東からの道に賊や危険な魔物が出るようになるとそちらを使うこともあったりするのだが、顔馴染みも多いので自然とそうなった。


 では北門はどうかというと、街の中で一番堅牢に作られており、櫓も多く、冒険者の警備の数も多い場所だ。

 街全体の意識として、森から魔物や肉食の野生動物が一番初めに殺到する場所とされている。

 だからこそ〈オランズ〉の街は、敢えて少し距離のある東門からの道を、人の通る道として整備したのである。


 自然、北門に近づくほど街の治安は少しだけ悪くなっていく。はっきり言ってこの辺りは【悪党の宝】の縄張りである。

 街を大まかに分けると、北東に冒険者、東に職人、西に商人、東西の門を結ぶ道が大動脈。北西に歓楽街があり、南が富裕層の住居といった具合だ。


 騎士団が望んだのか、あるいは別勢力を危険な場所に追いやったのかは定かでないが、そんな北門の外に騎士団は拠点を作っているようである。


 ややピリピリとした雰囲気は、なぜか大通りを歩いているハルカたちにも向けられている。

 イライラした様子の冒険者だかチンピラだかわからない連中が、路地からハルカたちを見張るように観察していた。


 カーミラは、どこから見つけてきたのかよくわからないような骨董品が並べられた露店をしばらく眺めていたが、視線に気付きふと顔を上げる。

 どこにでもいるようなチンピラと目が合ったカーミラは「何か御用かしら?」と言って小首を傾げた。

 にっこりと邪気のない笑顔を向けられた若いチンピラは、戸惑ったような顔をして、何も言わずに路地の奥へ消えていく。


「あら……」


 残念そうにその後ろ姿を目で追ったカーミラに、ハルカが後ろから声をかける。


「どうしました?」


 少しばかり肩を揺らしたカーミラは、ハルカに擦り寄って「なんでもないの」と少しばかり甘えたような声を出した。

 なんだかこの辺りは、犬にしやすそうな人が多いなと思っていたのだけれど、そういうことはもうしないとハルカに約束をしている。

 そんなつもりはなくても思わず声をかけてしまったことを反省しながら、カーミラは誤魔化すようにハルカに甘えてみせた。

 モンタナの視線が斜め下から刺さっていたので、こっそり口元に指を当てて「しーっ」と口止めする。

 モンタナもカーミラが本気ではないのがわかっているので、耳をぴぴっと動かすだけにとどめた。


「いちいち面倒くさいなぁ。ただ酒を買いに来ただけじゃないか。ここでは誰かに許可を取らないと嗜好品もろくに買えないのか?」


 大きな声での抗議が聞こえてきて、ハルカたちはそちらへ目を向ける。そこには騎士らしき人物が一人と、街のチンピラが数人向かい合っていた。

 隅っこでは飲み屋の店主らしき人物がオロオロと困った顔をしている。


 街でのパワーバランスについて色々と思うところのあるハルカたちとしては、本来はあまり首を突っ込むのは好ましくない。

 そうとわかっていながらも、少しだけ目配せしあったハルカたちは、躊躇することなく騎士たちのもとへ歩み寄った。

 その騎士がまた知っている顔だったから、なおのこと無視はできない。


「どうしましたか?」


 ハルカが声をかけると、チンピラたちは一斉に振り返って威嚇をしたが、その顔を確認して一気に引き腰になる。

 陰口や聞こえるように文句を言う彼らであったが、覚悟や高揚感もなくいきなり特級冒険者に声をかけられたらビビるに決まっている。


「どうもこうも……」


 不機嫌そうにハルカたちを見たわずかに無精髭を生やした騎士は、途中で言葉を止めて目を丸くした。


「ハルカさんじゃないっすか! お、モンタナくんは相変わらず小さいねぇ! っとなると、あれ、アルベルト君はいないのか。コリンちゃんも元気だった? 今日はまたまた違った美人と、変わったちっさい子供まで連れて……」

「久しぶりですね、フラッドさん。それで、どうしたんですか?」


 人懐っこい笑みでデリカシーのあまりない話し方をするこの騎士はフラッド。

 ハルカたちが初めて遠征をした時に同道した騎士の一人である。

 最後に会った時は騎士の隊長に出世していたようだが、どうやら今回はオランズまで派遣されてきたらしい。


「聞いてくださいよ、こいつらさぁ!」


 いきなり愚痴っぽく距離を詰めてくるのは流石だ。そういうところは昔とちっとも変わっていないようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「悪党の宝」の下っ端がハルカを敵視してるのは何人か 初期のころのハルカに溺死させられかけた事があるのかもしれませんね しかも今や特級冒険者なので怯えているみたいな
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