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・第56話:「裏切り者の運命:1」

・第56話:「裏切り者の運命:1」


 リーチの屋敷の裏口には、鍵がかけられていなかった。

 元盗賊のリーチの屋敷にしてはあまりにも不用心だったが、城壁に囲まれている上に警備の兵士を見張りにつけているために、油断しているらしい。


「大丈夫。……罠は、ない」


 念のため、セリスが先に中を調べて確認したが、なにも怪しいものはないようだった。


 屋敷の中に入ると、正面の側から、リーチたちが宴会を続けている賑やかな声や音楽が聞こえてくる。

 それに対し、屋敷の中は無人で、誰もいない様子だった。


「それで、どこでリーチを待ち伏せるつもり? 」


 内部には誰もいないと知って堂々と通路の真ん中に立ったセリスは、腕組みをしながらエリックの指示を「聞いてやるから、早く言え」とでも言いたそうな態度で待った。


「2階だ。……きっと、リーチの部屋は一番広くて豪勢なものだろうから、すぐにわかると思う」


 エリックは焦らず、少し、リーチの性格を考えながらそう答えた。


 エリックと旅をしていたころのリーチは、おそらく、その本性を巧妙に隠していた。

 エリックたちに見限られてしまえば命が危なくなると思い、必死に改心したふうをよそおっていたのだろう。


 おそらくは、エリックを裏切り、聖母からたんまりと褒美ほうびを受け取って豪遊している今のリーチが、本当のリーチなのだろう。

 強欲で、享楽きょうらくに没頭し、派手に遊ぶ。

 そんな性格のリーチであれば、屋敷の中でももっとも広い部屋を独占し、そこに豪華な調度品を運び込んで、えつに浸っているのに違いなかった。


 エリックとセリスは、罠などの感知能力に長けたセリスを先頭にして、気配を消しながら屋敷の2階へと向かった。

 やはり屋敷の内部に罠などは置かれておらず、その不用心さにセリスが肩をすくめてみせたほどだった。


 そして、リーチの部屋はすぐに見つかった。

 エリックの思った通り、一番広くて、一番豪華な部屋だった。


 部屋の中央には、天蓋てんがいつきの、豪華な装飾が施されたダブルベッド。

 周囲に配置されたイスやテーブル、棚なども、すべてリーチ好みの派手なものでそろえられており、金箔で飾られ、明かりが灯されていればきっと光り輝いて見えただろう。


「ぅへぇ……。こんなところで、暮らしているの? 」


 セリスは心底嫌悪するような顔と口調でそう言ったが、リーチは、実際にここで暮らしているようだった。

 部屋の中は散らかっており、リーチの衣服や酒瓶などが無造作に転がっていて、生活感がある。


「リーチは、その内戻ってくるはずだ。……それまで、隠れて待とう」


 セリスにそう言ったエリックは隠れられそうな場所を見つけると、その中に隠れる。


 そして、エリックは、自分の剣の柄に手をかけながら、今か、今かと、リーチがやって来るのを待ちわびた。


────────────────────────────────────────


 リーチが戻って来たのは、エリックたちが部屋に隠れてから30分ほどしてからのことだった。


 部屋に戻って来たリーチは、右手には酒瓶を持ち、左手はお気に入りの愛妾の腰に回されている。


「ウハハハハ! 今夜も、たぁっぷり! かわいがってやるぞぉ! 」

「あら、リーチ様ぁ? お手柔らかにねぇ? 」


 酔っぱらって顔を赤くしているリーチはだらしなく鼻をのばし、愛妾はそんなリーチをおだてるようにしながら、ぴったりとリーチによりそっている。


 2人は、エリックとセリスが隠れていることに、まったく気づかない。

 エリックが生きて、復讐ふくしゅうのためにリーチを探しているなど、少しも考えつかないことなのだろう。


 2人並んでベッドに腰かけリーチは、愛妾と同じ酒瓶から酒を飲みかわし、それからベッドの上に愛妾を押し倒した。

 そしてリーチは、愛妾の身体をむさぼるように愛撫し始める。


 見るに堪えないような光景だったが、エリックは隠れたまま、じっと屋敷の外の様子をうかがった。


 徐々に騒がしくなり始めている部屋の中と違って、屋敷の外は静まり返っていた。

 賑やかに宴会を楽しんでいた人々はみな寝てしまったか、解散してしまったようで、エリックとセリスが忍び込んでいることには少しも気づいていない様子だった。


 また、外で待機している他の偵察兵スカウトたちからも、異変を知らせるような合図はない。

 今なら、思う存分、リーチと[会話]ができそうだった。


 エリックが気配を消したまま隠れていた場所から忍び出ると、セリスも同時に隠れていた場所から姿をあらわす。

 そして2人は、ゆっくりと静かに、それぞれの武器を鞘から引き抜く。


「まっ、待って! リーチ様! 待って、後ろに! 」

「ああん? 今さらそんなに嫌がったって、遅いのよ! ぐっふふ、イヤヨイヤヨもイイヨの内、ってなぁ! 」


 エリックとセリスの姿に気づいた愛妾が必死に叫んだが、行為に夢中のリーチはそれに少しも気づかない。


 そんなリーチの背中に自身の剣を思い切り突き刺したいという衝動に必死に耐えながら、エリックはリーチの首筋に刃を突きつけていた。


 その、金属の冷たさを首筋に感じ、リーチはぴたりと、動きを止める。

 一瞬で熱情は冷め、酔いも消えて、リーチの額を冷や汗が伝った。


 そんなリーチに向かって、エリックは、これまでに発したことがないほどに冷たい声であいさつをする。


「ヨオ、裏切り者のリーチ。……お前に会うために、はるばる、地獄の底から戻ってきてやったぞ? 」


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