表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/339

・第7話:「魔王軍包囲殲滅戦:4」

・第7話:「魔王軍包囲殲滅戦:4」


 魔王と、魔王軍の生き残りが集まっている城館の門扉は、固く閉ざされていた。

 石なのか金属なのか、継ぎ目のない素材で作られた巨大な城門は、何人なんぴとの接近をも拒むようにそびえたち、エリックたちのことを見おろしていた。


 そして、門と、高く分厚い城壁の向こうには、魔王の住居である宮殿の建物が、幾重にも広がっている。

 人類軍の総攻撃によってその大半が破壊された魔王城だったが、その、魔王の権威を示すための壮麗な建築物は、無傷のままそこに残っている。


 高度な魔法による、強固な防御が働いているおかげだった。

 魔王の城館に施された魔法は、外部からのありとあらゆる攻撃を防ぎ、上空を完全に抑えている人類軍の侵入も攻撃も、まったく許してはいなかった。


 その鉄壁の守りを崩すために、城門の前には何人もの魔術師たちが集まっていた。

 人間の中でも特に優秀な魔術師たちが集められ、その魔力を合わせた強大な魔法を使用することにより、人類軍の攻撃を阻んでいる鉄壁の魔法障壁に突破口をこじ開けようとしているのだ。


 魔王城の他の部分の制圧が終わらないうちから始められた、魔法障壁を突破するための魔術を発動させる準備は、すでに完了している。

 城門の前の瓦礫は人類軍の兵士たちによってきれいに片づけられ、そして、用意された平らな地面には、魔術師たちによって巨大な、いくつもの記号や文字を組み合わせた複雑な魔法陣が描かれている。


 エリックたちが到着すると、魔術師たちは一斉に魔法陣を取り囲むように並び、魔法の杖を手に、呪文の詠唱を開始する。


 本職の魔術師たちに比べると大したことはなかったが、いくつかの基礎的な魔法であれば使いこなすことのできるエリックには、地上に描かれた魔法陣が徐々に光を帯び始めるのと同時に、その上で強力な魔力が練り上げられ、1つの目的を果たすための力へと変換されていく様子を感じ取ることができた。


 やがて、魔法陣がひときわ強烈な輝きを放つ。

 その光はやがて地面から浮かび上がり、グルグルと回転しながら中央へと収束していき、最後には一筋の光の槍となって、魔王の城館を守っていた魔法障壁へと叩きつけられた。


 まるでガラスを粉々に砕くような音とともに、魔法障壁が崩れ落ちる。


 それは、魔法障壁の、ほんの一部に穴をあけただけに過ぎなかった。

 何人もの魔術師が入念に準備を行い、力を合わせてもその一部しか破壊できないほどに、魔王城にかけられていた魔法障壁は強固なものだったのだ。


 魔法が発動された瞬間、すべての魔術を使い果たしたのか、幾人もの魔術師たちが気を失ったようにその場に倒れこみ、あるいはうずくまってしまう。

 これ以上、魔法障壁にダメージを与えることは難しそうだった。


 だが、その突破口があれば、攻撃には十分だった。

 人間の兵士はもちろん、破城槌はじょうついと呼ばれる、城門を打ち破るための攻城兵器を突入させることが可能となるのだ。


 エリックは、まだ動かない。

 魔法障壁に突破口をこじ開けても、まだ巨大な城門が物理的な障壁として目の前に立ちはだかっており、今そこへ向かって行っても魔王城の中には入れないからだ。


 代わりに、後方からドラゴンの力を借りて材料を空輸し、組み立てられた破城槌はじょうついが、それを操作する兵士と、城門を破壊する作業の間守りにつく兵士たちを従えて前進を開始する。


 破城槌はじょうついは、太くて頑丈な木材で組んだフレームに、先端を金属で補強された丸太を振り子のように吊り下げたものに、移動用の車輪と、敵から反撃に浴びせられる矢や石から破城槌はじょうついそのものとそれを操作する人員を守るための、三角形の屋根を取りつけた攻城兵器だった。

 攻撃目標となる城門に接近し、何度も、何度も丸太を前後にゆすって城門へとぶつけることでそれを破壊する、攻城戦では比較的よく目にするものだ。


 魔法障壁にこじ開けられた突破口から進入し、魔王の城館を守る城門に破城槌はじょうついと兵士たちがとりつこうとすると、これまで息をひそめていた魔王軍の兵士たちが一斉に城壁の上にあらわれ、反撃を開始した。


 弓による攻撃だけではなく、上から石を落としたり、熱く煮えたぎらせた油を注いだり。

 兵士たちは破城槌はじょうついの屋根に隠れ、あるいは特別に分厚く大きく作られた盾をかまえてその攻撃を防いだが、すべてを防ぎきることはできず、次々と死傷者が生まれていった。


 矢や石による攻撃も悲惨だったが、とりわけ、熱せられた油による攻撃は、凄惨せいさんだった。

 液体である油は、盾で防いでも隙間から兵士たちに襲いかかり、その衣服へと染みこんで浸透し、鎧の下から全身を焼くのだ。

 場合によっては、身に着けていたものの発火点へと達し、炎が吹き出てくることさえある。


 幾人もの兵士たちが熱さにたまらず悲鳴をあげ、地面の上をのたうち回り、やがて動かなくなっていく。


 当然、兵士たちも手持ちの投射武器で応戦するが、城壁の上から攻撃をする魔王軍に対していちじるしく不利だった。


 その戦いの光景を、エリックも、仲間たちも、視線をそらさずに見つめていた。

 魔王軍も決死の覚悟で守っているのだろうが、エリックたちは、それと同じか、それ以上の覚悟でこの場に立っているからだ。


 そしてそれは、破城槌はじょうついで城門を突破しようとする兵士たちも同様だった。

 彼らは全員、多くの犠牲が生まれることがわかっているのに、自らその任務に志願した者たちなのだ。


 兵士たちは多くの犠牲を出し続けながらも、破城槌はじょうついを振り続けた。

 金属で覆われていた破城槌はじょうついの屋根が油で熱せられ、その下の木材が発火点に達して燃え始めても、彼らは破城槌はじょうついを振るうことをやめなかった。


 そして、唐突に、城門の向こうでなにかが砕けるような音が辺りに響いた。

 同時に、これまでビクともしなかった城門が重苦しい音を立てながら動き、ゆっくりと内側へ向かって倒れていく。


 どうやら、扉そのものは強固な材質でできていて破壊されはしなかったものの、門を開閉させるための蝶番ちょうつがいかなにかの方が破城槌はじょうついの攻撃に耐え切れずに破壊されて、固定を失った城門がそのまま倒れていったようだった。


 戦いの行方を見守っていた人類軍の兵士体がどよめき声をあげ、次いで、喜びの歓声が辺りに満ちる。


 エリックは、歓声をあげる代わりに自身の腰に手をやり、聖母から授けられた聖剣を引き抜いて天高くかかげていた。


「我に、続け! 」


 そして、エリックは様々な思いを言葉に乗せて叫ぶと、開いた城門へ向かって駆けだしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ