・第51話:「話し合い:1」
いつも熊吉の作品をお読みいただき、ありがとうございます。
あらすじでも申し上げております通り、本作は、カクヨム様にてコンテストに参加させていただいております。
同コンテストでは読者様による評価も結果に加味され、その期間は2月7日までとなっております。
熊吉も、他の多くの作者様と同じ様に、真剣にやらせていただいております。
高評価、ブックマーク等、カクヨム様でしていただけることが一番望ましいことではありますが、この期間の間だけでもいいので、カクヨム様の方でお読みいただけるだけでも、助けになります。
熊吉を応援してもいいよと思ってくださる読者様がいらっしゃいましたら、ぜひ、ご協力、よろしくお願いいたします。
これからも、精一杯にやらせていただきます。
・第51話:「話し合い:1」
その魔王軍の残党の野営地には、平穏さがあった。
だが、すぐに、そこが戦時にあり、戦いに今も備え続けているのだということがわかる。
牢獄からケヴィンたちが待っている本営までの道のりには、いくつもの残党軍の備えがあった。
地面を掘って谷を区切り、土を盛ってその上に丸太で城壁を組み、門をと簡易な作りの見張り台を設けた防御施設が、谷の出口方向に向かって何重にも作られている。
左右の谷の岸壁にも、弓などを持った射手を置いて狙撃できるように台が作られており、今も残党軍の戦士たちが配置についている。
加えて、頭上には綱が幾本も渡され、その上にカモフラージュのために植物などが重ねられたものが作られていた。
普通、城を作るのであれば、高いところを選ぶ。
高所は周囲への見通しがきき、迫って来る敵軍をいち早く発見して応戦準備を整えられるほか、上から下に向かって射撃をする方が命中率も威力も高まるし、城に向かって登って来る敵を疲れさせることだってできる。
谷底に作るというのは、本当に珍しい。
谷底に作られた拠点というのは、もし、谷の上側を敵軍に占拠されてしまい、上から火をかけられたり、生き埋めにされたりしてしまえば、どうすることもできないからだ。
だが、エリックには、残党軍がどうしてこの場所を拠点としたのかも理解できた。
それは、人類軍の強力な戦力である、竜たちを恐れているからだ。
人類軍は、飛竜や炎竜などを飼育して調教し、空から攻撃できるように部隊を編成しているが、こうやって谷底に作られた拠点で、しかも頭上に綱をいくつも渡しておけば、飛竜たちは自由に谷底まで降りてくることができない。
魔王軍が敗れたのは人類軍による衆の力だったが、人類軍が配下に置く竜たちの力も大きかった。
魔王軍には空を飛ぶ魔物もいたが、飛竜の方が飛行能力は高く、結局、いつも空の戦いでは魔王軍は敗れ、上空から人類軍による攻撃を一方的に受けて、全体の敗北にもつながっていった。
セオリー通り高所に拠点を設ければ、それは、竜たちによる攻撃の絶好の的になってしまうだろう。
だから残党たちは、いくつか不利があることを忍んで、谷底に拠点を作っているのだ。
もちろんそこには、カモフラージュをすることで人類の討伐軍の目から逃れやすいと言った理由や、生きていくのに欠かせない水が豊富に得られるなどの理由もあったはずだ。
セリスの案内で本営へと向かっていくエリックは、素直に感心していた。
少なくとも残党軍は彼らなりの戦い方というのを心得ているようだったし、セリスが言うように、少しもあきらめてはいない様子だった。
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「やぁ、エリック殿。よくぞ参られた。……顔色も、かなり良くなったようで、なによりだ」
本営の幕舎に入ると、そこで待っていたケヴィンは立ち上がってエリックのことを出迎えてくれた。
そこは、数人が集まって会議をすることのできる、広い幕舎だった。
中央には地図などを広げることのできる、手作り感の強いテーブルがあり、それを取り囲むように、2人と1体がエリックとセリスがやって来るのを待っていた。
中央、奥にいるのが、この残党軍のリーダーであるケヴィン。
その右側には、リザードマン。
そして左側に、エルフの魔術師。
地下牢獄にまでエリックと話しに来たことのあるこの2人と1体が、この残党軍の最高幹部であるようだった。
「おかげさまで、かなり体調の方は回復しました。……武器をお貸しいただければ、いつでも、聖母たちと戦えるほどに」
幕舎に入ったところで立ち止まり、礼儀正しく一礼し、きちんと敬意を込めた言葉でケヴィンに答えると、その場にいる全員に聞こえるような大きさで魔術師とセリスが舌打ちをした。
「話し合いの前に、まずは、紹介しておこう。
こちらのリザードマンは、ラガルト。魔物たちの統率をしてもらっている。ベテランの戦士で、将軍だ。
それから、こちらの魔術師は、アヌルス。俺と同じくエルフで、魔法的なことを担当してもらっているほか、助言者として頼らせてもらっている」
エリックのことを「少しも歓迎していないぞ」という雰囲気を作り出す魔術師とセリスのことを無視して、ケヴィンはそう言ってようやくエリックに魔術師とリザードマンのことを紹介した。
ラガルトと呼ばれたリザードマンは一応、軽く会釈してエリックに挨拶したが、アヌルスの方は冷ややかな視線を向けて来るだけだった。
どうやら、エリックへの憎しみは、相当に根深い様子だった。
「まず、話し合いたいのは、どうやってエリック殿と魔王様を分離するか、ということだ」
エリックとセリスに手ぶりでイスを勧め、2人が着席するのを確認すると、ケヴィンはそう言って用件を切り出す。
エリックがこの場にいることを不満に思っている者がいることなど無視して、さっさと話を進めてしまうつもりらしかった。
「それについては、考えていたことがあります」
エリックと魔王・サウラを分離することは、[勇者と魔王の力を同時に手に入れる]というケヴィンの目的に沿ったことだったし、エリックの望みでもあった。
同じ、聖母と敵対する立場になったとはいえ、エリックにとってサウラはやはり、共にいたいと思う存在ではないのだ。
アヌルスやラガルト、セリスたちが、エリックへの嫌悪を隠そうとしないのと同じように。
だが、エリックとサウラが分離するには、問題があった。
そうするための方法がわからないということだ。
アヌルスは以前、そういった魔法には心当たりがないとはっきりと断言していたし、エリックがあてにしていた聖母には、もう頼ることはできない。
まずは、エリックとサウラを分離する方法があるのかどうか、あるとすればどんなことをすればいいのかを知っている誰かを探す必要があった。
「ほぅ? 考え、とは?」
ケヴィンは興味深そうに身体を前に乗り出し、アヌルスもラガルトもエリックに視線を向け、背後からはセリスの視線が向けられる。
その場にいた全員からの注目を集めながら、エリックは小さく深呼吸すると、地下牢獄にいる間、必死に考えた、頼れそうな者の名前を口にする。
「クラリッサ。
オレと一緒に旅をした、優秀な魔術師だ。
今、頼れるとしたら、彼女しかいない」