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・第62話:「魔法学院」

・第62話:「魔法学院」


 エリックは再び残党軍の野営地を後にし、旅立った。

 同行するのは、リーチから情報を聞き出す際に同行したのと同じ顔ぶれだった。


 偵察兵スカウトたちはみな、セリスと同じように、エリックを支援するために働くことが不満であるようだった。

 リーダーであるケヴィンの命令だからしかたなく、という態度を、彼らは隠そうともしなかった。


 エリックは、もちろん、そんなことは気にしなかった。

 エリックと残党軍は互いの利害関係が一致しているために協力関係を結んでいるだけであり、エリックの方も馴れ合いをしようとは思わないからだ。


 エリックたちは表立って対立することはなかったが、互いに友好関係を結ぶようなこともなく、魔法学院に向かって旅をつづけた。


 魔法学院は、聖母の加護の下で人間たちが暮らしているサエウム・テラに築かれた、魔法を学び、研究するために多くの魔術師たちが集まる大きな学校だった。


 似たような学校は他にもいくつかあるが、エリックの故郷にあるものが最大規模のものであり、もっとも有名であるために、[魔法学院]と言ったらそこのことを指していると考えるのが、人類社会での一般常識だった。


 生徒数は、数千。

 多いときは万を数えたこともあったらしい。

 魔術師以外の学園の関係者や出入りの商人、それに連なる人々を含めれば、1つの街と言っても過言ではない大きさになる。


 エリックのかつての仲間、バーナードと同じくエリックに対する聖母たちの裏切りに加担していなかった魔術師のクラリッサは、その魔法学院の生徒ではなく、研究者だった。

 クラリッサは28歳とエリックよりも10歳も年上だったが、それでも、卒業するのが40代になってしまうことも珍しくはない魔法学院を歴代最速で卒業した天才であり、だからこそ、勇者・エリックの旅に仲間として選ばれたという経緯を持つ。


 その豊かな才能からクラリッサは魔法学院からの要請で卒業してもそのまま研究者として残り、高度な魔法研究を行っている。

 魔王・サウラを倒し、魔王軍を滅ぼしたことで役目を終えたクラリッサは、中断していた魔法研究を再開するために魔法学院へと戻ったということだった。


 しかし、クラリッサは、研究室にもっているよりも、外に出て調査や探求をする方を好む性格をしている。

 彼女いわく、「自然に存在している魔力に触れると、新しい発見を得やすい」とのことで、彼女はぶらりと旅に出て、何か月も行方をくらますことがしばしばだった。


 エリックとクラリッサがともに旅をしていた時、勇者のパーティの中で彼女が常に調理担当であったのは、魔術師として薬剤などの調合に詳しいというだけではなく、放浪の旅に慣れており、アウトドアのスキルを身に着けていたためだ。


 のんびりしていては、クラリッサはまた、魔法学院から旅立ってしまうかもしれない。

 そうなってはまた、手がかりが途絶えてしまう。


 エリックはその焦燥感につき動かされながら、しかし、慎重に確実に、魔法学院へと続く道を進んでいった。


────────────────────────────────────────


 旅の間には、なにも大きな問題は起こらなかった。

 どうやら魔法学院のある地域一帯にまで残党軍の偵察兵スカウトたちの活動が行われていた様子で、セリスたちは人間が知らないような間道を知っており、人目につかないように進むことができたからだ。


 そうして数日も旅を続けると、エリックたちは魔法学院の建物を遠望することができるまでになった。


 しかし、最後まで何事もなく、とはならなかった。

 魔法学院まであと少し、というところまで接近した段階で、エリックたちは、魔法学院の周辺で聖母の直属部隊である教会騎士団が活動していることを知ったのだ。


 教会騎士団は聖母個人の身を守るために結成され、聖母に忠誠を誓った騎士たちによって構成されている集団だった。

 当然、彼らは聖母の思惑で動いていると考えてよく、聖母のいる聖都ではなく魔法学院の周辺で活動しているということは、エリックたちを探していると考えるべきだった。


 聖母たちは、エリックが生きているということだけではなく、クラリッサを探しているということまで知っているのだろう。

 エリックがなにもせずに放置したあのリーチの元愛妾から、情報がれたのに違いなかった。


「警備が厳重だし、安全に学院に潜入できるルートはわからない。

 探りを入れて行けばルートも見つけられるだろうけど、それにはきっと、時間がかかるよ。


 エリック。あなたの、父上とやらに会いに行く? 」


 セリスは、やはりあの女を殺しておくべきだったとはもう口にはしなかった。

 そう言いたいのはやまやま、という様子ではあったものの、今はとにかく、与えられた任務を遂行するために動かなければならないと理解している様子だった。


 エリックは残党軍と馴れ合いをするつもりはなかったが、セリスたち偵察兵スカウトのこういう、任務優先で徹底したところには好感を持っていた。


 目的のために個人の感情を抑えて冷静に考えをめぐらし、行動する。

 少なくとも協力関係にある間エリックはセリスたちのことを信頼できるということだったし、なにより、話が早くて助かる。


「ああ。……そうした方が、いいだろう」


 エリックはほんの少しだけ考えて、セリスの言葉に同意した。


 エリックの家、この地域一帯を治めているデューク伯爵の城館は、ここからもうしばらく先に進んだ場所にある。

 エリックたちの位置からはまだその姿は見えないが、魔法学院に教会騎士団があらわれている以上、エリックが姿をあらわすことを警戒して、エリックの家も教会騎士団によって見張られていると考えるべきだった。


 魔法学院とは違って、人目につかずに自身の家に出入りする方法にはいくつか心当たりがあったが、教会騎士団の目がどこまで及んでいるのかを確かめ、どのルートで潜り込むべきかを判断するには、多少なりとも時間はかかる。

 方針は素早く決めて、さっさと動き出す方がよかった。


「ここからは、オレが案内する。

こっちだ。みんな、ついて来てくれ」


 エリックは魔法学院の様子を確認するのに使っていた望遠鏡をしまうと、そう言って馬にまたがり、自らが先導して進み始める。


 この辺りまで来れば、エリックにとっては見知った土地だ。

 普通は通らないような道を進んでも自分がどこにいてどの方向に向かっているのかも見当がつくし、安全にかつ素早く移動することができる。


 それがわかっているのか、セリスたちは大人しくエリックの後に続いてくれた。


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