獲物比べ
砦を出たハルカが、コリンと一緒に魚をさばいていると、コボルトが何人か塊になって門の内側へ走り込んでくる。
「王様呼んできてって言われた!」
ハルカのもとへ来ると、先頭を走っていた黒と茶のコボルトが両手を上げて報告する。体の大きな動きには特には意味がなさそうだが、内容は気になるものであった。
「怪我をしてましたか?」
「ううん、なんか大きいの! 持ってきてた!」
両手をぐるんと回して大きいをアピールしたコボルト。
もしかしたらこのために両手を上げていたのかもしれない。
緊急事態ではなさそうなことにほっとしながら、ハルカは汚れた手を魔法で生み出した水球の中で洗う。
「ちょっと様子を見てきます」
「はーい、気を付けてねー」
コリンがトンと、大きな魚の頭を落としながら振り返りもせずに返事する。
相当量の魚を貰ってきたようで、悪くなる前にさばききってコボルトたちにもふるまうつもりでいるらしい。
コボルトと仲良くなる作戦の一環なんだとか。
単純なコボルトたちのことだから、さぞかし有効に作用することだろう。
誘導するコボルトたちについていくと、こちらもまた道中でついてくるコボルトたちが増えていく。休みの日は暇なのか、なにかあるとわらわらと集まってきてしまうのだ。
勝手にできる行列を気にしないようにしながらハルカは街の往来を進んでいく。
門にたどり着く頃には百人ではきかない数のコボルトたちが、なぜだか楽しそうについてきていたが、それに応えられるかどうかだけがハルカの心配するところである。
門の内側では、壁に隠れるようにして幾人かのコボルトが外を覗き込んでいる。
「お、ハルカ、来たな! どれが一番でかい!?」
まだ外に出ていないうちに声をかけられても何が何だかわからない。
「あたしのがでかい」
「僕のです」
門の外に出ると、大型の生き物が四頭、仕留められた状態で並んでいた。
アルベルトが走って自分の仕留めた獲物らしきものの前へ行くと、その隣にいたナギが足の生えた大きなワームのような生き物を咥えて、そーっと距離を取る。未だにアルベルトは自分の獲物を横取りするかもしれないと警戒しているようだ。
正直ナギの獲物はハルカから見てあまりおいしそうに見えなかった。
虫嫌いが見たら卒倒しそうである。
ナギは自分で仕留めた獲物は自分で食べるのでいいとして、残り三人の獲物だ。
「勝負してるんですか?」
「おう、そうだ。上から見たら大きさ分かるだろ? 空飛んでみてくれよ」
そのためだけに呼ばれたのかと思うと気が抜けるが、なんだか楽し気な場所に誘ってもらえたことが嬉しくもあった。
「ちょっと待ってくださいね」
空へ昇っていき真上へ移動する。
まずアルベルトの獲物は、黒光りした皮膚を持つ、サイのような生き物だった。
鼻の頭に立派な角が生えていて、手足がずんぐりと短い。大きさは三頭の中では小さいけれど、有用に使える部分は多そうだ。
次にレジーナの獲物は大蛇だった。これはもう断然長い。
断然長いのだけれど、食いででいうと、アルベルトの仕留めた獲物の方がありそうにも思える。何で比べているのかを聞いてみないと判断は難しい。
最後にモンタナの獲物。
モンタナはハルカが空に上がると、その羽の端を引っ張って獲物を横に大きく広げた。首が落とされているけれど、面積で言えば圧倒的な獲物は、空を飛んでいたであろう怪鳥である。
赤ん坊のころに鳥に連れ去られたことのあるモンタナも、今ではすっかり捕食者側だ。きっと見えない剣でさっくりと首を斬り落としたのだろう。
鳥なのでどうしても肉の量は劣るが、その分羽なんかは好事家が高値で買ってくれそうである。
ちなみに細くてぐねっと長くて、あまり食欲がわかないのがナギの獲物である。長さだけで言うと、多分レジーナの蛇よりも長い。
ナギは一応咥えたまま獲物を掲げてアピールしてくれているが、これは獲物を見せびらかしているだけで、勝負に参加しようとしているわけではないので審査外だ。
「大きなの捕まえましたね、食べてもいいですからね」
ハルカが褒めてやると、ようやく納得したのか、ナギはバリバリと食事を開始する。紫色の体液が飛び散っていたので、ブランブランさせなくなっただけよしというところか。
ナギはこれまで毒がありそうな生き物を色々と食べてきているが、今のところ体調不良になったことは一度もない。毒々しい見た目の生き物だけれど、今回もおそらく大丈夫だろう。
イーストンによれば大型飛竜という生き物は、非常に丈夫で、自然にある毒が効くような繊細な生き物ではないらしい。
ハルカが地面に降りると、三人が寄ってきて裁定を待つ。
「……あの、基準とかあります?」
「一番食えそうなの」
「長さ」
「大きさです」
「あ、はい」
それぞれ譲るつもりはなさそうだ。
「引き分けは?」
「なしで」
「なしだ」
二人の即答と首を横に振るモンタナ。
ハルカはもう一度並んでいる獲物たちを見てひとしきり悩んでから、こう答えた。
「じゃあ、味で決めましょうか」
三人は互いの表情を窺う。
審査員はハルカだ。裁定を求めた以上従うほかないだろう。
「まぁ、ハルカならそう言うか」
「そうだな」
「仕方ないです」
「どういう意味ですか? ……まぁ、いいですけど」
なんとなく納得のいかない反応ではあったがハルカは渋々引き下がる。
まるで自分が食い意地を張っているみたいじゃないか、という反論は、すぐさま封殺されそうなので心の中にとどめておくことにした。
うおおおお、千話
お祝いにポイントとかブクマとかくださってもいいんですよ! ですよ!





