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・第81話:「神父、襲来」

・第81話:「神父、襲来」


 デュ―ク伯爵の姿を目にして警戒を解いたエリックたちだったが、伯爵の表情が険しいのを見て、なにかが起こったのだということを理解して再び緊張する。


 デュ―ク伯爵は温厚な性格で、こんなふうに険しい表情を見せてことはほとんどない。

 エリックの記憶の中にも、デュ―ク伯爵の領内で盗賊が暴れてひどい事件を起こした時や、エリックとエミリアが探検だと言って森の中へと迷い込み、ひどく心配をかけてしまった時くらいしかない。


「エリック。隠れていなさい。


ヘルマン神父が、踏み込んで来ようとしている」


 エリックは、デュ―ク伯爵の口から発せられたその言葉に、奥歯をギリギリと噛みしめた。


 ヘルマン神父。

 忘れもしない名前だ。


 ヘルマンは、元盗賊のリーチと同じく、エリックのことを裏切った、聖母の手下だ。

 彼は聖母がしくんだ裏切りの現場における責任者であり、実行者であり、エリックが命からがら魔王城から戻ってきた際には、「魔物が化けている! 」などとウソを言って、エリックを問答無用で捕えさせた人物だ。


 あの時、エリックの親友である騎士・バーナードが助けてくれなかったら、ヘルマンはきっとエリックにトドメを刺そうとしていたことだろう。


 そのヘルマン神父が、デュ―ク伯爵の城館に、この場所にやって来た。

 思わず、エリックの手は、剣の柄をきつく握りしめていた。


「落ち着きなさい、エリック。


 実際にヘルマン神父が踏み込んで来るのには時間がある。

 今、門のところで、警備の兵士と押し問答をしているところだ」


 だが、デュ―ク伯爵はそんなエリックの肩に手を乗せてエリックを落ち着けさせると、そう言って、クラリッサやセリスにもわかるように状況を伝える。


「領主としての権限を盾にしてもらって立ち入りを防いでいるところだが、どうにも態度が強硬で、長くは時間を稼げそうにない、ということだ。

 聖母様の威光を誇示されては、いち領主の身ではあまり強くも逆らえない。


 ただ、ヘルマン神父は、お前たちがここにいることまでは知らないようだ。

 だから、エリック、お前たちは部屋でじっとして、隠れていなさい」


 デュ―ク伯爵の言葉にエリックたちは顔を見合わせた後、お互いにうなずき合った。


 ヘルマン神父が無理やり城館に押し入ってこようとしているからと言って、今から慌てて逃げ出したのでは、リスクが大きすぎる。

 城館の門以外から外に出る方法は、エリックたちが鉤縄を使って侵入したようにいくつかあるのだが、外から見ていると目立つ。

 今が夜間なら脱出もあり得たが、太陽が昇っていて明るく見通しがきく今出て行ったら、城館を見張っている教会騎士たちにすぐに発見されてしまうはずだった。


「わかりました。うまく隠れています。


 それで、父上は、どうなされるのですか? 」


 部屋に隠れて息をひそめているという方針で決まると、エリックは少し心配そうにデュ―ク伯爵にたずねる。

 父親であるデュ―ク伯爵がエリックたちのことをヘルマン神父たちに売り渡すような心配はなかったが、むしろ、デュ―ク伯爵自身がヘルマン神父からなにかされるのではないかと、不安だった。


「私は、ヘルマン神父と会って、どうにか追い返そうと思う


 なぁに、エリック、心配することはない。

 うまく追い払って見せるさ」


 すると、デュ―ク伯爵はそう、エリックを安心させるように言った。


 それでエリックの不安は消えなかったが、しかし、今はデュ―ク伯爵のことを信じて、隠れているべきだろう。


「ではな、エリック。……クラリッサ殿、セリス殿。我が息のこと、どうぞよろしくお頼み申します」


 デュ―ク伯爵は最後にそう言うと、ヘルマン神父と会って追い返すためにきびすを返し、エリックの部屋を後にした。


(エミリアが出かけていて、良かったな)


 エリックは言われた通り部屋の中に隠れ、無人をよそおうためにまずは部屋のカギをかけながら、これからなにが起こるかわからないこの場に妹のエミリアがいないことにほっと安心していた。


────────────────────────────────────────


「エリック様! 若様! 大変でございます! 」


 デュ―ク伯爵の城館で雇われている、年配の特に信頼されている執事がエリックの部屋の扉を激しく叩いたのは、ほどなくしてのことだった。


 エリックたちはデュ―ク伯爵に言われた通り部屋の中で隠れて息をひそめていたのだが、執事の切羽詰まったような声に、エリックは慌てて扉へと駆けよった。


 念のため部屋の外にヘルマン神父たちがいないかどうか気配を探った後、エリックが扉を開くと、そこにはよほど慌てて階段を駆けのぼって来たのか、年老いて白髪ばかりになった執事が息を切らしながら立っていた。


「大変、大変で、ございます!


 旦那様が、ヘルマン神父たちに連れていかれました! 」

「なんだって!? 父上が!? 」

「は、はい!


 なんでも、聖母様より、急ぎ聖都に出頭するようにという、召喚命令が旦那様に出されたそうでございます」


 慌てている様子の執事の言葉に驚いているエリックの背後で、冷静な、偵察兵スカウトとしての顔になったセリスが窓に駆けよって外の様子を確かめていた。


「教会騎士たちに護衛された馬車が、走っていく。

 城下を抜けて、聖都に向かう街道に入ろうとしている」


 そのセリスの言葉に、エリックとクラリッサ、執事も慌てて、窓へと駆け寄った。

 そして外の景色に目をらすと、セリスが言った通り、馬に乗った教会騎士たちに厳重に護衛された馬車が1台、猛スピードで走っている。


(なぜ、父上が……?


 まさか! )


 ヘルマン神父たちは、エリックがここにいること、デュ―ク伯爵がエリックを手助けしていることを知らない様子だと、伯爵はそう言っていた。

 それが正しいとすると、エリックには、ヘルマン神父が、聖母がデュ―ク伯爵を連れ去った理由は1つしか思いつかない。


「急いで、父上を追いかける!


 アイツら、父上を、オレをおびき出す人質にするつもりだ! 」


 卑劣ひれつな者たちが取りそうな手だった。


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