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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
後始末と前準備

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ただいまの挨拶

 リザードマンの里での話を終え、そのまま拠点へまっすぐ戻っていく。

 空が茜色に染まった頃に見えてきた拠点の一部では、小麦が黄金色になって風に揺れていた。

 まだ作付け面積は狭いけれど、根付いてまだ期間が短いことを考えればよくやっている方だろう。農業担当のフロスはカーミラの犬たちと手を取り合って少しずつ畑の面積を広げているようだ。

 森から葉を持ってきたり、土をまぜっかえしたりはハルカが魔法でできるのだが、毎日の細かい世話は全て監督してくれている。初めは偵察兵としてやってきたフロスであったが、今では拠点に欠かせない人材となっていた。


 ナギが帰ってきたことに気づいた中型飛竜たちが、迎えるように地表から飛び立ち、何か声を発しながら周りを飛び回る。彼らはナギを自分たちのリーダーであると認識しているので、留守中のことを報告しているのだろう。

 報告を受ける間、ゆっくりと空を散歩していると、気付いた仲間たちがあちこちから出てきて空を見上げる。


 ナギがゆっくりと降下して、ハルカたちが地面に降り立ったころには、周りに人が集まってきていた。


「ママ、おかえり!」


 ユーリが走ってきて、その後ろにノクトがのっそりと歩いてついてくる。

 あまり障壁に乗ってばかりいないようにというのをちゃんと守っているようだ。いくら年を重ねているとはいえ、若々しい見た目をしているのだから、本当に足腰の立たないお爺ちゃんになられても困る。


「ただいま帰りました。元気にしてましたか?」

「うん!」


 走ってきたユーリを受け止め抱き上げたハルカは、ユーリがまた少しだけ大きくなったのを感じる。

 ほんのひと月弱離れていただけなのだが、子供の成長というのは早いものだ。

 特にユーリはすでに魔素を体に巡らすことができるので、早くハルカたちと一緒に冒険に出られるようになりたいという思いもあいまって、その成長がさらに促進されているのだった。

 ハルカは数歩前へ出て、ノクトに合流して話しかける。


「なんでもヴァッツェゲラルドさんがこちらに立ち寄ったとか」

「ええ、腰が軽いですよねぇ……。流石にサラさんを脅かしたことに関しては文句言っておきましたけど」


 ユーリとサラにはノクト手ずから教育を施しているせいか、若干保護者じみた感情が湧きつつあるようだ。ハルカたちはすでにある程度形になってからの出会いだったから、試練を課すような事ばかりやっていたが、二人にはどうやら少しだけ甘い。


「サラさんは……、いないみたいですね」

「あの日はたまたま顔をだしにきてただけですよぉ。今はまた〈オランズ〉に戻ってますねぇ」

「少し体を休めたら顔を見てきます」

「それがいいでしょうねぇ」


 ノクトだけではなく、他にも数人と会話をしながら屋敷へ向かっていると、夕暮れだというのに麦わら帽子をかぶったカーミラが早足で歩いてくる。ウルメアといい、白い肌に麦わら帽子はアンバランスなようでよく似合う。


「お姉様、おかえりなさい。少し遅かったから心配してたの」


 ふんわりとユーリごと抱きしめられる。


「色々ありまして、ご心配かけてすみません」

「元気ならそれで、って言いたいところだけど……、ちょっと寂しかったわ」


 本音ではあるけど本気ではないのだろう。

 カーミラはいたずらっぽく笑っていた。

 すぐに拘束は解かれて、カーミラもハルカの横に並ぶ。


 もう屋敷に入って荷物を置こうというところで、ハルカは少し離れたところで妙な動きをしている二人を見つけた。

 エニシがもじもじとしており、カオルが何か声をかけている。

 カーミラもそれに気が付いたようで、小首をかしげてから、何かに気づいたようで、すたすたと近寄っていってエニシの脇に手を差し込み持ち上げる。

 バタバタとエニシは暴れているが、カーミラはあれで千年生きた吸血鬼だ。体の小さな女性一人が全力を出してもそよ風ほどにしか感じない。


「この子も私が眠っている間とか、犬たちの応援したりしてくれてたの。まだ帰らないのかと、最近ではよくお姉様のことを心配していたわ」

「我……、三十八ぞ……」


 諦めてぶら下げられたエニシは、威厳の欠片もない姿でカーミラに抗議するがどこ吹く風だ。カーミラは、小さいのに頑張っているかわいい子、くらいにしか思っていない。


「あ、ご心配ありがとうございます」

「べ、別に心配などな……」


 妙なツンデレを発揮しようとしたエニシに顔を寄せて、ハルカは小さな声でエニシに伝えるべきことを伝える。


「〈混沌領〉の東端の街を確保してきました。港の整備がまだですが、こちらの大陸からだと、一番【朧】に近い港になるはずです」


 エニシは目を見開いて、それからくしゃりと泣きそうな顔をする。


「すまぬ、助かる」

「いえ、成り行き上です。すぐに動き出すわけではありませんが、あまり心配せずゆっくりしてください」

「よくわからないけど、よかったわね?」


 曖昧なカーミラの言葉に、エニシは小さくこくりと頷いた。

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― 新着の感想 ―
カーミラかわいいよカーミラ……
[気になる点] >発破を持ってきたり、  誤字なのかな?とも思うのだけど、誤字報告するほどの確信がもてません。
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